Hizuki
2016-02-22 21:16:58
9440文字
Public FF14
 

竜眼の誓い 異説

【FF14】エス光。3.xどこかで来るであろうエスティニアン救出を捏造した話その2。1ページ目の注意書きをご覧のうえでどうぞ。




魔大陸の地で合間見えた竜はドラゴンズエアリーの時と同じ禍々しい空気に包まれていた。
激しい魔力は戦闘の最中で徐々に薄れていき、邪竜の動きも次第に緩やかなものになっていく。
それは自分達にも言えることで、倒れてしまいそうになる身体を強く大地を踏み締めて耐える。
竜の眼がギラリと耀く。
互いに次の一撃が最後だろうというのが分かった。
今一度槍を握る手に力を込める。
殺るか、殺られるか。
竜が大きく息を吸い込んだ。


エスティニアン」


邪竜と同化してしまった彼の名前を呟く。
瞬間、ピクリと竜の動きが止まった。
その隙を突いて空中へ飛び上がる。
狙うは一点、禍々しい魔力を持つ左眼。
吐き出された炎は空を焼き、巨体は地に倒れた。
飛んだ勢いと重みを利用して竜の顔へ突っ込む。
動かない身体に狙いが外れることはなく、槍は眼を貫いた。
竜の赤黒い血が周囲に飛び散り、まるであの時のように私の甲冑の様を変えていく。
鼓膜を破りそうな断末魔の咆哮が谺した。

「術師部隊、前へ!」

自分の体力も限界で、槍を引き抜くと竜の身体の側に倒れ込んだ。
すぐさま回復魔法の光に包まれ、誰かに身体を起こされる。
灰色のカーバンクルが目に入り、その主が誰なのかを理解した。

「ご苦労様」
アルフィノ、ありがとう」

彼の肩を借りてヤ・シュトラを中心に据えた術師部隊の後ろに下がる。

「お疲れ様。あとは私達に任せて」

ヤ・シュトラの労いの言葉にこくりと頷く。
彼女の合図に合わせて、竜の周囲に紋様が広がり、ドーム状の陣が形作られていく。
彼のエーテルだけを繋ぎ止めるための陣。
竜を取り巻くように術師が位置取り、陣を展開していく。
黒いエーテルがじわじわと陣の外に漏れ出していく。
ここからは私には手出しができない世界。
ヤ・シュトラと神殿騎士団の術師達の力を信じて祈ることしかできない。

「邪竜のエーテルが思った以上に濃いわねこのままでは

同化していた時間のせいか、難航しているようだ。
苦々しいヤ・シュトラの声が聞こえた。

「エスティニアン殿!」

黒いエーテルの中にぼんやりと淡い光が見える。
今にも消えてしまいそうなそれが、彼なのだと分かった。

エスティニアン

先ほども口にした彼の名前。
形を成していないだけで、確かにそこにいる。


「光が強くなった?もしかして

私の名前をヤ・シュトラが呼んだ。

「彼の名前を呼びかけて。あなたの声に反応しているみたいだから」

アルフィノの回復のおかげで多少は動けるようになっていた。
陣に近付いて名前を呼ぶ。
あの時から今まで、何度呼んだだろう。
黒いエーテルが徐々に晴れていき、光の玉が次第に大きくなっていく。
まるで竜騎士のクリスタルのように青い光の中に、黒い影が揺らめいたような気がした。

まずいわね」
「どうしたんだ?」
「ニーズヘッグのエーテルがエスティニアンのエーテルに混じってしまっているこれでは人の身体に戻せない
「何だって!?」
「同化している時間が長すぎたんだわ

周りに動揺が広がる中、不思議なくらいに私の心は落ち着いていた。
ヤ・シュトラが私の名前を呼ぶのが聞こえる。
何を聞かれるのか、言われなくても分かっていた。

私、エスティニアンと一緒に生きるよ」

答えは一つ。

「何を!」
意思は、変わらないのね」

今なら戻れる。
だけど、戻るなんて選択肢は初めからなかった。

うん」

再びヤ・シュトラの合図で陣の色が変わっていく。
透明から青へ、黒竜の身体を光が包み込んだ。

「君は何を言っているのか分かっているのか?」

アルフィノが私の肩を掴んだ。
竜と共に生きるということ。
しかも普通の竜ではない。
魂が彼であろうと、その姿は皇都に害を成した邪竜。
冒険者という生活には戻れなくなる。
それどころか、普通の人としての生活さえも。

「アルフィノ様、確かに彼女は世界にとって英雄で、暁にとってもなくてはならない存在です」

そして、英雄もいなくなる。

「ですが、英雄である以前に、彼女も人なのです。私達に彼女を縛る権利はありません」

イシュガルドのドラコン族だけではない。
帝国も蛮神もアシエンも、世界を取り巻く脅威は取り除かれていない。
けれど。

オルシュファンだけじゃなくて、エスティニアンまでいなくなったら、もう私は戦えない」

ウルダハから追われた時、私を助けてくれたのはオルシュファンだった。
オルシュファンがいなくなってしまった時、私を支えてくれたのはエスティニアンだった。
人々が恐れるものよりも、彼を失うことの方が怖い。
大切な人がいない世界ほど、怖いものはない。

