清春
2024-09-20 23:52:37
10117文字
Public BL
 

ヤスチハ

まとめ


クリスマス準備中

……クリスマスプレゼント、どうしよう」
 机の上に肘をつき、スマートフォンの液晶画面をすいすいとなぞりながら呟く。
 もうすぐクリスマス・イヴ、あとクリスマス。今年はヤスと一緒にいれるらしく、飯はどうするか、ケーキはどうするかと珍しく浮き足立った彼を見れて、こっちまで嬉しくなる。楽しみだな、プレゼントどうしようかな、と俺も久々にクリスマスが楽しみになっている。
 家族はクリスマスとかのイベントをしない人で、昔から縁遠かった。でも、高一の時にヤスとサクヤでクリスマスパーティーしたな、と思い出す。クリスマスの時期、珍しくサクヤの容態が安定していたから出来たことで、本当に楽しかったし良い思い出になっている。
 サクヤが心の底から楽しそうに笑っていて、でも「来年もこうできたらいいな」と悲しげな顔で言うから「もちろんだよ」と返して、その後なぜかヤスと疎遠になって、一年も経たないでサクヤの容態が急激に悪化して……ああ、ダメだ。これは封印しておこう。
 サクヤの話題は、ヤスとしない。ヤスにとってもあのことは精神的にきたものだった。だから、俺の知る限りヤスがクリスマスに必ずバイトを入れているのはそのせいかと思っていた。それなのに突然「今年はバイト休みにした、一緒にクリスマス過ごそうぜ」と。さすがに十年も経てば乗り切ることができるのかな。
 考えたところで、わからないことに変わりない。ため息をこぼし、スマホの電源を切って俯く。
「ヤスの欲しいものってなんだろ……
 そんな十年以上の付き合いだというのに、ヤスの好きな物はいまだによくわかっていない。高校生の頃はプレゼント交換をすることはなかった。でも、今回は用意したい。金銭面は、相変わらず微々たる収入だけども。
 外に出る? いやいや、無理。外に出たところで俺はきっと何も収穫を得れない。かと言って通販をするわけにもいかない。ヤスに確実にバレる。どうせならサプライズにしたい……などと、うんうん悩ませても、物書き職の端くれだというのに想像力はこのザマだ。悲しくなってきた。
……ヤスに直接聞いた方がいいのかな」
 ぽつりと零す言葉はどこにも着地せず、落ちていくものだと思っていた。しかし、後ろから頭に手を置かれ、ぐりぐりと撫でられることによりヤスの存在に気づいた。
「何を聞くって? チハル」
「ヤ、ヤス……もう起きたの?」
 三時間前に帰ってきて、お腹を満たし風呂に入ってすぐに寝ていたヤスがなぜかいた。まだまだ眠そうな顔をしているけどヤスは変わらず男前でかっこいい。
「喉乾いたから飲み物欲しくて起きたんだよ。そしたらチハルがまーた何か悩んでるのが見えてな。気になって眠れねえから、話せ」
 おれは言葉に詰まらせる。サプライズにしたかった気持ちがあるから、言おうか悩んだ。
 でも、ヤスは答えを催促してくる。さすがに隠し通すことが厳しいだろうと思い、俺は諦めて悩みを吐露したら、ヤスはほうけた顔をしたあとに苦笑する。
「チハルがいてくれるならなんでもいい」
 そんな、甘い声で言うものだから、俺はみっともなく顔を赤くさせてしまった。まるで恋人に言うような声音と顔で言われたら照れてしまうに決まっている。
 俺たちはあくまで幼馴染で親友。ヤスはすっごく優しくて気遣いができるけど、少しタラシなところがあるだけ。だから、特別なことではないんだ。
……じゃあ、俺が何かヤスの欲しいもの買ってあげるよ。あんまり高いのは買えないけど」
「別にいいのによー。まあいいか、じゃあコンビニで売ってた新スイーツ。それ食いたい」
「それだけ?」
「それだけ。チハルにも一口やるからな」
 普段甘いものはあまり食べていないというのに、なぜだろう。と考えて、またもやヤスに甘やかされていることに気づく。俺も気になっていたものを分けてくれようとしている。
 ……ヤスは無欲だ。なんでこんなに優しいんだろう。
「じゃあヤスが起きたら、ちょっと早いけど買いに行こう。今日は休みだったよね」
「今からでもいいぞ?」
「ダメ。ちゃんと寝て。おふとん行こう」
 きっと買い物に出かけたらそのまま起き続けるに決まっている。たいした睡眠を取らずに、俺のために活動させるのは申し訳ない。ヤスの手を引いて、すぐ隣の部屋に敷かれた布団まで連れて行く。
「いや、俺のことは気にしなくていいって」
「おとなしくおふとんに入って」
「あーわかったわかった……チハルひょろひょろだけど意外と力強いよな」
 ヤスは俺の言う通り、ちゃんとふとんの中に入る。と、力強く腕を引っ張られてしまい、俺はふとんに倒れ込んだ。
 すぐ近くにヤスの顔があってどきりとする。垂れた真っ黒の目、セットされていないから無造作な黒い髪が、ヤスの整った顔立ちによく似合っていて色気を纏っている。
 ……ああ、やっぱりかっこいいな。
「チハルも一緒に寝ようぜ」
 どこか得意げに、ゆるく微笑む。
 間近に顔があるせいでどこを見ていいのかわからず、とりあえず唇を見ていたけど、形のいい薄い唇が妙に色っぽくて余計恥ずかしくなった。
「な、なんで」
「あんまり寝てないのはチハルもだろ」
「う」
 見透かされて何も言えなくなる。本当は今日も全然眠れなくて、気づいたら朝になっていた。
 夜はなかなか眠れない。色々考えてしまうし、ヤスもバイトだからいなくて寂しい。
 ヤスがばさりとふとんをめくり、俺を巻き込んでくるんだ。一人用の布団のこともあって、二人揃って身長が百八十前後の成人男性が入るとかなり狭い。でも、ヤスの匂いは安心する。
「ほーら、チハル。ねんねしような」
「こ、子ども扱いしないで……
「はいはい、悪かったよ」
 そう言いつつ、背中をとんとんと叩いてあやしてくるあたり、子ども扱いをしている。むすっとした顔でヤスを睨めば、へらっとした笑みを返された。
「可愛い可愛い。はい、寝ような」
…………
 結局ヤスは俺のことを弟みたいなものだと思っている。別に不服ではないけれど、これでも二十五歳の大人なんだけどな、と思う。
 まあ、ヤスには敵わないし、大きな手で撫でられるのが好きなのは確かだ。結局俺はヤスの与えてくれる優しさに甘えてばかりだから。
 香水の匂いがせず、俺と同じシャンプーの匂いに心底安心したまま目を瞑る。
 ———今こうしていると、俺とヤス二人だけの空間になったようで、一人で寝ようとすれば浅くなる呼吸が落ち着いたまま眠りにつけた。
 なお、少し寝すぎてしまい、真っ暗な夜に二人でコンビニまで歩いて行ったことはまた別の話。