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るいざき
2024-09-05 12:43:02
15687文字
Public
AC6_ラス6_銀環
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片翼Ⅱ 解√ラス6♀
⚠️長い
1
2
3
4
ルビコン解放戦線、上層階にて。
司令部隣室、人払いされた応接間では、フラットウェルがデスクに座りタブレットの画面を睨む。そんな折にドアがノックされた。
「入れ」
黒いコート、タクティカルマスク、藍の髪。待ち侘びた男がそこに姿を表し、デスクまで進み出る。まだ色濃い消毒液の香りが鼻につき、コートのポケットへ突っ込んだままの手に包帯が見え、帥叔は深く溜息をついた。
「まずは、大型ヘリからの生還を祝おうか」
金眼が視線を巡らせ、再び帥叔へ向き直ると、手を後ろに組んだ。
「慣れない賛辞など必要ない。」
「
……
では、単刀直入に聞こう。プラットホームでは何があった」
ひと呼吸置き、ラスティは一通りの経緯を述べる。政務官の謀叛、プラットホームでの出来事。
「独立傭兵レイヴンの戦闘力が敵に渡る事を危惧し、射殺を試みたが失敗した。この判断はエアとの保護協定に違反することは承知の上だ」
「英断だが、契約者本人の目の前で行う事では無いな」
「以降改善に努める。
……
それで、エアはどんな処分を望んでいる?」
「いや、彼女はお前が意識を失った後、我々へ向け救難信号を放った」
ああ、それで帥父が
……
とラスティは納得する。どうやら大型ヘリの飛来を察知し、熱源反応と勘を頼りにアストヒクを駆り辿り着いたらしい。そこでエアの声を聞いた、と。
「レディ・エアからは、これと言った違反措置を要求されてはいない。状況が状況なだけに、保留としているのだろう」
「そうか」
目を伏せ、エアの気配を探るが。あの微かなホワイトノイズは見つけられなかった。
「それからラスティ。これを」
帥叔が椅子を離れ、チェストからなにか取り出す。黒革のホルスターだった。
「ポケットに突っ込まれるとは銃が泣くぞ」
「ファンにプレゼントして来たんだ。助かるよ」
帥叔は片眉を上げて鼻で笑う。受け取ったホルスターに護身の友はぴったりと納まった。
「ああ、それからドクから伝言を預かっている。『クソガキ、ギプスはテメェで外せ』だそうだ」
「もう彼の手を煩わせられる状況ではないからな」
帥叔がデスクの引き出しからナイフを出す。ラスティはコートをソファに掛けてナイフを受け取り、その場でギプスを切り始めた。
「で、壁の様子はどうだ」
「アーキバス残存勢力の集結が完了間近だと偵察隊から報告が上がっている。
……
先のコーラル偽薬の件もあり、『神聖なるコーラルを穢す悪魔共を粛清せよ』と思想派が先走ろうとしている。帥父が抑えてくれてはいるが
……
」
「時間の問題だな。シュナイダーやエルカノはどうだ」
「二社ともお前の機体を組み直すのに夢中だ。オルトゥスの補修は間に合わんだろうが、スティールへイズの再構築は万全になる。
……
それ以外はナハトとラマーガイアー、メランダーの配備に向けて調整が進んでいる」
「BAWSは?」
「同じく兵站拡充に向けて稼働中だ。代理に差し止められていた防災物資も順次届くという。
……
それから、技研都市から持ち帰ったサンプルを調査してもらっている」
悪魔の産物は信心深いルビコニアンには毒だ。それらは直接司令部に持ち帰られず、隔離施設で選りすぐりの解析チームにより保護されているという。
「
……
代理は、その後喋ったか?」
帥叔は顎髭を擦る。しばしして手元のタブレットに指を滑らせると、暗号化したデータファイルを受理する。
「
……
ファクトリーの新型コーラルデバイス。と、その臨床実験
……
か」
