るいざき
2024-09-06 01:04:29
13937文字
Public AC6_ラス6_銀環
 

曙光 解√ラス6♀

⚠️小物ボスが好きだ



 列車旅は丸一日かかった。停留所で突然停車した貨物車は、三叉路の線路上で立ち往生し、次なるアクセスコードを要求する。吹雪の視界の悪さから付近の目視での探索は困難を極めた。
 列車の外を見る。吹雪に包まれた視界は酷いがラスティの耳には確かにある信号を聞き取っていた。そうして見つけたのは停留所の制御盤で、信号のとおりコード入力をすると線路が切り替わった。これが最後の道順だ。

 程なくして地下鉄道へ接続。広い車庫に騒々しい転輪音を響かせて入庫すると、貨物車はようやく止まった。
 積載したMTを起動、潜入部隊を展開し、機動車両へ搭乗させる。ラスティはスティールヘイズに乗り込み、いざトンネル最奥を目指す。
道中には監視カメラすらなく、至る最奥では電子ロックされた隔壁が行き先を阻む。巨大な扉はブリーチも難しく、ACの兵装でも破壊できそうにない。ロックへのアクセスは難航していた。
「アーシル、最終手段だ」
「しかし、コーラルによる封入コードも信号による暗号キーも全て使用しました。もう手立ては……
「物は試しと言うだろう。それに……ここにも何かしらの仕掛けがあるように思える」
 各所に仕掛けられた高周波音はここにもあるようで、AC駆動音の合間にもラスティの耳にはその異音が届いていた。
……五分経過しても意識が戻らぬ場合、中和剤を打ち込みます。ご武運を」
 キン、と薬瓶のアルミキャップを除き、ラスティはコーラルをあおる。じわ、と浮つく心地がすぐに胃の底から上がり、背骨伝いに脳を掴まれる心地がした。だが耐性のあるラスティには本来あるはずの幻視は薄く霞がかる程度で、どうにかその断片を掴もうと目を閉じる。
 意識を集中するうちに昇華が始まる。そうしてすぐにこの超高音が、パルス障壁の不協和音であることを悟る。五体の感覚は既に遠く、周囲は明滅の汀が押し寄せ身体の輪郭をさらって行こうとする。──なるほど、調律というだけあって意識散逸は加速度的だ、耐性があってこうして俯瞰していられるが、もうあと数分と持たないだろうと、ラスティは更に意識を律する。
 AC視界接続時と似た没入が始まる。このトンネル内を漂う光の網が見え、それらは電子ロックの前で人型を成す。──情報体でもあるというコーラルの残余だろうか、これまでは幻視とされてきたが、エアという意識体の実例がある。ならばあるいはと、その手元へフォーカスすると、人型の指先は明瞭に解錠コードを入力してみせた。
(よし。これで──)
 そのまま、扉が開く。ぽっかりと空いた虚へ向かって、情報体が渦を成して飲み込まれて行くようだ。それは意識ばかりになったラスティも例外ではなかった。
(なっ──?!)
天高く水面青く彼方の星空は赤く明滅する永遠の世界久遠の命身体は容物に過ぎず朽ちれば新たな器を求めるそうしてどれ程たっただろうか無限の闘いを重ねて累ねて累て累累累死骸の頂に立死の匂油臭く悦びも充足も飢えた犬は遠き忘れ形見すら取り落とし(う……──ッ)て彷徨い波形の声すら既に見失さような ら 友  よさよ  うならサよう  なら わたし は
                       き
                         え
                            ル


           ──ラスティ、



「ラスティ!!」
 ガクン、とスティールヘイズがたじろぐ。すぐに姿勢を戻すと、一度切られていた回線が再びさざめく。
……どれくらいだ?』
「五分きっかりです。中和剤は?」
『自力投与する、心配しないでくれ。──今からコードを送る、試してみてくれるか』
 アーシルの情報端末には一行の数列が届く。開け、そう祈りを込めて直にキーを叩く。──不協和めいた電子音と共に、グリーンランプが点る。
「開きました、総員一時待機」
 アーシルが人間用通路へドローンを差し込む、隔壁向こうを伺うと、夜半警備に船を漕ぐ男がふたり。アーシルの銃弾が音もなくふたつの脳漿を散らした。
「クリア。施設情報を回収せよ」
 軽装の隊員がひとり身を差し入れ、警備室の端末へアクセスする。元より隠蔽された地域性か、ファイアウォールはおざなりで施設警備システムにすら容易に入り込む事ができた。すかさずスティールヘイズにもリアルタイム情報が共有され、ラスティはアーシルへ翠の眼を向けた。
『ここは以前、戦友が制圧した駐屯施設だ。……潤沢な物資が集積されていたのは、ここに重要施設があるということだろう』
「つまり、地下にファクトリーがある事は確定ですね」
『ああ』
 ホログラムに枝葉を生やすように拡がる施設図は、突貫工事じみた奇形だった。半地下に位置する巨大空間はおそらく、CEL240が安置された実験設備だ。
『──む、施設地上にいくつかの熱源を検知した』
「壁への輸送でしょうか」
『陽動を兼ねて、私はこれを抑えよう。地上へ出る』
「了解しました。最短ルートを提示します」
『ありがとう。……レイヴンを頼んだぞ』
必ず見つけ出しますサー、イエスサー!」

