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豆炭々炬燵
4527文字
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ダンダダン
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【タボ星】一等席
ターボババアと星子さんのお話詰め合わせセット。ノリと勢いでどうぞ。
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先約
妖怪に宇宙人、奇々怪々で独創性の濃度が高い一筋縄ではいかぬモノたちの溜まり場。
常に楽しげな笑い声響く境内が寝静まる人ならぬモノたちが蠢き這いまわる夜半過ぎ。
出穂期に差し掛かった田んぼを風が駆け抜けるたび草が擦れ揺らめいた。緑の風に紛れ近付く澱んだ霧が星子と共に寝ていた老婆の意識を眠りの淵から呼び起こす。
眠気眼を擦り寝惚けた頭で家に満ちる気配を探る。すぐ間近で聞こえる星子の穏やかな寝息、二階の部屋で腹を出して大口を開け寝ているモモに至っては起きる気配が毛頭ない。
自分が布団から抜け出した分だけ掛布団を星子に掛け直したターボババアは迷いのない足取りで玄関を潜り抜けた。
カラカラと音を立て玄関の戸を閉め空を仰いだ。月も星もない墨汁をぶちまけた実に在り来りでナンセンスな空に大きな溜息を吐き、自分が住むようになってから札が貼られなくなった鳥居に歩を進める。
等間隔で置かれた石畳を歩幅の狭い足で跨ぎ、鳥居はおろか家の中にすら札を貼らなくなったお陰で24時間年中無休招かねざるモノたちが引っ切り無し訪れるようになってしまった鳥居の前で仁王立ちをした。
髭を生暖かい嫌な風が揺らす。
騒がしい蛙の大合唱はおろか稲や木々がざわめき声が突如一斉に途絶え、その代わりと云わんばかりに境内の前に伸びている道に一本足の何かが音もなく現れた。見た目こそ案山子に酷似する其れは異質な威圧感を放ち、子供が描いた落書きのような目で腕を組み仁王立ちをしている招き猫を睥睨した。
「帰れ三下があ」
テメエ程度では話にならん。しっしっと軽くあしらうターボババアの周囲を案山子もどきの声なき声が憤怒を隠さずに震わせる。地震と大差ない揺れは何故か家の中で寝入っている二人を起こせないどころか益々睡眠を深くしていった。
「言っただろ」
漆黒の世界がおどろおどろしく夥しい朱色によって暴力的に塗り替えられる。
「帰れクソだらあ」
愛嬌のある瞳が悍ましいターボババア本来の瞳に化け、小さき身体を中心に吹き出す殺意が暴風となって案山子もどきを力づくで地面と濃厚な口付けを強制的に交わせさせる。地面にめり込むのに合わせ何かが軋む鈍い音が静かな田園風景に響き渡る。
傲慢と偏見、驕りによって舐め腐っていた身の程を知らぬモノに近付き、見下ろすターボババアの剣吞とした眼光が厭らしく三日月を描いた。
「アレはワシが食い殺す。誰にも渡さん」
確かに聞こえた案山子もどきが悲鳴を飲み込む情けない声が三角の耳を震わせたのとほぼ同時に立ち込めていた異質な霧が霧散する。
後に残るはいつもと変わらない穏やかな田園風景のみ。喧しい音が出張から帰り緑の絨毯を気持ちよく駆けて行く風を見送ったターボババアは欠伸を噛み殺し、いそいそ先程の行動を逆再生しては狸寝入りを決め込んでいる星子の布団の中に潜り込み目を閉じたのだった。
「ハードチップル寄越せやクソが」
「そこの棚の上にあんだろ。お前えの目は節穴か」
売り言葉に買い言葉。さして、本気ではないお約束染みた受答えを済まして棚の上に置かれていたお徳用サイズハードチップルの袋を掴み軽快なステップを刻み居間に腰を下ろした。
いっそ鼻歌でも聞こえそうな程、喜びに溢れていたターボババアが袋の裏側から変な気配を感じ取り裏返した瞬間、キュウリを背後に置かれ振り返った猫が飛び上がる面白映像よろしく飛び上がった。
「テ、テメエ!! 喧嘩売ってんかあ!?」
見事着地を決め縁側で煙草の紫煙を薫らせている星子に詰め寄る。
それもそのはず、袋の裏側に張られた札の威力はターボババア自身身を持って味わいに味わい尽くしていたからだ。
招き猫の手で星子の腹巻を限界まで引っ張り抗議するターボババアの手を振り払い、縁側から下りサンダルを突っ掛けた星子にまだ話は終わっていない、と云わんばかりに彼女の後をトテテと追う。
頭に血が上っていたのもあった。知らず知らずのうちに円の中に入った挙句、外側に護符釘が打ち付けられている檻の中にまんまと入ってしまったのを、いつの間にか星子が肩に背負っている金属バットを視界にいれ漸くターボババアは今自分が置かれている現状に気が付いた。
なんと忌々しいかな。星子と初めて出会った時を彷彿させ当時の殺意が湧き上がる。
「クソババア!!」
円の中で地団太をぽふぽふ踏む招き猫から発せられるダミ声。
地の底から轟き燃え滾る怒りの炎を星子が軽く手で振り払い、以前とは逆に腰を屈めターボババアと可能な限り視線の高さを合わせ、煙草を銜えたまま浅く息を吐いた。
「もうお前えには効かねえよ」
嘘を吐くな、と言いかけた衝動が星子の強い眼差しに勢いが消え──、黒い線の外側へ恐る恐る手を伸ばす。見えない境目を通り越し燃えない小さな手を見下ろした視線をそのまま自称美魔女に投げかける。
「つーわけだ」
興味なさげに腰を上げ縁側に戻っていく星子の背中が「気が済んだか」と語り掛けている。
ターボババアの細められた目が遠のく背中を目で追い、もう一度輪の中に戻り出てみたがやはり身を焼く炎が出る事は無かった。これが何を意味するのか問い詰めるのは簡単だ。
だが、ターボババアは何てことのないように家の中に戻るなり素知らぬ顔して煙草を吹かしている星子の隣でハードチップルの袋を開けニンニク臭を振り撒き食べ始めたのだった。
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