麻さばカン
2024-10-24 22:11:36
1633文字
Public DARK SOULS/二次創作
 

樽の中に想いを詰めて

ラレンティウス独白形式、これまでの雰囲気をぶち壊す短編。
それがどのような形であれ、彼の往く道が穏やかであってほしい。亡者はそう考える。

 霞む視界、遠くなる意識に、ふと彼に似た姿を覚える。
 どうやらいよいよ、お迎えが来たらしい。やがて火が小さくなるように、意識は途絶えた。

 ――目が覚めると、俺は樽の中にいた。

 わけが分からないが、この感覚だけは今でもはっきりと覚えている。出来れば思い出したくもない類ではあるのだが、俺は今、確かに樽の中にいるのだ。
 しかし、違和感がある。身体にまとわりつく、じめじめとした触感、湿った地面のような匂いもする。
 樽から唯一出ている頭でかろうじて辺りを見回してみると、壁には白く細い蜘蛛の糸がそこかしこに纏わりついており、見たこともない異様な空間だ。額に、じわりと汗が滲む。亡者となったはずの身にも、不安や焦燥といった感情は残っているらしい。
 ひたひたと、足元で何かが動くのを感じる。背中側からは、何か大きな存在の気配、そしてパチパチと薪が爆ぜる音もする。壁が煌々と照らされている様子から、炎が燃えている事は想像に難くない。なるほど料理の準備は万全のようだ。
 しかし樽に入れるなら、せめて頭のてっぺんまで漬けてほしい。隠し味は恐怖というスパイス、とでも言うつもりなのか。

 二度に及ぶこの失態に、助けを待つ猶予は今度こそないだろう。……いいや、俺は往かなくては。
 あの時、先へ進むと決めたのだ。たとえ亡者になろうとも、俺の意思がある限り進んでいかなくては彼に合わせる顔もない。
 覚悟を決め右手に火を集中すべく力を込めようとした瞬間、燃え上がる炎の音、揺らめきと共に、壁に影が映し出される。思わず首を回して、その影の主を見やる。
 俺は夢でも見ているのか。
 忘れるはずもない、彼だ。いつも通りの亡者の姿で、見間違えるはずもない。
 不意に目頭が熱くなる。樽に詰められたまま泣く自分の姿を想像すると更に泣けて来るが、いや待ってくれ。感情の整理が追いつかないまま、彼はこれまでの出来事を話してくれた。
 病み村の毒沼で、倒れているところを助け出してくれた事。全身に回っている毒を抜くため、毒に効く苔を樽に敷き詰め漬けてくれた事。毒に詳しいという卵背負いや姫に手伝ってもらった事。

 ――そして、毒は完全に抜ける事はなく、一生を樽の中で過ごすしかないという事。

 彼は申し訳なさそうにうなだれてしまったが、命が助かっただけありがたい。それどころか、またこうして友と話せるのであれば、樽の中も悪くはないだろう。そう伝えると彼は元気を取り戻し、ニカッと笑うと今度はこう続けた。
 「樽には仕掛けがある」と。
 試しに腕を動かしてみてくれと言われ、とりあえず肘を曲げようとすると肩から先が樽の外へ。足を伸ばそうとすると底が開き、大地へ確かに立ち上がる。
 仕掛け樽、というらしい。なにがなんだか分からない。分からないが、俺は亡者よりも愉快な存在になってしまったようだ。
 彼は満足そうに親指を立て、俺に笑いかける。俺はそれに応えるよう、力強く頷いた。樽の中であろうと、愉快な姿だろうと関係ない。
 呪術の火が、今ふたたび俺の中で燃え上がり、新たな行く末に胸が躍る。そして、隣に友がいる。今はそれだけで充分なのだ。

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