 スティールヘイズと別れ、機動車両は施設エントランスへつけ止まる。MT二機が後方を固め、施設内スキャンを行う。
 音も無く開始される侵攻、陰から影へと滑り込むアーシルと、並々ならぬ戦士たちは捕虜収監エリアを制する。殆ど空室の様相に、部隊には緊張が走った。
 次いで研究室、暗い収監エリアと対照的に白飛びするようなエリアだ。ガラス張りのオフィス、その両端から追い立てるように室内へ銃口を向けると、呆気なく研究員たちは投降する。
「C兵器の実験棟はどこだ。そこにレイヴンがいるのだろう」
「し、施設はあちらだ!だがレイヴンはそこにいない!今は、確か……
……何?」
 怪訝に研究所長の脂汗塗れの眼孔を見下ろすうち、AI音声のアナウンスがそこかしこに響いた。
<CEL240、機動確認。関係者各位はA01ハンガーまでお越しください、繰り返します──>
「?!そんな、まだアイビスの適合者は見つかっていないはず!!」
「どういう事だ、説明してくれ!」
「そのままの通りだ!レイヴンすらまだ実験していないのに、何故……!」
「くっ!」
 オフィススタッフの拘束を任せ、アーシル率いる四名編成でハンガーへ攻め入る。研究者二名が少女の横たわるベッドを挟み物々しい設備を前に立つが、その様相は何かがおかしい。目覚めたというアイビスは沈黙を続け、およそ動く気配がない。つま先まで弛緩したように吊り下げられる様は人形のようだ。
「手を挙げろ!投降するならば危害は加えない」
「?!」
「わ、分かった、降参だ」
 膝を着き伏せる男たち、ベッドの上では意識ある少女が枷に抗い手足をばたつかせている。
「君は──マグノリア?!待ってろ、今外す!」
 アーシルは教え子の拘束を解き、なりふり構わず身を起こす背を抱き寄せる、ぜいぜいと息を切らす、真っ赤に染まった眼は涙目にアーシルへ叫んだ。
「レイヴンが、レイヴンが手術室に連れていかれた!!バラバラにされちゃう、はやく助けて!!」


 踵を返した回廊にはどこから湧いたのか、アーキバス系警備兵が回廊向こうに配置されるのが見えた。
「おそらくテロの際に起用された強化人間部隊だ。的確に狙え」
「了解」
「アーシル、ベータ、お前たちはレイヴンを探しに行け。要保護対象もここには置いておけん」
「では一時的に指揮権限をエコーへ委任する。必ず生きて合流せよ、以上オーバー

 アーキバス製光線銃のリロードに合わせて、教え子を抱えあげた。先鋒コールサインベータ、装填間際に壁端から『出た』つま先を狙う。──命中。
動けムーヴ行けムーヴ!」
 白いオフィスの腰壁へ滑り込むと青白い光線が追う。強化硝子はこれを通さず、回廊側から攻め上るベータと共に同輩が道を拓く。出口間際へ詰め寄る警備兵、しかし間口の狭いドア付近は的が絞られるのだ。ひとり、ふたり、『脚を狙え』、掃射により膝から崩れ落ちる。強化人間にヘルメットを誂えど、全身装甲フルアーマーでないならば、弱所はそこにある。
「フッ!」
 ベータへ少女を預け、目にも止まらぬ速さでアーシルの手が喉笛へ届く。ぶつっと肉を貫く手応え、それと同時に二射撃ち込まれる。引き抜かれるは銃剣バイヨネット、次いで掴みかかろうとする警備兵の光剣を蹴り上げ、振り抜きざまヘルメットごと蹴手繰り腕を引き掴み喉笛へ『刺す』。
「わ、アーシル……かっこいい……
「ベータ、そのまま彼女を抱えて。このまま斜め向かいへ走る。目標は確かだな?」
了解ガッチャ、嬢ちゃんちょっと失礼するよ」
「はい……っ」
 隙を伺う壁際、何やら大きな振動を感じる。警備兵たちには何事か問題があるらしく、たたらを踏んで隊列が乱れた。そこへ待機していたMTがすかさずガトリングを撃ち込み、生身同然の肉体は沈黙した。
 その間隙を抜い奇形回廊の先へ駆け出す、僅かにも追いすがる光弾は味方が抑え込み、彼らの無事を祈りながらも一点を目指す。
 ストレッチャーすら放り出されているここは医療設備か。手術室が並ぶうちのひとつにランプが点っていた。
 スイングドアを蹴り開け、準備室を早々に抜け青白い小部屋へ躍り出る。
動くなフリーズ!!」
 ベータのドスの効いた咆哮は術着の者共を震撼させ、その手を止めさせた。ニトリルの指先にはまだ血糊はなく、赤いガラスタンクから何かが吸引されている所だった。
「今すぐレイヴンの状態を安定化させろ。その後にこちらへ身柄を返却せよ。不審な動きをすれば即刻射殺する」
 アーシルは銃剣を構えたまま、処置の始まるレシピエントを見下ろす。あの日から目覚めぬ少女が今、眠ったままの姿でそこにいた。磔のような姿勢で四肢をさらけ出されているところから、マグノリアの言う通り四肢切断寸前であったことが伺える。木偶の坊となった研究医を押し退け、マグノリアはレイヴンの傍へ駆け寄った。
「同志ラスティ、こちらアーシル。レイヴンを保護しました。」
……同志アーシル、至急停泊させたヘリへレイヴンを格納し、スティールヘイズと随行せよ。』
「──え?」
 耳に掛ける通信デバイスに思わず指を宛てがう。ラスティの常々平静な声は地上制圧の文字を短に伝えるが。その後の溜息には困惑の色があった。