しちろ
2024-02-14 16:13:37
19658文字
Public LOM・宝石泥棒編
 

宝石泥棒編 7

『コスモ』あと。瑠璃が寝込んでいる時期の話。


おまけのはなし

ちいさな騎士たち

 双子と真珠姫が留守を預かるマイホーム。
 今日も朝から、バドは訓練に励んでいる。師からの課題、独学の魔法に、読書も。
「バドくんってがんばりやさんね」
 顔を真っ赤にしながらフルートに息を吹き込むバドを眺め、真珠姫がおっとり微笑んだ。
 それに対し、姉のコロナは相変わらずの白い顔だ。
「大魔法使いになるんだってさ。七十三年後に」
「コロナちゃんは、信じていないの?」
 俺は大魔法使いになる男! それも自称ではなく、大地の顔ガイアのお墨付きだと、バドは常々言い張っている。
 けれども、コロナはポニーテールを揺らし、ぶんぶんと首を振った。
「信じてない」
 言って、コロナはぶうと頬を膨らませる。
「だって、あのおっきい岩! 何でも教えてくれるっていうから、マスターと会いに行ったのにさ。私が金縛りで困ってるって言ったら、自分も生まれてこの方ずっとここに金縛りじゃ、あなたも岩になればわかるでしょう、だもん! 私はとっても悩んでるのに!」
「あらまあ……
「だから私は、賢人の言うことなんて眉唾物だと思ってるわ。バドは賢人を全員探す! なんて言ってるけど、またテキトーなこと言われて、調子に乗って帰ってくるのがオチよ。姉の私の身にもなってほしいわ」
 バドはすっかりその気らしいが、姉は辛辣だ。
「バドくんなら、きっとなれると思うわ。だってあんなにがんばってるんだもの」
 私は、世の中そんなに甘くないと思うけどなぁ。コロナは言う。
「だって、ジオに行ったらこんなにすっ……
 めいっぱい、ためる。
……っごい魔法使いが、たーっくさんいるんだもん! バドなんて、学校の成績だって下から数えた方が早かったくらいよ」
 学校の課題をやらないで、本ばっかり読んでいたからだわ。それも、ヒーローが活躍するおとぎ話みたいなの。
 ぶつぶつこぼしたコロナは、言葉の最後で肩をすくめた。
「バド、ああみえて本当は、サボり癖あるの。だから、カイさんがいないときは、姉の私がしっかり見てやらないとね」



「いい、二人とも! マイホームの留守を守るのも大事な役目ですからね!」
 コロナはきびきびした口調でバドと真珠姫に命じすと、率先して家事を片付けていく。
 言われたとおりに床を箒ではきながら、真珠姫は感嘆した。
「コロナちゃん、しっかりしてるなあ。わたしよりずっと小さいのに」
 すると、はたきを手にしたバドがこんなことを言った。
「でもコロナ、あれでものすごく泣き虫なんだぜ。さみしがりやで甘ったれだしさ」
「そうなの?」
 バドとケンカして二人とも大泣きしているのは、真珠姫も見たことがある。涙も子ども同士のケンカも初めて見た真珠姫と瑠璃はどうしていいかわからず、みっともなく慌てただけだった。
「姉さんだからって気を張ってるだけなんだ。ホウキをなくした時だって、大泣きだったんだぜ。床にべったりしゃがみ込んで、こんな風に足バタバタさせてさ~。だから、いざって時は俺がしっかりしないとな。男だからさ」
 ちょっと大人びた顔をして、バドはへへんと鼻の下をこする。
 コロナはバドを、バドはコロナを。小柄な真珠姫よりもずっとずっと小さな手で、互いが互いを支え合っている。
「バドくん、コロナちゃんの騎士みたい」
 にこりとして真珠姫が言うと、バドはえへんと胸を張った。
「マイホームの、珠魅の騎士、ってか? 瑠璃のお兄さんが帰ってきたら、剣でも習ってみるかなあ」
 バドははたきを構え、しゅしゅしゅと突きを繰り出した。カイの特訓の賜物なのか、これが意外なほどいい動きだったりする。
「うーん、でも剣は俺の柄じゃないなぁ。やっぱり派手でカッコいい大魔法が使えないとさ!」
 バドの大声が聞こえたらしい。
 鬼の形相でコロナがキッチンから出てきた。
「ちょっとぉ、バド! はたきで遊ばないでよ! せっかく掃除したのに埃が飛ぶじゃない!」
「うわぁ、うっせえ! 鬼! 鬼コロナ!」
「なんですってえ! バカバド! きいいい!」
「ああっ、コロナちゃん、バドくん! だめよ、けんかしちゃ」
 真珠姫がマイホームに身を寄せてから、子どものケンカの仲裁も、すでに数度。
 真珠姫はホウキを片手に、慌てて双子の間に割って入った。

 



『レイチェル』

 まだ世界が静けさに満ちていた、とある、夏の日。
 店の手伝いをしていたレイチェルが見つけたのは、翡翠色のたまごだった。それは、入荷品を収めた木箱の隅っこに、忘れられたようにころんと入っていた。
 なんとなく惹かれたレイチェルが拾い上げると、
「ああ、それかい? 仕入れの品に混じっていてね。綺麗だろ?」
 買うつもりはなかったけどなんとなく気に入ってね、と父のマークが笑った。
「これ、お店に出すの?」
「そうだねえ、それでもいいし、綺麗だから部屋に飾るのもいいかなと思ったんだけれど……。もし値段をつけるなら、いくらだろう」
 父の言葉を聞きながら、レイチェルはたまごをのぞき込んでみた。

 翠の石で作られた、ふしぎなたまご。
 その美しさだけを愛でる者には、ただの石。
 けれども新しい世界を求める者には、扉を開く。

……お父さん。このたまご、私が買ってもいいかしら」
 レイチェルが言うと、マークは目をまん丸くした。
 それから、白い歯を見せて大仰に笑ってみせた。
「もちろん、もちろんさ! そんなに気に入ったのなら、遠慮しないで持っていきなさい。お金なんかいらないよ」
 マークはやけに喜んだが、そんなに大げさなことを言ったつもりは、レイチェルにはなかった。
 もらったたまごはポケットに入れて、自室に戻った。
 机の引き出しを、そっと開ける。
 中に入っているのは、時間をかけて集めている材料、ナイショの工具。
 それから、誰にも見せたことがない自分だけの、秘密の設計図。

 まだ見ぬ出会いが、今までと違う世界が、このたまごを得た先に、あるような気がした。
 




さいごのなみだ

(男主現役時代の、たぶんラスト周回あたり)

 連絡もなく自宅に押しかけてきた尋ね人は、二人の友人だった。
「二人とも……なに、これ」
 少年が何かを言う間もなく、騎士が少年の胸元になにやら押し付けた。
「持ってろ」
 渡されたのは、手のひらに収まるほどの、小さな革袋だ。
 少年が開けてみると、中身は二粒の小さな宝石だった。少年がわずかに眉根を寄せる。……わざわざ命を削って?
「俺は珠魅じゃない」
「いいから!」
 少年が返そうとすると、騎士は有無を言わさぬ態度で押し返す。
「珠魅じゃない? ああよく知っているさ。アンタは人間だ。どこをどうみても100%人間だ。そのくせ珠魅のオレたちよりよっぽど石みたいなツラしやがって」
……
「アンタが自分をどう思っているか知らんが、アンタは涙を流せる人間だ。涙石 これはアンタが流させた。それを忘れるな」
「だから、おねがい。もっていて。あなたが自分を信じられなくなったときに、そのことを思い出せるように」