えぬを
Public TGM
 

Don’t think, just do.

rsmv_20240906公開

マヴのブラックタイシチュ三部作
①マヴ、コルセット似合いそう…からのシチュ考えて、バックレスのウェストコートかカマーベストで腰キュッ!ってルスに結んでもらう妄想を書きました。癖詰めボックス!ウェストコートやカマーベストの画像とか見ながら一緒に妄想していただけたら嬉しいです。

②ブラックタイ着るマヴの小話から数年後の、デキてるルスマヴェ。今度は息子の結婚式でスピーチすることになったマヴを迎えに行くルスと、バイトのmob君視点。

③ルスの膝に靴乗せて、ルスに靴紐結ばれる自ネタ、絵面想像して最高に激ってしまったので小話書きました。めちゃめちゃ甘めのルスマヴェです時系列としては、mob君視点の前。

初めて足を踏み入れた時は、それはそれは緊張したものだ。本来は気の置ける仲のはずのマーヴェリックの住処に初めて訪れた時、指先までが冷えるような心地がしていたのはルースターだけではなかった。迎え入れたマーヴェリックもまた、いささか緊張した面持ちで、ルースターの訪いに、戸惑いと喜色とおそれが混在した顔でいた。
思い返せばマーヴェリックのあんな表情は初めて見たかもしれない。
急死が数回で一生では足りないような目に遭ったあの任務から、初めてマーヴェリックの住処に訪れた時の思い出だ。
あの時のマーヴェリックの表情を、昨日のことのように思い出せる。あれから気構えなく、マーヴェリックの住処に足を踏み入れられるようになって久しい。
あの頃とは全く異なる心持ちーーむしろ胸弾むような心地と、心臓に矢が刺さったままのルースターは、熱る頬を自覚しながら今日もまたマーヴェリックの住処に訪れていた。
その先でとんでもない光景に合間見える心の準備などしているはずもなく、がらりと引いたモハヴェの倉庫の入口から、こちらに背を向けたマーヴェリックを視界に納める。声を掛けようと口を開いたものの、ルースターは眼前の光景を確と目にすると、あんぐりと口を開けたまま。
気づいたマーヴェリックが後ろを振り返ってルースターと目を合わせる。マーヴェリックが破顔した。
「ブラッド!君ちょうどいいところに来たな!背中、結んでくれないか」
唖然とし、口を開けたままのルースターは、肩に引き下げていた数泊分の衣類の入ったボストンバッグを足の甲に落とした衝撃で我に返った。

