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吾妻
2024-10-10 00:47:30
7272文字
Public
アークナイツ
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🐕️SS log 02
SNSなどに投げ込んでいたテキ博♀の短い話のまとめです。
つきあっていて、いちゃいちゃしています。
コラボシナリオに出してもらえて嬉しかったので、その2本めと3本めはその勢いが溢れ出したものです。
1
2
3
4
watchdog
目の前には一枚の扉がある。
何の変哲もない船室の扉だ。特に豪奢な装飾を施されているわけでも、大きさが異なるわけでもない。自分の部屋の扉となんら変わらないそれ。
だが、今の自分にとっては天を衝く山にも匹敵するほどの高く分厚い壁だ。幾度も挑もうとして、超えられなかった障壁。今日こそは突破して宿願を遂げたい。
つまり
――
ドクターに告白したいのだ。
僕とドクターが直接やりとりすることはほとんどない。
僕は内勤スタッフで、ドクターは外勤任務につくオペレーターたちを管轄している。業務上はほとんど関わりがないと言っても過言ではない。
それでも、その聡明さや物腰の柔らかさ、ウィットに富んだ会話
――
何より、ふとした瞬間に垣間見せる優しさに、僕は恋をしたのだ。
ドクターだってきっと、憎からず想ってくれているに違いない。そうでもなければ、あれほど楽しそうに話をしてくれるわけがない。立場上遠慮しているだけなのだ。
だから今日こそは私室を訪ね、こちらの方から想いを告げようと決意した。
訪ねるきっかけとして用意した書類を手に、インターフォンに手を伸ばした
――
そのとき。
「あれ、どうしたの? こんな時間に会うなんて珍しいね」
「ひっ」
突然男の声が聞こえて、文字通り飛び上がってしまった。
振り返ると、無人の廊下にぽつんと人影が立っている。
背の高いペッローの青年が、愛想の良い笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
どうしてこんなところにいるのだろう? 時刻は既に深夜近く。ドクターの私室は居住区画の外れにあり、この時間帯はあまり人も寄り付かないはずなのだが。
彼のコードネームは知っている。確か〝テキーラ〟だったはずだ。本艦常駐のオペレーターで、かなりの頻度でドクターの秘書を務めている。おかげでこっちは幾度もドクターに話しかける機会を逸しているのだ。
「そこ、ドクターの部屋だよね?」
笑顔にも声音にも変化はない。それなのに、なぜか背筋がひやりとした。
「こんな時間に何か用事でも?」
氷のような薄水色の瞳が、じっとこちらを見つめている。
「そ、そうなんだ。どうしても急ぎで確認してもらわなきゃいけない書類があって
……
。も、もちろんドクターにも訪問する旨は伝えてあるよ」
確認してもらいたい書類があるにはあるが、別に急ぎでもなければアポイントメントも取っていない。だが、世の中には必要な嘘というものがあるのだ。とにかく今すぐに彼には立ち去ってほしかった。
テキーラがどれほど部下として有能で、秘書として重用されていたとしても、ドクターのプライベートにまで口を出す権利はないはずだ。
しかしテキーラは柔らかな笑みを浮かべたままで、
「ふぅん、
そんな話聞いてないけど
・・・・・・・・・・・
」
と、言った。
「
……
え」
聞いてないのは当然ではないか? アポの有無に関わらず、業務時間外に訪ねてくる人間がいるかどうかを、なぜドクターがこの男に伝える必要があるのだ?
いや待て。まさか、そんな。
扉の前で動けずにいると、ペッローの青年が歩み寄ってくる。
遠目から見ていたときは気づかなかったが、隣に立たれるとやたらと威圧感がある。背の高さだけではなく、妙な凄味があるというか
……
。
「確認が必要な書類って、それ?」
テキーラの目が、手に持ったままの書類に向いた。
「そうだけど
……
」
「そっか」
「あっ!?」
次の瞬間、手から書類が消えていた。
「おい、何す
――
」
いい加減我慢の限界だ。この手から書類をひったくった男を怒鳴りつけてやろうと睨みつけ、しかし、あまりに受け入れがたい光景を目にして固まった。
テキーラはまるで自室であるかのように、扉にパスキーを打ち込んでロックを解除してしまった。
呆気に取られているうちに、解錠を告げる電子音が鳴り響き、扉がするりと横滑りに開いた。室内は暗く、中の様子は伺えない。もしもドクターが既に就寝しているのだとしたら、その部屋に断りもなく入れるこの男は一体何なんだ?
「なん
……
、パスキー
……
知って
……
」
「これ、俺がドクターに渡しておくからさ」
手にした書類をひらひらと振ってみせ、テキーラは室内に足を踏み入れる。
「じゃあね、おやすみ」
そして、嫌味なほど清々しい笑顔を残し、扉を閉ざした。
電子錠がかかる無情な音。その余韻を噛み締めながら、僕はしばらくその場に立ち尽くしていた。
*
「君も大人げないな」
薄暗い室内踏み込んで、デスクの上に取り上げた書類をやや乱雑に放り出すと、ベッドから声が飛んできた。
「起きてたの?」
「部屋の前が騒がしいから、流石にね」
ベッドに横たわっていたドクターが体を起こし、ベッドランプのスイッチを押す。
「
……
今までは大したことはしないと思ってたけど、こんなふうに訪ねてくるようになったら気をつけたほうがいいよ」
「そうだね。明日人事部に話をしておく」
ドクターは寝乱れた髪を整えつつ、眠気の絡んだ声を返す。あまりに無防備なその姿を前にして、テキーラは少々胸のすく思いを覚えて、そんな自分に呆れた。
〝恋人〟の油断した姿を見られるのが自分だけだと思うと、やはり優越感を覚えてしまう。
「ドクターはモテるから心配だなぁ」
自身の胸の内に広がった黒い感情を誤魔化すように、テキーラはベッドに歩み寄った。
ベッドに座って自分を見上げてくる恋人の体を、上からすっぽりと包み込む。
「抱き枕がなくて困ってたんだ、今日はもう寝よう」
ドクターは覆いかぶさってくる男を抱き返し、ぽんぽんとなだめるようにその背を叩いた。
【おわり】
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