キャンディ

コノチャ♀
https://www.pixiv.net/novel/series/12007385
色々なプロット切り貼り詰め合わせの話。
時系列としては新AA完成直前くらいで、C.E.76の一月とか。付き合いはじめて半年経ってないくらいのまだ初々しい時。



 護衛ロボのハロを連れ、軍服姿で部屋にやってきたチャンドラは勤務上の呼び出しだと思っていたのか敬礼して部屋に入ってきた。
 早速体調について問い詰めたところ、ここ数日喉の痛みと若干の発熱という風邪症状があり定期的にのど飴を舐めて喉を潤していたことを白状した。
「どうして黙っていたんだ。体調が悪いのに仕事をするなんて」
 ナチュラルの体調不良についてはいまだに慣れない事も多く、コノエにとって不安が大きい。するとチャンドラは少し困ったように言う。
「このくらいなら休む必要はありません。ナチュラルはそんなもんです。のど飴があれば声も出るし仕事にも支障無いです」
「支障はあるだろう。休んだ方が回復も早い。今は人員も確保されているし君ほどのオペレーターがいなければ回らない現場も少ない 。そもそも訓練なんていくらでも延期できる」
「延期って新しいアークエンジェルの立ち上げもそろそろ始まるし他にも仕事は山のようにあるんで今休むのはムリです。本当にこのくらい全く問題ないんで気にしないで下さい」
「しかし、悪化する可能性も」
「過保護
 チャンドラは少し拗ねたように小さく呟く。
 自分より仲間を優先するし、そのために無理をおして仕事をしたがるチャンドラには、コノエの心配が迷惑がられてしまったようだ。しかしコノエの不安も理解してもらいたい。
「そんなんじゃない。ナチュラルの風邪を甘く見てはいけないと医官も言っていた」
「本当に大丈夫なんですよ。季節の変わり目はいつもだし」
「尚更ダメじゃないか」
「平気です」
「何日か休みを申請しなさい。シフトの調整はする」
「あーもう、大丈夫って言ってます」
「ダリダ、これ以上わがままを言わないでくれ」
「わがままってそんなんじゃないんで。そっちこそ過干渉です」
 少し強めの語気で心配を拒絶され、挙句に過干渉とまで言われたらコノエも流石に癪に障る。恋人の身体が心配だからこそのお願いなのに、コノエよりアークエンジェルクルーを優先されたようで面白くない。
「まだ言うのか。なら上官として命令するしかないな」
「あんたは直属の上司じゃないでしょうが! ラミアス艦長の指示じゃないと聞きません!」
「ダリダ!」
 ついカッとなって少々声が大きくなってしまったが、チャンドラも一歩も引かずに言い返してくる。
「忙しいのにどうでもいい事で呼び出さないで下さい。ったく、心配しすぎでしょ」
 視線を逸らされ吐き捨てるように言われて、更に腹立たしい。
「でも、急に熱が上がったりすることも
「もういいって! 忠告は感謝しますが聞き入れられません! では失礼します!」
 雑に敬礼をしてさっさと出て行こうとするチャンドラ。このまま行かせたら休んでもらえないと、とっさに左手首を掴んで引き留めた。
「待ちなさい!」
「ぎゃっ!」
 コノエがチャンドラの手首をぐっと掴んだ瞬間、大きな声を出された。
「え」
「イッ! やめっ、痛い!」
「ダリダ?」
「離せ!」
 涙目のチャンドラに怒鳴られてパッと手を離す。チャンドラはそのまま数歩後ずさって床にしゃがみ込んだ。
 コノエが掴んだ手首をもう片方の手でさすり、胸の前に抱き込むように庇う。
「いっつっ
「ダリダ?」
 思ってもみなかった反応をされ、不安になって手を伸ばすと、チャンドラの身体がビクッと震える。そんな大袈裟にに怯えなくても、と思うがチャンドラは額に汗を浮かべて深呼吸している。
「うっんっ
「どうした?」
「あの、まって、さわんないでくださ
 尋常じゃない汗、眼鏡越しにもはっきりわかるほどに涙で潤む瞳、震え声にただ事ではないと察する。
「何なんだ」
「いや、なんでもない、です、けどっ
 一切コノエと目を合わさずに、チャンドラは呟くがこの様子で何でもないわけがない。
「見せなさい」
 コノエはチャンドラが胸の前に抱え込んでる手を無理やり掴んで軍服の袖を捲り上げて確認した。
「いっ、たぁ! んぁやっ!」
 チャンドラの悲鳴。見れば先程コノエが掴んだ手首には指の形に赤黒い鬱血の痕があり、コノエの喉奥でヒュッと息が詰まる。
「ひっやだ、もう、やめて
「あっ
 とうとうボロ泣きで言われてパッと手を離した。
「す、すまない。傷つけようとしたわけではない。信じてくれ」
………わ、かる、けど。痛いバカぢからすぎです多分、これ、まずい痛み方してますっ
 涙がとまらないチャンドラが僅かに顔を上げてへらりと口の端を上げて言った。明らかにコノエが悪いのに、無理やり笑って大したことのない怪我だとアピールしようとしているのがわかって罪悪感に呼吸が浅くなり、心臓がバクバクと忙しない。とにかく、一刻も早く医務室に行かねば。
「急いで医務室に。運ぶよ」
「えっ? 大丈ぶ。わっ!」
 拒むチャンドラを横抱きにして艦長室を出た。通路を走って進む間も、チャンドラはコノエにもたれかかってこないし、全身に力が入っている。コノエが触れてこんなに緊張させたのは初めて抱いた時以来だ。