ごめんね、アルフィノ」
いや、こちらこそすまない」

アルフィノの手に込められていた力が緩んだ。
青い光の玉が黒竜の身体にゆっくりと沈んでいく。
沈み切るのと同時に展開されていた陣が消え、神殿騎士団の人達の手によって応急手当が施される。
邪竜から解放された人としての身体にも手当てがされていた。
兜の左目にあたる部分に真新しい傷と顔を伝う赤い筋が見えた。
もし彼が人として戻ってきていたなら、左目は光を失い、一生残る傷になっていたことだろう。
最低限の手当てが済むとすぐさま運ばれていった。
そしてもちろん、竜の身体にもその傷は残っている。
ズキンと左目の奥が痛んだような気がした。
仕事を終えた騎士団の人達が引き上げの準備を始めている。
その中からルキアさんが歩いてくるのが見えた。

「エスティニアン殿の様子は
「術式としては成功よ。心臓は動いているし、呼吸もちゃんとしてる。彼の血の半分が竜の血だったというのもあるでしょうね。とはいえ、彼が目を覚ましてみないことには結果としては言えないけれど」

成功、という言葉を受けて、ルキアさんがほっと息を吐いた。
それから私に深く頭を下げた。

「イシュガルドのために、そしてアイメリク様の友のために戦ってくれたこと、感謝している。本当にありがとう」
「いや、あのお礼を言われるようなことは正直アイメリク卿に合わせる顔がないというか

この結果を選んだのは私のエゴだ。
二人が顔を合わせるというのは今後恐らく実現し得ない。
帰ってくる、と言ったのは自分なのに。

「同じ蒼天の下で生きていること、アイメリク様はきっと分かってくださる。気にしなくて大丈夫だ」
そう言ってもらえるとちょっと気が楽です」

少し辺りを見回すと、粗方引き上げの準備が整ったようだった。
ルキアさんに報告に来た騎士団の人が袋を私の足元に置いた。
この状況に備えて、預けておいた最低限の荷物。
お礼を伝えると敬礼をして去っていく。

「アルフィノ殿とヤ・シュトラ殿はどうされる?」
私は報告のためイシュガルドに戻ろう」
「私はここに残るわ。彼の様子を見てからでないと何かあった時に困るでしょうし」
「では後程迎えの者を出そう」

ルキアさんが私に手を差し出す。

元気でな」
ルキアさんも。アイメリク卿や皆さんによろしくお伝えください」

手を握り返して、そして離れる。
飛空挺を見送り、エスティニアンの右側に腰を下ろした。
いつ目を覚ましてもいいように。
ヤ・シュトラが新たな陣を張って、私の向かいに座る。
周囲の魔物が遠ざかっていくのを見るに、魔物除けの陣なのだろう。

「どれくらいで起きるかな」
「さっきの戦いで消耗しているとはいっても、ドラゴンの生命力は高い。そんなに時間はかからないと思うわ」

手当てもしてあるし、と付け加えて。
黒い竜に手を伸ばして、その肌を撫でる。
温かい鱗の感触が伝わる。

あなたのこと、どう伝えようかしら」

きっと後々問題になるだろう。
けれど、真実をそのまま伝えるという訳にもいかない。
蒼の竜騎士は竜となり、エオルゼアの英雄は竜と共に生きる道を選んだ、など。

「ニーズヘッグと相討ちになったっていうのが無難じゃないかな、多分」

事実邪竜と刃を交えたのだから、事の成り行きとしては自然なもの。
話す側としても話しやすい結末じゃないかと思う。

そのように伝えておくわ」

こくりと頷くと、撫でていた手の下がピクリと動いた。

「エスティニアン?」

声に竜が反応を示した。
閉ざされていた目がゆっくりと開かれる。

ここは俺は生きてるのか?」

声が聞こえる。
聞こえ方は以前と違うけれど、確かにエスティニアンの声。
ずっと待ち望んでいた人の声が。

「エスティニアン!」

視界がじわりと滲んだ。
エスティニアンが私の名前を呼んだ。
緩やかに竜の身体が動き出すも、すぐに動きを止める。

俺はもう、人じゃないんだな。まさかニーズヘッグの身体とは
「その身体じゃなかったら、あなたは今ここにいないわ」
だろうな」

かつての邪竜の身体、ということを気にしている様子はない。
少しだけほっとする。

「ニーズヘッグも完全には消えていない、だろ。まだ気配がする」
「ええ、あなたの中に」
その時は私が止めるよ」

完全に消えていない以上、可能性は有り得る。

「止める、って
「エスティニアンと一緒に生きるから」

立ち上がって、エスティニアンを見る。

「お前!?」

驚きにエスティニアンの身体が大きく動いた。
私の目は彼の姿を捉えている。

「私達の手を離してでも、彼女はあなたと生きると言った彼女を悲しませることだけはしないで」
分かった」

ヤ・シュトラの言葉を受けて、エスティニアンが私の目を見た。
そして大きく頷いた。
自分の耳に付けていた暁用のリンクパールを外し、ヤ・シュトラの手に戻す。
代わりに別のリンクパールが手渡された。

「これは私にしか繋がらない。もし何か困ったことがあったら連絡してきて。できる限り、協力するわ」
ヤ・シュトラ、ありがとう」

昨日の夜と同じように、ヤ・シュトラを抱き締めた。
北の空に騎士団の迎えの船を見つけて、彼女から離れる。

「そろそろ戻るわ。二人共、またね」
うん、また!」

別れの言葉にはしない。
会える時がきっと来る。
ヤ・シュトラの姿が見えなくなり、騎士団の船も空の彼方へ姿を消した。
張られていた魔物除けの陣の効果も薄くなってきていて、敵意が飛んでくるのを感じる。

どうするんだ、これから」
どこか遠くに行こっか。エスティニアンと一緒ならどこでもいいよ」