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えぬを
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Don’t think, just do.
rsmv_20240906公開
マヴのブラックタイシチュ三部作
①マヴ、コルセット似合いそう…からのシチュ考えて、バックレスのウェストコートかカマーベストで腰キュッ!ってルスに結んでもらう妄想を書きました。癖詰めボックス!ウェストコートやカマーベストの画像とか見ながら一緒に妄想していただけたら嬉しいです。
②ブラックタイ着るマヴの小話から数年後の、デキてるルスマヴェ。今度は息子の結婚式でスピーチすることになったマヴを迎えに行くルスと、バイトのmob君視点。
③ルスの膝に靴乗せて、ルスに靴紐結ばれる自ネタ、絵面想像して最高に激ってしまったので小話書きました。めちゃめちゃ甘めのルスマヴェです時系列としては、mob君視点の前。
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その車は、並み居る高級車の間を縫うように、スカイブルーを翻して僕の目の端を掠めた。
さっきまで土砂降りの雨だったのに、その車がホテルのロータリーに姿を現した途端、雨が小降りになって、迎えの高級車が順番を待つ列に並んだ頃には小雨になった。
タイヤの大きさは同じくらいのくせして、高級車は地べたを這うように平たく長い。それとは反対に、縦列した車の中、のっぽで縦に長いその車は当たり前に目立っていた。
クラシック・フォード。格好いい。いいね。
高級車が居並ぶロータリーに、空気読まずに平気な顔して縦列するオフロード・ヴィークルは様になる。
世界中に系列のある高級ホテルのロータリーで、今日は誘導員のパートタイムに勤しんでいる。
どっかの偉い人の娘だか息子だかの結婚式で、ポールルームは貸切らしい。BGMは生演奏らしく、微かな音が漏れ聞こえてくる。
金がかかってるなぁ、なんて曇り空を見上げながら、誘導棒をふりまわす。繰り返し繰り返し、ロボットのように。
結婚式のパーティ自体はアフターパーティに移っているみたいで、既に数人は入れ替わりで退出して来ていて、それぞれが迎えの車に乗り込んでいく。運転手付きのゲストもいれば、チャーターのリムジンに乗り込む人も。
そんな中、突然の土砂降り。
うまく会場入口の階段スレスレまで車を誘導して、ゲストが濡れないように案内するのは骨が折れる。なんたってこの日のための装いで来ているだろうゲスト達なんだから、そりゃあ気を遣う。
そんなセレブリティ達ばかりだったから、アーリー・ブロンコがロータリーに回遊して来た時はテンションが上がってしまった。
おもろ。誰を迎えに来たんだろう。
仲間の誘導員は、今日初めて会った少し年上の先輩だった。自己紹介で名前と年齢を告げた途端、先輩の顎が上がった。わかりやすいマウンティングだ。彼はブロンコを見るなり眉を顰めて、高級車が並ぶ階段近くではない、少し遠くの道へと誘導した。
意地が悪いな。ホテルの客人達が、住む世界の違う人間であることを自覚しながらも、その人々を誘導する自分自身をも擬似的に、〝そっち側〟だと錯覚しているのだろう。そういった感性の人間は往々にして居る。本日限りの先輩も、どうやらそういった思考の持ち主らしい。
僕は小雨の中、走り出す。ロータリーを横切って、ブロンコに駆け寄る僕に気づいて、レギュレータハンドルを回す仕草が雨粒のついたウィンドウ越しに見える。下がったウィンドウから覗いたのは、髭の生えたハンサムな青年だった。僕よりも十歳くらいは年上だろう。アロハシャツ着てるよ。このホテルに乗り付けといて。
