吾妻
2024-10-10 00:44:59
7359文字
Public アークナイツ
 

Short Story log06

SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にイチャイチャしています。
今回は白铁博♀と流博♀と史都博♀が入っています。


リゾート地で待ち合わせ


 時刻は真昼から午後へ移り変わる頃合い。
 ニューシエスタのメインストリートは、観光客でごった返している。
 火山の噴火を理由に移動都市への移住を開始した当初は随分と混乱もあったようだが、現在のニューシエスタはテラでも有数の観光地という立ち位置を取り戻したように見える。
 鮮やかなカラーリングで彩られた建物を横目に、ルーメンは手元の端末で待ち合わせ場所を確認した。
 確かこのあたりのはずだ。
 いくつもの道が交わる広場。中央に据えられた噴水。ウォーターアミューズを全面に押し出しているシエスタらしいランドマーク。
 ドクターとは、そこで待ち合わせている。

――その時期は、シエスタ周辺に停泊している予定なんだ。

 先月、定期健診や契約更新の手続きのために本艦を訪れる旨を伝えた際、ドクターがそう切り出した。

――提携企業との仕事もあるんだけど、福利厚生の一環というか、まぁ夏休みみたいなものだね。ニューシエスタは再開発が進んで遊ぶところもたくさんあるみたいだし、君もそっちに来るといい。夏休みも兼ねているんだろう?

 ということで。お誘いに乗って現地集合となったわけなのだが。
「ドクターは……
 約束の時間より少し早いが、先程ドクターからは「もう着きそう」という旨のメールを受け取っていた。待ち合わせにうってつけのランドマークということで人も多いが、あの特徴的な見た目を見逃すはずはない。周囲を見渡しながら噴水に近づくと――

「そう言わずにさ~。美味いメシも奢るから、一緒に行こうよ~」
 軽薄な声が耳を打つ。
 どうやらすぐ傍でいわゆるナンパと呼ばれるものが行われているようだ。
 ここに至るまでもあちこちで同様のやりとりを見聞きしてきた。夏という季節ゆえか、薄着の人々が集まる観光地ゆえなのかはわからないが、聞いているほうがいささか居心地悪くなってしまう。
 誘われていた側の反応は、露骨に嫌そうなものだったり、まんざらでもなさそうだったりと様々だったが、果たして今回は――
「何度も言っただろう、人と待ち合わせているんだ」
 あまりにも聞き覚えのある声が返事をして、ルーメンは思わず声の方を振り返った。
 そこにいたのは、全身を防護服とフェイスマスクで覆い隠した完全防備の人物――ではなく。スポーティなキャップに少々大きめなパーカー、下は細身のジーンズというラフな格好の女性がひとり、立っていた。
「そうはいっても暑いしさ。お姉さん倒れないか心配なくらい細いし。すぐそこのカフェでも……
……ドクター?」
 なおも食い下がらない男の言葉に割り込むように、ルーメンは呼びかけた。
 女は目深に被ったキャップのつばを持ち上げて、すぐ側に立つ青年を見上げる。
「ああ、着いたのか。お疲れ様」
 キャップの下から覗いた顔は、紛れもなくドクターだった。まさか私服で来ているとは夢にも思わなかったルーメンは、久しぶりに見る恋人の素顔に目をしばたかせる。
「えー、と……あー……もしかして、お姉さんの――カレシ?」
 突如現れた闖入者に、ナンパに勤しんでいた男の声が徐々に勢いを失っていく。
 彼氏。恋人を指す単語だ。その呼び名に未だ慣れたわけではなく、これからも慣れることができるかは不明だが、ともかく今は。
……そうです」
 待ち合わせ場所から大切な人を連れ去ろうとした不届き者に対し、ルーメンは持ちうる限りの威厳を総動員してきっぱりと告げた。
「あー、そうなんだ……そっかー……じゃあ、その……よい休暇を~……
 じりじりと後ずさり、力なく手を振って、最後は脱兎のごとく去ってゆく。
 その背中を見えなくなるまで見送ってからようやく、ルーメンは隣に立つ恋人に向き直った。
「すみません、見つけるのに手間取ってしまって……。まさか私服だとは思わなかったので……
「せっかくのデートだし、私も少しは開放的になるというものだよ」
 デートという単語とそれを告げるドクターの笑顔を、ルーメンは静かに噛み締める。久しぶりに再会した彼女は、記憶よりもずっと眩しく見えた。
「でも、いつも護衛の方が誰かついているはずなのに、今日は一人なんですか?」
 ドクターは特殊な立場の人間だ。さらに、びっくりするほどフィジカルが弱い。だから普段は彼女の部下にあたるオペレーターが護衛についているはずなのだが。
 するとドクターは右手を持ち上げ、人差し指でトントンとルーメンの胸元をつつく。
「今日は君がいるだろう? 流石の私も、デートに部外者を連れてくるほど無粋じゃないよ」
 いたずらっぽく笑って見せるドクターは、いつもより随分と浮かれているように見えた。彼女は過労が祟ると少々挙動がおかしくなる性質を持っているのだが、見る限り顔色も悪くなく普段より元気そうだ。
 もしかすると彼女は純粋にこの休暇を楽しみに――自分に会うのを楽しみにしていてくれたのかもしれない。
 そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられる心地になる。
「昼食はもう済ませた?」
「いえ、ちょっとシエスタに到着するのが遅れてしまったので……
「そう。じゃあまずは食事にしようか。おすすめのダイナーがあるって割引券をもらったんだよね」
 そういうと、ドクターは手元の端末を操作し、店へのアクセスを確認し始める。
 画面を滑る華奢な指先。普段は防護服に包み隠されている細い首筋。
 それらは本当に、今目の前に存在するのだろうか。
 浮かれた夏の気配が見せた幻だったらどうしよう。
 気づけば、手が伸びていた。画面に見入っているドクターの髪に触れ――ようとしたところで。
「でも、奇特な人もいるものだな。もっと可愛い子がたくさんそのあたりを歩いているのに」
 どうやらさっきのナンパに関する話らしい。
「ドクターは魅力的ですよ。だから僕はいつも心配なんです」
 顔の横に流れる髪をそっと指先で梳いてやると、ドクターは端末からルーメンへと視線を移す。そして、少しだけ困ったような顔で笑って見せた。
「君は少し贔屓目が過ぎるよ」
「当然ですよ。僕はドクターの恋人、ですから」
 照れつつも真正面から伝えれば、今度こそドクターの目が丸く瞠られた。
「なので今日は僕の傍を離れないでくださいね」
 髪に触れていた手を下ろし、ドクターの片手をそっと握る。ドクターは、恋人に触れられた手を見下ろしてから「ふふ」と堪えきれない笑いをこぼしてみせた。
 繋いだ手をしっかりと握り返し、身長差を埋めるようにつま先立ちになってから、ドクターは。
「じゃあ今日はエスコートを頼むよ、ダーリン」
 ルーメンの耳元に唇を寄せて、甘えた声で囁いた。


【おわり】