「アーキバスはアイビスシリーズを鹵獲したが、どうやらレイヴンが破壊した機体を改修したらしい」
開封されたファイルのひとつに、高速戦技を誇るという無人機の青写真がある。その機体名は──IB-01:CEL240。
「無人機体を脳波で操作しようという試みらしい。アーキバスは既に、脳波によるAC制御テストをクリアしているそうだが、肝心の被験体が足りない。
……
そこで代理が目をつけられた。」
以下はマルクスが独白した供述内容である。
マルクスが始めた偽薬製造及び販売は、そもそもアーキバスが仕組んだものだった。
彼には病床に伏す娘がおり、その容態はいくら腕の立つドクターがいても廃星の設備水準では治療できないものだった。
……
ではせめて延命措置の器具を。BAWSのコネクションを頼り、星外企業から医療機器を発注したが、その事で足がついた。そうとも知らずに必死に愛娘の命を繋ごうとするマルクスは、次々と設備を整える内に資金難に陥る。だがこの投資を辞めれば娘は死ぬ。彼は支払いを滞納し、軍部の金庫にさえ手を出して、延命治療を強行した。
……
しかし、それが政務官ジェイミーにバレた。
「政務官はシュナイダー転属以前はアーキバス第七隊所属だった時期があるそうだ。それらの経歴を隠し、彼はシュナイダーの翻意に身を任せつつ、ルビコン解放戦線の心臓部に近付いた」
やがてジェイミーはマルクスの着服に気付く。政務官はマルクスの悪事を軍部はおろか民にまでリークすると脅す。「貴方の古巣はそういったスキャンダルが好物でしょう」と。
「大佐の弱点を握ったジェイミーは娘を人質に取り、アーキバスの提供する根治治療と引き換えにジェイミーに仕えることを強いる。そんな頃に企業抗争が激化し、ルビコンの軍備拡張が始まり
……
。私は彼に国防を任せたのだ。
……
まだあの頃の、勇敢なるサー・マルクスだと信じて」
ジェイミーはBAWSのあらたな販売経路として製薬会社を設立するように命じる。しかしその実態はファクトリー併設の臨床実験機関だ。そうとも知らずに、同社はかつての戦士であるマルクスに従う。製薬部門に配属されたファクトリー研究員は第二工廠の井戸を密かに汲み上げ、薬品と偽りアーキバスへ送る。アーキバスからは『壁』陥落後は潤沢な検体が提供され、ジェイミーの計画の歯車は回り始めた。
「しかしマルクスは、良心の呵責に苛まれたのだろう。精神状態も良くなかった彼は思想派に傾倒、製薬会社の資金を採掘艦の武装に回し、アーキバスとの関わりを断ち切ろうとした。しかしジェイミーは大佐の抵抗に気付き、それを私に告発した。」
帥叔を介したシュナイダーは独立傭兵へ依頼を出し、武装採掘艦はついに破壊されてしまう。そして大佐はジェイミーの秘めた闇に触れる。──試用段階の調律コーラルを投与された挙句、娘は再教育センターへ更迭され、心身ともに破壊されたマルクスはついに傀儡と成り果てた。破壊された精神では感情のコントロールは出来ず、みるみるうちに愚鈍な階級だけの将校となり果て、彼を憂う者はいなくなった。
そしてついに調律コーラルの本格運用が始まる。一度目の計画は事態の周知を防ぐために、軍部の眼が届きにくい下層バラック街で行われた。試用の為に10数名を拘束、効果ありと見てその他を貨物列車に積み込み、どこかにあるファクトリーへと輸送する。
「二度目は集団失踪に扮した拉致誘拐と偽薬流通を刊行。しかしレイヴンが企業勢力はおろか封鎖勢力すら破壊したため、スパイである私をダシに情報操作。ルビコニアンの目が逸れるよう細工する、と」
しかしジェイミーの策謀は思うよりも初期の段階で失敗する。エアによる偽薬内容物の露見と帥父代理マルクスの収監だ。
……
そして今に至る。
「マルクスは今どうしている?」
「
……
死んだ。昨晩から意識散逸の兆候があったが、今朝の巡回で心停止状態で発見された」
「そうか。」
「
……
