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Hizuki
2019-12-31 19:24:31
7181文字
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誘うは蒼穹、漆黒の翼を伴いて
【グラブル】ジクグラ。とある理由で艇を降りることを決めたジークフリートとそれを受け入れることを選ぶしかなかったグランの話。ちょっと特殊な部分があるので、注意書きを見たうえでどうぞ。来てくれるって信じてた。
1
2
3
4
とある島で起きた女性のみを狙った誘拐事件。
犯人は島の森を根城にしていた盗賊達。
そして黒幕は賊と手を組んだ、島を治める長の息子だった。
魔の手はルリアの身にまで及び、ルリアをさらった賊の頭を追って島を駆ける。
「もう逃げ場はないよ」
島の端の絶壁に建てられた、遠い昔に放棄されたであろう石造りの塔。
外壁に沿って設けられている階段を駆け上がり、屋上に出た。
何かあってもすぐに動けるようにと鞘から抜いた剣を構える。
「事件の犯人がお前だってことは割れてるし、さらった女の人達は僕の仲間が助けに行ってる」
「チッ
…
」
荒い呼吸の合間に男の舌打ちが聞こえる。
剣の切っ先を向けると、男は眉間の皺を深くした。
あとは身柄を確保して警備に引き渡すだけ。
その前にルリアを助け出さなくては。
「こいつの命が惜しければ武器を置け!」
どうあがいても事態は好転することはないというのに、男は声を張り上げる。
男の声に小さなルリアの悲鳴が混じった。
「
…
従えばルリアを返してくれる?」
「ああ、返してやるさ!」
今手元にあるのはこのアシュケロン一本だけ。
戦う術は他にない。
一緒に来ていたビィは僕がいる塔の場所を知らせに仲間の元へ向かった。
時間さえ稼げばみんなが追い付いてくれる。
剣を鞘に収めると、石造りの床の上にそれを静かに置いた。
「よし
…
」
それを見て男は口元を歪めた。
まだ子供だ、武器さえなければどうにでもなるとでも言いたげな顔。
「こいつはお前の命と引き換えだ!」
そう言って空を指し示した。
飛び降りろ、ということだろう。
提示された条件に、ルリアの顔が青褪める。
僕の命とルリアの命が繋がっていることを目の前の男は知らない。
いや、知らない方が都合はいい。
「本当にそれでいいの?」
「グラン
…
?」
確認の問いかけにも男はニヤニヤと笑みを浮かべるだけ。
早くしろ、と急かす声を肯定と受け取り、空を背にして屋上の縁に立った。
「グラン、ダメですっ!」
「大丈夫だよ、ルリア」
ルリアが僕の名前を呼ぶ。
彼女を安心させるために笑いかけた。
僕は、死なない。
「僕、飛べるから」
後ろに倒れ込むように力を抜いた。
支えを失った身体は空の底へ引き寄せられるように落ちていく。
金色に縁取られた白の衣が風にはためいていた。
ルリアの悲鳴混じりの声が聞こえる。
男の言葉に嘘はなかったようで、僕がさっきまで立っていた場所からルリアが身を乗り出しているのが見えた。
その姿に安心して、目を閉じた。
大丈夫。
ああ、こうして落ちるのは2度目だっけ。
空の底まで落ちたりはしない。
命を落としたりもしない。
―
。
心の中で名前を呼ぶ。
風を切る音が聞こえ、何かが僕の背中を支えた。
身体の落下が止まったのが分かった。
ゆっくりと目を開ければ黒が見える。
「全く
…
お前は無茶をする」
懐かしい声が耳に届いた。
「
…
あなたには言われたくないなぁ、ジークフリートさん」
「それもそうだな」
かつて僕らの艇にいた頼れる仲間で、僕にとって特別な人。
今はその姿を漆黒の竜へと変えていて。
姿形が変わったとしても、この人は何も変わらない。
背と翼に支えられた視界には青天が見える。
慎重に身体を起こして背中に跨った。
「来てくれるって分かってたよ」
「話は後だ。しっかり掴まっていろ」
変わらない金色の眼をこちらに向けた。
一際大きく羽ばたくとぐんぐん高度を上げていく。
視界の端にルリアを捉える。
塔の高さをゆうに越え、太陽を背負って翼を広げる。
