吾妻
2024-10-10 00:44:59
7359文字
Public アークナイツ
 

Short Story log06

SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にイチャイチャしています。
今回は白铁博♀と流博♀と史都博♀が入っています。


恋しさ余って


 ……やはり、おかしい。
 予感が確信に変わり、ドクターは眉間の皺を深くした。

「そのへんの細かいことは、報告書にしてあたし宛に送っておいてよ。そんで、明日――は休み? じゃあ明後日でいいから、エンジニア部に顔を出してくれる? 前話してたプラットフォームの改良案について、話したいことがあるから」
「りょーかい」
 少々長めの出張から戻ったフェリーンの青年は相変わらず快活で、首席エンジニアに報告を行う姿からも、特に変わった様子は見受けられない。
 ……のだが。
 どうにも違和感があって、じっとステインレスを観察していると、一瞬だけ視線がぶつかった。しかし、すぐについ、と向こうから逸らされてしまう。
 視線が合わない。珍しいこともあるものだ。

 ステインレスとドクターは、世間でいうところの恋人同士である。
 出張に出ている間も頻繁に連絡を取り合っていたし、なんなら昨日も短いながら通話をした。その際も、特に気まずくなるような出来事はなかったように思うのだが。
「んじゃ、あたしは戻るね~。あとはおふたりでごゆっくり~!」
 必要事項を伝え終えたクロージャが、含みのある笑みでドクターとステインレスを交互に眺めて執務室を出ていった。どうやら、からかっているつもりらしい。
 クロージャが去り、執務室の扉が閉ざされると、室内に沈黙が満ちる。
 いつもなら、二人きりになった途端に距離を詰めてくるタイプのフェリーン男性だから、やはり何かがおかしい。
 小さな吐息を一つ漏らして、ドクターは席を立つ。応接用ソファに座ったまま、所在なさげにしている青年の目の前に、わざとらしく立ち塞がった。
「フェイスト」
 コードネームではなく、わざと本名で呼びかける。
 すると、頭頂部の耳とふわふわの尻尾をぴくりと動かしたのち、ステインレスは上目遣いにドクターを見上げた。
「何かあった?」
「えっと……
「それとも、私が君に何かしたのかな?」
「えっ!? それは違っ……!」
……君に会えるのを楽しみにしてたのに」
「俺だって早くドクターに会いたかったんだって!」
 ドクターの拗ねた声に反応して、勢い良く立ち上がったステインレスは、目の前に立つ恋人を腕の内に抱き込んだ。
 はじめは少しだけぎこちなく、そして次第にしっかりとした強さで、日々の労働で鍛え上げられた胸に抱き寄せられる。同時に、肩に預けられた男の頭から「あー……」と、奇妙なうめき声が聞こえてきた。
「ごめん……ドクターは全然悪くなくて、嫌な思いさせるつもりもなかったんだけど……。なんつーか、今朝、すんごい夢、見て……
「夢……?」
 夢見が悪かったのだろうか?
 見かけよりも厚みのある背に腕を回して、さすってやる。快活な青年から笑顔を奪うような悪夢とは、一体――
「えーと……その、ドクターと……してる、夢って、いうか」
「して……
「だから、つまり――
 耳に限りなく寄せられた唇が、こそこそと具体的な内容を伝えてくる。
 要するに、ベッドで〝仲良く〟する夢を見た、ということらしい。しかも相当に鮮明で、濃厚なヤツを。
……
「ドクターが夢に出てくんの、別に初めてじゃないけどさ……あんだけすごいの、今までなかったからさ……あー、俺マジでドクターに会いたいんだって思ったら、急に恥ずかしくなってきたっつーか……。そんで、顔合わせたら夢のこと思い出しちゃって……
 ぎゅう、と背に回された男の腕に力が籠もる。そして、より一層耳に寄せられたステインレスの唇が、
……やっぱ、あんま我慢できないかも。夜、部屋行っていい?」
 吐息混じりの低くかすれた声を絞り出すものだから。
 心身ともに逃げ場のなくなったドクターは、「……うん」と頷くことしかできなかった。


【おわり】