 ナチュラルの医療経験のある医官が勤める医務室に入って診せたところ、手首を強く掴んだせいで圧迫による広範囲の鬱血、骨には僅かにヒビが入っているという診断が下された。
「骨折しています」
「こっ?」
 医官から告げられた診断結果に愕然とするコノエ。渡されたタブレット端末に表示されるレントゲン画像。鬱血の痕は写真に撮られてそれも改めて見せられた。紛れもなくコノエのしでかした事だ。
「正確には骨にヒビですが。艦長が中尉の手首を強く掴んだということでよろしいですか?」
「そうだ私が
「中尉からの聞き取りを行いましたが、艦長のせいではないと言っています」
「そんなことはない。私がやった」
「艦長を庇って虚偽の証言をしているということですね。本件はハラスメント規定に則り本部に報告をあげる事案と判断しました。ミレニアム医官の権限によりコノエ大佐にはチャンドラ中尉との接触を禁止します。今後は本部からの通達に従うようお願いします」
 処置室に入れられたチャンドラに面会出来ぬまま、医官に言われコノエは医務室を追い出された。



 いつの間にか戻って来てきていた自室で呆然と立ち尽くしている。
 なぜあんな酷いことをしたのか、自分が信じられない。自分はコーディネイターだし、彼女はナチュラルで、身体能力の差が大きいことはわかっていたはずだ。
 ついカッとなって力加減を誤り怪我を負わせるなど。骨折なんて大怪我だ。取り返しのつかないことをした。抱き上げた時も震えていたし、痛みで泣いていた。
 コノエの方を見ないように視線が逸らされてあの青い瞳はもう自分に向けられることはないのかも。笑いかけてもらえないかも。
 ぞわりと背筋が震えた。
 チャンドラと別れるなんて、そんな。
 罪悪感と絶望でその場に立ち尽くしていたら、端末に連絡が入った。音声通話の着信音に急いで発信元を確認する。
 端末のディスプレイには「マリュー・ラミアス」と表示されている。このタイミングで彼女からの着信と言うことは、ミレニアム医官の報告が彼女の元に上がったのか。思ったよりもずっと早い。
 ともあれ、ラミアスからの叱責もチャンドラからの叱責も受ける覚悟は決まっている。気が済むまで罵ってもらいたいし、同じかそれ以上の怪我を負わされても良い。コノエに出来ることは何でもするから許して欲しい。
 急いでデスクの椅子につき固定の端末で通信を受けた。

「ラミアス大佐、チャンドラ中尉の話でよろしいでしょうか」
「え、ええ。そうです」
 食い気味に本題に入ると驚かれたが構わず問い詰めた。
「中尉はどうしていますか? 私は接触禁止で今どうしているのか知る術がありません」
「あぁ、中尉の言う通りですね」
「彼女は何と?」
「コノエ大佐は悪くないのに大変な事をしてしまったと中尉に泣きつかれました。あんなに焦ったチャンドラ中尉を見たのも久しぶりです。なので、あの子に免じてあなたのことを信じます。故意に中尉を傷つけたわけではないのですよね?」
「当然です!」
「ミレニアムの医官からの報告は本部に上がる前に私の方で処理しておきます。それと、いくらチャンドラ中尉が許しているからと言ってあなたは健康なコーディネイターの男性で、一般人より鍛えている軍人ですので、ナチュラルの身体は思ったより華奢で繊細なものだと注意して行動して下さい。彼女はナチュラル女性の中でも標準より小柄ですし尚更です」
「はい
「喧嘩の理由も聞きました。風邪気味のチャンドラ中尉を心配してくださったそうで」
「はい。彼女がずっと喉の痛みを我慢していると知って、心配で」
「それはありがたい事ですがなぜチャンドラ中尉が風邪を引いたか考えたことがありますか?」
 やや困ったように首を傾げるラミアスに問われて初めて何故か。と理由を考えた。単純にナチュラルだからとしか思っていなかった。
「コーディネイターはナチュラルほど感染症対策に関心がおありでないのは仕方のないことだと理解していますがチャンドラ中尉はあなたほど病原になり得るものに耐性がありませんので、あなたにもナチュラルに準じた感染症対策を行なっていただきたいですわ。つまり、あの子に触れる前に手洗い、うがいにアルコール消毒です」
「あっ
 ラミアスに「チャンドラに風邪をひかせる病原を媒介しているのはお前だ」と暗に言われ激震がはしる。 その後のラミアスの言葉が頭に入ってこないくらいの衝撃だった。
 自分がチャンドラの体調不良の原因だった上に、その事で口論になり、大怪我をさせた。
 コノエは死にたいほどの後悔というものを初めて経験した。