「かっこいい車」
挨拶もそこそこ、僕はまず車を誉めた。本心だ。
人好きのする顔で髭のハンサムが笑う。
「親父の車なんだ」
「へぇ。でもあなたも様になってるし、運転席に座る姿がとっても似合うね」
一瞬だけ目を見開いた髭のハンサムは、やがて優しい顔で笑うと『サンクス、』と照れたように鼻を掻いた。
いや、だって本当に似合っているし。
身の丈に合わないものを持ったとて、本人の存在感がブランドに底上げされることはない。着られているだけだ。
でも、ものの価値を知り、大切にしている人が持つと、それらは相棒のように馴染んで相乗効果を生み、魅力が増すんだ。居並ぶ高級車にだって見劣りしてない。
親父さんの車って言ってたけど、年代が古い割には光沢があるし、傷だってそれほどない。大切にしている証拠だ。
ちらりと車内に目を遣れば、カセット式のカーステレオは現役らしい。カセットが差し込み口から少しだけのぞいている。ネットでは見たことあるけど、実物を目にするのは初めてだ。古いものってどうしてこう、無骨なのに格好いいんだろう。
髭のハンサムは身をかがめて、ダッシュボードを開いた。タオルを取り出して、しげしげとそれを矯めつ眇めつすると、元の位置に戻した。
「ごめん、スマートに差し出せるかと思ったら、オイルですげぇ汚れてた」
「いや、へーきへーき。ありがとう」
小雨に濡れた僕にタオルを差し出そうとしたんだろう。その気持ちだけでもありがたい。
おっと、いつまでもここで会話と車を楽しんでいたせいか、斜め後ろの先輩に睨みつけられてしまった。戻らないと。
「今乗り付けてるランボルギーニが出て行ったら、その後ろに回ってよ。あなたもお迎えでしょ?」
「そうだけど
……
いいのか?あっちの人にはホテル前にそんな車で乗り付けんじゃねぇ、みたいな感じでこっちに誘導されたけど」
苦笑しながら髭のハンサムが嘯く。場違いという自覚はあるらしい。ちっとも悪びれてないところが逆に僕には好印象だ。
「大丈夫大丈夫。まだ雨上がってないし、お連れの人濡れちゃうよ。あ、ほら、空いたからすぐ車回して!」
そう言って僕は元の位置に駆け戻った。
前後の高級車が入れ替わる隙間に、滑るようにブロンコが入り込む。
運転技術は上級。それこそ気品溢れる佇まいじゃん、と僕は夜でも目立つスカイブルーに見惚れながら、それが眼前に停まるのを待つーーと。
後方でざわめきが聞こえて、振り返る。一人の人物が数人に囲まれてこちらに向かってくるところだった。新たな帰宅客かな、とロータリーの車を誘導するために目を転じる。どの車だろうか。
僕が待つ階段上で、その囲まれた人物がこちらに背を向けてホールドアップの体勢で人々になにか答えている。どうやら引き留めに遭っているみたいだった。低く通る声が、『迎えが来ているから』と告げるのが聞こえる。
やっぱりこのロータリーの中に迎えの車が来ているんだな。僕は再度ロータリーでそれらしき車を探しながら、見当たらず、本人に確認すべく階上に目を向けた。その人物が振り返る。
「わお」
アカデミー賞のレッドカーペット?それともメットガラ?随分と顔立ちの華やかなおじさんだった。
おじさん、なんて失礼かもだけど、年齢的には僕よりもはるか年上だ。父と同じくらいかも。
でも全然違う。うちの父とはまず体型からして違う。ブラックタイがすごく似合う。ブラックタイなんて着たことないから分からないけれど、こんな風に着こなせる人ってあんまりいないんじゃないかな。なんだろう、有名人?それともモデル?