影に覆われて男が、追い付いた仲間達が、ルリアが揃って顔を上げた。
ここにいると主張するように発せられた咆哮が辺りを揺らす。
「ありがとう、ジークフリートさん」
僕が降りられるように、できる限り身体を寄せてくれたジークフリートさんにお礼を言って、首元を擦る。
背中から飛び降りると、再び大きく翼を広げて飛び去った。
さっき置いたままになっていた剣を拾うと、腰を抜かしている男を見据える。
「さて、おとなしくしてもらうよ?」
まさか僕が戻ってくるとはこれっぽっちも思っていなかったのだろう、男はただ無言でこくこくと首を縦に振った。
仲間にルリアの手当てを頼み、一緒に来た島の長と警備に男の処理を任せると、塔を下りて気配を探す。
『また後でな』と小さく言い残していったジークフリートさんを。
飛び去ってはいったものの、そう遠くには行っていないのは分かっていた。
けれど大きな竜の体を隠せるような開けた場所は、この島にはなかったはずだ。
「こっちだ、グラン」
キョロキョロと辺りを見回していると、不意に声が聞こえた。
近い。
木の影が動き、そこから姿を見せたのは、さっきの竜の姿ではなく人の姿をしたジークフリートさんだった。
「ジークフリートさん!その姿は
…
」
人、とはいうものの、その一部には竜の象徴が見て取れる。
頭から伸びているのはドラフ族ともまた違う一対の角。
多少はまだ肌色が見えるとはいえ黒い鱗に覆われた左腕と指先の鋭い爪。
半竜半人、というのが正しいのだろうか。
「まだ完全に竜になったわけではなくてな。おかげでこの中途半端な有様だ」
「そうだったんだ」
「先程のように短時間ならば姿を変えて空を飛ぶことも叶う。
…
間に合ってよかった」
―
お前の危機には必ず力になろう
ジークフリートさんの言葉を信じていたからこそ、ためらうことなく飛ぶことができた。
もしあの言葉がなかったのなら、僕は今ここにいなかったのかもしれない。
「本当にありがとう」
「約束したからな」
艇を降りた時にも似た穏やかな顔。
離れていても自分と同じようにちゃんと覚えていてくれたことが嬉しい。
「
…
少しお前の手を借りてもいいだろうか」
「僕の手?」
「そうだ」
そう言ってジークフリートさんは右手を僕の方に伸ばす。
手伝いごとか何かかと思っていたらそうではないらしい。
僕の左手を取ると、そっと自分の頬に宛がった。
「
…
ああ。温かいな、グランの手は」
柔らかい肌の感触。
自分の手に伝わるジークフリートさんの熱。
温かい。
受け止めてもらった時、背中に乗せてもらった時、竜の姿の首元を擦ったときに感じた熱も、艇にいた頃と何一つ変わらない。
「ジークフリートさんも温かいよ。何も変わってない」
「
…
そうか」
どんな姿だって、ジークフリートさんはジークフリートさんだ。
例え竜の姿であっても、僕にとってこの人が特別であることに変わりはない。
「さて、あまり引き止めていると他の者に心配をかけてしまうな」
ゆっくりと僕の手がジークフリートさんから離されていく。
少し用事があるから、と言い残しては来たけれど、具体的なことは何も話してはいない。
ある程度のことはみんなでも大丈夫とはいえ、最終報告やら報酬の受け取りやらには僕も立ち会わなければならないだろう。
名残惜しいけれど、そろそろ行かなくては。
「こうして話ができてよかった」
「うん、僕も」
「
…
またな、グラン」
また必ず会える。
僕も、ジークフリートさんも信じている。
こちらに背を向けると、ジークフリートさんはそのまま真っ直ぐに歩き出した。
向かう先は崖。
何も心配することはない。
姿が消えるのと同時に空中に浮かび上がったのは黒い珠。
それは程なくして音もなく割れ、中からは翼を広げた黒い竜が現れる。
少しだけ僕の方を振り返ってから空高く舞い上がる。
漆黒の翼はあっという間に蒼穹の彼方に消えていった。
…
今の旅を終える時が来たのなら、その時こそはジークフリートさんを探しに行こう。
そう決めて、仲間達の待つ場所へ足を向けた。
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