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麻さばカン
2024-10-24 23:17:58
2380文字
Public
Bloodborne/二次創作
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月鏡に願う
アイリーンさんに、ただただ眼鏡を掛けてもらいたいというだけの短編小説。原作ネタバレなし。
夢小説として書きました。
2024年11月15日~16日開催のフロム夢オンリー《君の夢は燃えているか》で展示する作品として書きました。
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2
――
貴方に、話があるのです。
私はそう言葉を投げかけ、更なる言葉を振り絞るべく思案する。しかし身振り手振りのみが先行し、気づけば私の両手は中途半端に宙を掻いていた。
そんな、あたふたと下手な舞を披露する舞台を見守る観客がひとり。鴉羽の狩人、アイリーンだ。
周囲に獣の気配はなく、ここはまだ血の匂いも薄い。獣狩りの夜が続くヤーナムにおいて、このひとときはとても貴重である。だからこそ私は、今こうして彼女へ贈り物をすべく舞っている。いや、舞っている場合ではない。
そう、眼鏡だ。
誰しも一度は、鴉羽の狩人、アイリーンに眼鏡を掛けてもらいたいと思うものだろう。別に素顔を見たいわけじゃあない。たとえ木彫りの仮面を身につけていようとも、その上で眼鏡を願う者はいるはずだ。
私は血に酔っている狩人ではあるが、血迷っているわけではない事を念のため伝えておく。私が誰なのかも特段、気にする必要はない。ただ「眼鏡を掛けたアイリーンさんが見たい」という事実だけで充分だろう。
眼鏡は狩人の工房、その技術の粋をもって
……
とまではいかないものの自分なりに眼鏡を探求し、私が作り上げたものだ。
狩人の夢では人形にも協力を仰ぎ、眼鏡に関する書物の捜索や過去に存在した鴉羽の狩装束、その仮面について調べるなどして推測し製作した。手製にしては出来栄えはなかなか良く仕上がり、恐らくサイズもバッチリのはずである。
そうこうしている内に、アイリーンは外套から両腕を出して腕を組むと、ひとつ溜め息をついた。そうして呆れたように言葉を零す。
「何か言いたい事があるなら、はっきり伝えるんだね。それとも、毒にでも当てられたのかい?」
こちらの言葉を待っていてくれるばかりか、彼女からは私を心配するような気配も窺える。その寛容さにますます舞い上がってしまいそうになるが、これ以上、待たせてしまってはいけないだろう。
私は姿勢を正して深く呼吸をすると、覚悟を決めて、勇気を持って、眼鏡が収められている小箱をアイリーンへと差し出した。
「あたしに、これを?」
私がこくりと頷き肯定すると、彼女は突然の贈り物に驚きつつも、私が両手で差し出した細長い小箱をしげしげと見つめた。それから受け取ろうと手を伸ばす彼女だったが、乾いた血がこびりついた自身の手袋に気づくと、静かに外し始める。
やがて露わになった細いその手は小箱をしっかりと掴み、月明かりの中、落とさぬよう包みを丁寧に剥がす。そして蓋をそっと開けると、中には柔らかな布に包まれた眼鏡。
彼女は眼鏡のつるを片手でひとつまみして持ち上げ、レンズを通して夜空を覗き込む。歪に並ぶヤーナムの街並みの中、遮られることなく真っ直ぐに射し込む月の光は、眼鏡のレンズからつるへ流れ星のように縁を伝う。
「へぇ、案外よくできているものだね」
狩人の夢で、人形の協力のもと完成したものだと伝えると、アイリーンは更に感嘆してくれた様子だった。そして、いつかの記憶を覗き込むように、眼鏡を通して狩人の夢を懐かしんでいるようでもあった。
彼女はひとしきり眼鏡を眺めた後、レンズを下に向けて眼鏡を小箱へ下ろし、つるが絡まぬよう一本ずつ畳む。そうして開けた時と同じように、そっと蓋を閉じる。
アイリーンは蓋を少し撫でると、間をおいてこちらに向き直しその小箱を差し出した。
「すまないね
……
これは、狩人狩りには、もったいない代物さね」
寂しい気持ちはもちろんあるのだが、なんとなくそのような気はしていた。これはきっと、彼女の優しさなのだろう。今はもう「眼鏡を掛けてほしい」という己の願いより、彼女が手に取ってくれた
――
それだけで私の胸はいっぱいで、嬉しい。
私はその気持ちを素直に伝え、また、こうして時間を割いてくれたことに感謝すると、彼女は目線を外し鴉羽の外套を翻し立ち去ろうとする。そうして顔だけをこちらへ向けて、
「
……
あんたの気持ち、あたしは嬉しかったよ。ありがとう」
一言そう伝えると、外套の裾をふわりとなびかせて歩き出す。アイリーンは月が陰る街、その闇夜へ溶けていった。
私は余韻に浸るように佇み、月を見上げる。私は、覚えていられるだろうか。この込み上げる気持ちを、瞬く間に流れていった輝く星のようなひとときを。
嗚呼、月よ。そこで見ていたならば、せめて映しとってはくれないか。夢の終わりに、夜が明けても忘れてしまわぬように、そっと。
そんな願いを胸に、私は狩人の夢へ戻ってきた。眼鏡製作での協力について感謝を伝えるべく、人形のもとへ。彼女はいつも通りの様子であったが、いつかまた眼鏡を渡せる日が来たならば応援してくれるそうだ。
眼鏡の入った小箱は保管庫へ収めることにした。いつかのために、夜が明けて狩りが終わるその時のために、壊れてしまわぬよう。あのひとときを、想いと一緒にしまい込んで。
私は再び獣狩りへ赴こうと一通り準備を済ませ、人形に出発の挨拶をする。アイリーンにまた会えるだろうかと淡い期待を抱いて、私はひとり森へ向かった。
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