上着越しでもわかる胸板の厚さ。膝下なっが。それほど背は高くないみたいだけれど、どっしりとした腰回りからして、なにがしか鍛えているのが伺える。背筋が伸びていて姿勢もいい。だからこそ、ブラックが夜目にも映える。
複数人に囲まれる中で、飛び抜けて目立ってるなぁ。引き留めに遭ってるのもなんか納得。歩き方が堂々としていてきれいだ。
なによりも顔がすごい。美の迫力が。
なんかどっかで見たことあるなぁと思ったら、あれだ、プリンス・チャーミング。ホテルの入口の豪華さも相まって、シンデレラ・キャッスルから出てきた王子様って感じだ。いやいや、王子様って年齢ではないか。でもすごい華やかな人。
引き留められる人々の手をやんわり断ったプリンス・チャーミングは、迎えの車を見つけたらしく、階段を駆け降りてきた。
うわ、なんか軽やかで羽でも生えてるみたいな感じだな、この人。体幹がいいんだ。
人混みからから解放されたプリンス・チャーミングは、息苦しさから逃れるかのように、早々にジャケットの前ボタンを全開にして、勢いよくジャケットを脱いだ。
うわ、バックレスのウェストコート!格好いい上にセクシーだ。
年嵩の人が着ると重厚さが相まって格好いいよなぁ。こういうのが、〝着られてる〟んじゃなくて、〝着こなしてる〟って言うんだろうな。紳士服のモデル、いや、マネキンみたい。
少しだけ足元を確認しながら階段を降りてくる間に髪を掻き上げる仕草も、映画のワンシーンみたいだ。
恋人が迎えに来ているんだろうか。嬉しそうだし頬が少し赤い。ていうか、どの車?僕誘導しなきゃいけないんだけど。
あっちのドイツ車、こっちのイタリア車と確認していると、ただの階段をレッド・カーペットに変えたプリンス・チャーミングが、僕の横で足を止めていた。
「あ、あの、なにか」
驚いてドギマギする僕を見つめるプリンス・チャーミングの瞳は、不思議な色合いをしていた。綺麗なアースアイ。
思わず吸い込まれそうになる、湖面のような、空のような色。
「あんなクラシックな車、ここでは場違いなのに、階段下まで誘導してくれたの、君だろう?」
「へ?」
なんのことだろう。僕が困惑していると、プリンス・チャーミングは僕の足元を見てから、おもむろに腕に携えたジャケットの胸ポケットを探ると、ハンカチを取り出した。差し出されて思わず受け取ってしまう。
「よかったら使ってくれ」
突然の土砂降りに、今はもう小雨だけれど、ロータリーで車を回遊すれば、いやでも水跳ねの目に遭う。当たり前に、誘導係への水跳ねを気にするセレブリティなんていない。黒いスラックスでは目立たないけれど、実際は泥跳ねと水を吸って、裾はずっしりと重く、湿っていた。眼前の人は、そんな些細なことに気づいたのだ。
「ぇ、あ、あの!使えません!」
「気にするな。あげるよ。風邪を引かないように」
そう言って、プリンス・チャーミングはブラックタイを翻して階段を駆け降りる。
魔法のいらないプリンス・チャーミングが乗り込んだ馬車は、まさかのスカイブルー。
嘘だろ。僕は思わず吹き出してしまった。
運転席側で、太い腕を窓に乗せていた髭のハンサムが、助手席にプリンス・チャーミングが乗り込むのを待って、こっちに向かって軽く手を上げた。僕も振り返す。
どういう関係かな。親子にしては似ていないし、ましてや兄弟なんかじゃない。プリンス・チャーミングの表情からして、それは恐らく大切で愛おしい相手の待つ車に乗り込む感じではあったけれど。
なら、きっとそういうことだろう。
オイルで汚れたタオルを差し出してくれた人と、自分のハンカチを差し出してくれた人は共に優しい人たちだったのだから、それで充分だ。
クラシック・フォードはゆっくりと発進し、水溜まりを跳ねることなく少しだけ波立たせると、悠々と夜の街へと消えて行った。
僕は貰ったハンカチに目を落とす。ハンカチにふりかけられたオードトワレだろうか。雨上がりの湿った空気の中に、ウッディでスパイシーな香りがふぅわりと漂う。
風邪を引く前にのぼせそうだ、と、素敵な一夜の夢を見た心地で、僕は職務に戻った。
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