【タボ星】一等席

ターボババアと星子さんのお話詰め合わせセット。ノリと勢いでどうぞ。

これからの当たり前




窮屈な人形に無理やり押し込められ屈辱塗れの日々を過ごすなんて真っ平ごめんだ。忌々しい奴らの寝首を搔く爪はいつだって万全に研ぎ澄まし、一日たりとも研ぎ損ねた日は無い。

──ぐぅ

無機物にも拘わらず久方ぶりに聞いた腹の音。随分と丸くなった手で招き猫たる【千万両】の大判付近を擦る。
小指の先程度の驚きがスパイスになってターボババアの愛嬌ある目を数回瞬かせた。如何せんこの年になって驚く事自体が稀の稀。大概慌てふためかずにドンっと構え受け止めるというもの。

「空腹を覚えるなんていつ振りだらあ」

此処までくれば感動の領域に片足を突っ込むのもさもありなん。
眼前に横たわる光景は何もかも背が伸び上下左右に広がっていた。
勝手気まま家の中を探索し終えたターボババアが居間にふらり立ち寄れば、座布団が二枚と小さな子供用の椅子が角座卓に置かれ座る者達が来るのを待ち侘びた様子でそわ付いていた。
物持ちがいいのか手入れが行き届いているのか。細かな傷はあれど天井が映り込むくらいピカピカな天板の上にまごう事なき三人分の夕飯が並べられている。

「物置から引っ張り出してきた。まるで新品並みの綺麗さだろ」
「んなワケあるか」

咄嗟に口から出たターボババアの否定的な言葉を浴びても星子は全く意に介していない。
淡々と各席の前に箸と取り皿、こと子供用の椅子の前には先端が丸い子供用のフォークと持ちやすい小さな取り皿を置いていく。
短い腕を組みそっぽを向いたまま猜疑心たっぷりの眼差しで子供用の椅子とフォークを値踏みする。お世辞にも新品とは到底言えない、言えないが角座卓よりも思い出が詰まっているであろう椅子とフォーク、取り皿から感じる大切に大事に使われていた温もりに組んでいた腕を解いた。
埃ひとつない子供用の椅子のクッションは柔らかで中々如何して座り心地が良かった。子供用のフォークも小さく丸い手に丁度良く馴染み持ちやすい。

「どうにも捨てられなくってな」

キャベツの山を取り囲む大量のエビフライが乗せられた大皿をそっと角座卓に置いた星子の眼差しが情景の色を帯びる。そこかしこにあるモモと過ごした記憶が犇きあう家の中より格段に色鮮やかで賑やかな、時に苦労したであろう思い出に耽っている姿にターボババアは何か皮肉めいた事を言おうとした口を薄っすら開けた状態で彼女を無言で眺めていた。

「お腹へったーっ」

賑やかな気配が軽い足音を立て二階から下りて来るや否や昔自分が使っていた物をびしっと指差した。

「あっ! 私の子供の頃の! まだ残ってたんだー」
「な、なんだらあっ」

文句でもあるのか。そう狼狽え吠えようとしていたターボババアの目がすわ満月の如くまん丸に見開いた。

「また使えてもらって良かったじゃーん」

嫌味も何も無い。屈託のない純真無垢な年相応の笑顔。馬鹿にされない状況に啞然としている内にモモは座布団の上に座りかけ「タルタルソース持ってこよ」と立ち上がるなり星子と入れ替わるかたちで台所へ向かう。
星子は盆に乗せた三人分の御飯と味噌汁を各席の前に並べ、何てことないようにターボババアの手でも取りやすい位置にソースを置いた。

「ほれ。たんと食え」

自分の座布団に座るなり口にかっ込んだ白米を味噌汁で流し込み、揚げたてサクサクなエビフライを三口で食べる星子から視線を眼前に戻したターボババアは先端の丸いフォークでエビフライを刺し頬張った。
途端、口の中に満ちる”味”につるりとした目が輝き年甲斐もなくその日の夕飯は長い永い昔に置いてきた人の食事を味わったのだった。