ルースターは、今目にしている光景が、有名な俳優と女優が共演しているラブロマンスならば、女優のドレスの後ろジッパーを引き上げる仕草、もしくはネックレスの留金を不器用に留める男のワンシーンが撮影される場かと見紛う。古い映画の撮影かのような。
けれどここは、砂が入り込んだモハヴェにあるマーヴェリックの住処の倉庫で、数々のコレクションに囲まれた無骨な舞台だ。
ざらりとした砂が散らばる地面を踏み締める先、マーヴェリックが纏う衣装がここを幽玄にしていた。
ホワイトのウィングカラーシャツに、ウェストコート。しかもバックレスのウェストコートの後ろは結ばれておらず、マーヴェリックはこちらに背を向けて、顔だけを振り仰いで笑った。
「いや、助かる。なんていいタイミングで来てくれたんだ。後ろ、締めてくれるか?」
再度同じような台詞で、そうしてもらうのが当たり前かのように、マーヴェリックはルースターの返事を待たずに前を向いてしまう。
視線が絡まなくなったことでルースターは息を止めていたことを自覚して、大きく息を吐き出す。見惚れていたことを悟られないよう、聞くべきことを問うた。
「な、んで、そんなフォーマルな格好してんの」
カラカラに干上がった喉から最初の〝W〟の息が抜けたが、マーヴェリックは気づいていないようだった。
そもそもルースターは少し長めの休みがマーヴェリックと被ったことを知り、休みに入ったと同時、モハヴェを目指してここまで来た。約束はしてあったし、数泊するつもりで荷物も持参している。道中在庫が切れたとマーヴェリックから連絡があり、ビアも買った。ルースターが好む銘柄とは異なるから、ルースター自身が好む銘柄も大目に購入した。そんな風に、マーヴェリックの住処に訪れる内の複数回目の今日のはずだった。
たしかになにがしかの空気感と距離感があって、少しずつではあるけれど、近づいている自覚は互いにあって。けれど、ルースターはそれほど急ぐつもりはなくて。そんなことをつらつらと脳内で考えながら、ルースターは目の前の光景に眩暈がする心地だった。
しっかりと伸びた背筋、ウィングカラーシャツの後ろに絡んだバックレスのウェストコートの襟ーーそして背面の腰のベルトを結ぶ役割を、ルースターは引き受けた。
目に毒ーー目に華だ。
「以前世話になった人の娘さんの結婚式に招待されたんだ。娘さんの方も知らない仲でもなくてね。柄じゃないんだが……スピーチを頼まれてしまって」
なるほど、そういう理由かと、ルースターはベルトの穴を凝視しながらそれを締める。
「ブラッドリー、もっと締めて」
「、う、ん」
吃った相槌にもマーヴェリックは気づかなかったようだ。遠慮しすぎてマーヴェリックの腰回りより遥か幅広い位置でベルトを締めれば、当然ながらマーヴェリックから注文がつく。
再度、三つほど内側でベルトを締める。
マーヴェリックの腰位置は高く、ルースターは自分の腰位置を自覚して、無意識に腰を引いた。
ーーいや、なにしてんだ、おれは。
誤魔化すように、締めたよ、と告げると、マーヴェリックが振り向いた。
瞬間、映画の撮影のワンシーンのように、ルースターの眼前でフラッシュが焚かれたかと錯覚し、星が瞬いた心地がした。
綺羅星を瞳に宿したような美丈夫が眼前で笑う。
「ありがとう、ブラッド。今更だけどよく来たな。ブラックタイなんてあまり着慣れてないから、君がいいタイミングで来てくれて助かった」
それこそメディアで目にするような、ハリウッドのショウや、メットガラにいてもおかしくないほどに、ウェストコートを纏うマーヴェリックは煌びやかで華やかだった。ここまでブラックタイなフォーマルが似合う一般人は稀有だ。
「マーヴ、そんなフォーマル元から持ってたの?」
似合うよ、などとあらゆる感情が混在した台詞も告げられず、それこそむっちりとした腰を覆うウェストコートに手を伸ばしたくとも、その段階にない距離に、ルースターは至極当然の問いを投げる。
「いや、レンタルだよ。若い頃は格式ばった結婚式が多かったから持っていたけれど、この年になるとブラックタイなんてそれほど着る頻度も無くなってね」
そう言いながらジャケットを羽織る様は、正しく映画のワンシーンだった。
くるりとターンして、マーヴェリックはルースターに向かって小首を傾げるなどという仕草までしてみせる。
好いた相手の着飾った姿は感に耐えるとルースターは初めて知った。
ーーティーンの初恋かよ。
自問自答がいささか的外れでもないことに自虐しながら、ルースターは当たり障りなく、『まぁ、いいんじゃない?』と答えるにとどめた。
ーーうそ。めっちゃ似合う。超綺麗で超格好いい。
そんなルースターの心の葛藤などつゆ知らず、マーヴェリックはふむ、と頷くと、ジャケットを脱いだ。次いで再度ルースターに背を向けると、ベルトを外すようせがむ。
「時期的にウェストコートだと暑いかもしれなくてね。後ろ外してくれるかい?カマーベルトかカマーベストを試したいんだけど、そっちも手伝ってもらえるかな?」
「は?ころすき?」
「え?なに?なんて?」
「いや、なんでもない」
テーブルの上には、レンタル一式の衣装が広げられていた。マーヴェリックはその中からカマーベストを取り上げて、あらゆる方向から矯めつ眇めつする。ぼそりと独り言のようにマーヴェリックが呟く。
「これ男性用のコルセットみたいだよなぁ」
その台詞に、後方でルースターが咽せた。
ルースターの脳内で、腰を紐できつく結ばれるマーヴェリックの姿が翻る。それは数分後に実際に目にする光景だし、この手で触れるマーヴェリックのからだの部位への妄想だ。
顔を赤くして滲んだ汗を見られまいと、ルースターが手の甲で頬を拭う。
マーヴェリックが振り向く。
視線が合う。
爽やかとは言い難い、これもまた、初めて見る顔で笑っていた。
ーーたしかになにがしかの空気感と距離感があって、少しずつではあるけれど、近づいている自覚は互いにあってーー
……あんたわざとかよ」
ルースターは頬を染めたままずるい大人を責めた。
ルースターの言葉に一瞬だけ天を仰いだマーヴェリックは、悪戯げに笑った。
「『かんがえるな、うごけ』」
その言葉を聞いて、ルースターは口を尖らせ、怒る。が、すぐに困ったような、けれど愛おしさが隠せない顔で、結局はマーヴェリックに手を伸ばした。