吾妻
2024-10-10 00:47:30
7272文字
Public アークナイツ
 

🐕️SS log 02

SNSなどに投げ込んでいたテキ博♀の短い話のまとめです。
つきあっていて、いちゃいちゃしています。
コラボシナリオに出してもらえて嬉しかったので、その2本めと3本めはその勢いが溢れ出したものです。


不器用なきみ


 浅い微睡みから目覚めると、頭上には見慣れた天井が広がっていた。
 二度ほどまばたきをして、自分がどこにいるのかを思い出す。
 ここは執務室で、今は昼休憩中。慢性的な睡眠不足を少しでも解消するための仮眠中だった。
 現状把握が済んだところで、今度は室内を軽く見渡す。静まり返った執務室には、しかし、もうひとつ人影があった。
 向かい側のソファにペッローの青年が一人。
(休憩に行ってきていいと言ったのに……
 本日の秘書であり、プライベートでは恋人でもあるテキーラは、仮眠をとる主の番をするかのように大人しくソファに座っていた。私は寝るから君はお昼でも食べてきて。そう言ったはずなのだが、おそらくは昼休み中ずっとそこにいたのだろう。
 こういった振る舞いは一度や二度ではなく、漠然と今日も傍にいるのだろうなとは思っていたが、実際に姿を確認すると妙にむず痒い心地になる。彼の献身を喜びつつも、甘やかし過ぎではないかと心配にもなってしまうのだ。
 気配に敏感な男にしては珍しく、しばらく観察していても気づく様子もない。滅多にない機会なので、無防備な彼の姿を観察させてもらうことにした。
 携帯端末を手にしつつも、画面を見ているふうではない。足を組んでソファにもたれ、ぼんやりとどこかを眺めている。
 なにか考え事でもしているのか、彼のトレードマークである愛想のいい笑みはすっかりと抜け落ちていて、整った顔立ちからは何の感情も読み取れなかった。
 彼の明るい面しか知らない者ならば、何か深刻な悩みでも抱えているのかと案じるだろう。だが、幸い自分はあのアンニュイな佇まいがネガティブな感情に起因しているわけではなく、むしろ非常にリラックスしている状態なのだと知っている。
 テキーラが他者と接する時に見せる朗らかな笑顔やスマートな立ち振る舞いは決して演技ではない。彼がここに至るまでに培った社交性の為せる技だ。
 けれど、その朗らかさが全てでもない。思慮深く、繊細で、潔癖な若さを併せ持っている。
 そして彼は自身の柔らかな部分を、他者に見せるのが苦手なのだ。

――ドクターからも叱っといてよ、エルネストのこと。

 ドッソレスでの薬品輸送任務を終えたのち、カタパルトが珍しく執務室にやってきた。

――どうせ報告書はソツなく書いたんだろうけどさ、あたしは黙っておいてなんかやらないかんね。

 唇を尖らせ、カタパルトはドッソレスでのテキーラの〝私用〟について語った。密告――というよりは、いかに彼が抱え込みがちで、他者を頼るのが苦手で、なおかつ水臭いかという愚痴の共有のようなものだった。
 事の顛末に関しては、すでにテキーラ本人から報告を受けており、今回新たにロドスに迎え入れることとなった面々からも情報を得ている。
 ドッソレスが彼の地元であり、やがて立ち向かわねばならない故郷の一部であることを考えれば、現地でのテキーラの振る舞いも理解はできる。だが同時に、カタパルトが唇を尖らせる気持ちも、わからなくはない。

――ドクターといるときも〝ああ〟なの?

 やがて言いたいことを言ってすっきりしたのか、盛大な深呼吸をしたのちに、カタパルトが呟いた。
 どう答えようか少しだけ悩んだが、嘘を言っても仕方がないので、「そうかも」とだけ答えると、カタパルトが露骨に呆れた顔を見せた。

――つきあってんのに? 心配になんないの?

 その問いに、なんと答えたのだったか。
 ぼんやりと記憶の底を浚っていると、ようやく視線に気付いたのか、テキーラが顔を上げてこちらを見た。
「おはよう、ドクター。よく眠れた?」
 凪の海のように静かだった男の顔に、朗らかな笑みが広がる。自分にさえ碌に見せてくれない素の表情が隠されてしまったことに、やや残念な心地にもなったが。

――信じているからね。

 カタパルトに伝えた自分の言葉が不意に蘇ってきて、鈍い痛みは消えていった。
 繊細さも、潔癖さも、水臭さも。
 そのすべてが彼の一部であって、切り離せないものならば。
 曲げたり歪めたりして従わせようとするのは健全ではない気がした。
 彼が、自身の望む〝正しい道〟を模索している限りは、その道行きを、在り方を、信じたいと思っている。
 互いにすべてを曝け出さなければ愛していることにならないなんて、決まっているわけではないのだし。

……ドクター?」
 返事がないのを案じたのか、テキーラの薄水色の瞳が気遣わしげに揺れる。
……まぁ、もうちょっとだけ気を許してくれてもいいとは思うけど)
 その不器用さもまた、彼のかわいらしいところなのだ。
「起こしてくれる?」
 手を差し伸べて助力を乞えば、テキーラが少しだけ眩しそうに目を細めた。
「仰せのままに」
 不器用な青年がソファから腰を上げると、大きな尻尾がふさふさと揺れた。


【おわり】