散逸を引き起こす直前、彼は号泣しながら何かに謝っていたそうだ。そして、ジェイミーの発言にも言及していた」
──神より賜った使命、それ即ち、土着の屠殺。
「
…………
」
「アーキバスは我々を家畜と見ている様だ。その企業姿勢は未だ変わっていない。このアイビスシリーズへの脳波制御適応実験やファクトリー更迭は、その屠殺システムの一環に過ぎない」
ジェイミーの手元にSG兵器があると言う事は、彼が地上残存兵の指揮官であろう。アーキバスは生きて封鎖を掻い潜るよりもルビコニアン諸共灰に還すことを望むようだ。
「コーラルジェネレーター搭載という事は、二次被害としての汚染も考えられる。機動力の高さ、無数のビットによる攻撃はMTや汎用二脚、四脚MTではまず敵わん。永久稼働するC兵器はアーキバス最高戦力となるだろうな。
……
少しも待たずして戦線本拠地を叩きに来るだろう」
帥叔は一層険しい面持ちとなる。
「アイビスが実戦投入されていない今が攻め時であるが
……
」
「厳寒期の嵐も間近だ。むしろこの機を逃せば、解放戦線の崩壊は免れないだろうな。──バスキュラープラントの汚染問題対処どころでは無くなる」
「やはりレイヴン不在は痛手だ。
……
が、そうも言ってはおれんな」
帥叔は机上へ視線を落とす。壁奪還作戦についての構想を練り直す様だ。ラスティは自由になった右腕を解すように伸ばし、やや身が沈み過ぎるソファへ背を預ける。
──我々が故郷を手放せない理由は何か。一度灰となった開発惑星は最低限の暮らしも儘ならぬ程に荒廃し、埋蔵資源を巡り他者から貪られ奪われるだけの貧相な星だ。故に、人々は渇望する。より良き時代を求めて蜂起する。大義の炉に命を焚べ、革命という列車を突き動かす。運命への抵抗こそ人が闘争を続ける理由だろう。
では炉に命を焚べるのは誰だろうか。それは個か、集団か。あるいは
……
。
「
……
マムに頼まれた人捜し。あの少女はどこへ消えたんだろうな」
「製造所跡では見つけられなかったが。
……
彼女には悪いが、捜索は打ち切る他ない」
戦争はACの一騎打ちとは違う。とフラットウェルは言葉を締める。戦局を一変させる個が一騎当千だとしても、一万の軍一千万の力には敵わない。
「
……
それでも、英雄は必要だ」
独りごつ、勢いよく立ち上がったラスティは剥がしたギプスを屑籠に投げ捨て、借り物のナイフを帥叔のデスクへ返却する。
「フラットウェル」
「何だ」
「世話になった」
ミドル・フラットウェルは眼前の男を見上げる。その金眼は昏い。彼は勝手にフラットウェルのタブレットを取り上げると、ある書面を表示し差し出した。
「ラスティ、状況が分かっているのか?」
「今こそ必要だと思っている。計画が少し早まっただけだ」
帥叔は書面に視線を走らせ歎息する。それに混じるのは怒気かあるいは
……
。やおら立ち上がり、デスク後ろの窓に向かった。
「
……
くだらない話をしようか、フラットウェル。あの時私は、解放戦士として引鉄に指を掛けた。今は幼い命を犠牲に、そこで一兵卒として腰をおろそうと言う。
……
盲信者と臆病者、一体どちらがこの局面に必要だ?」
後ろ手に組む指はかたくきつく組まれ、微動だにせず。ブラインド越しの吹雪はいよいよ荒れてグリッドの間隙に勢いよく吹き込んでゆく。
「
私
は、
兵
ではない。そう言ったのは貴方だ、フラットウェル!」
冷え込む空気に孤狼の叫びはこだまする。暫し沈黙が漂った後、帥叔は振り返る。しっかりとラスティの金の瞳を見据えた。
「
……
許さん」
「おい、フラットウェル!!」
「許さんぞ、このままではな」
彼はラスティの用意した書面に再び視線を向けると、何か書き足していく。
「
……
お前がこの街に居場所がないと思おうが、この領土がお前の故郷だ。それをゆめゆめ忘れるで無いぞ」
新たな枝木の出生。銀環の地平に今、狼が解き放たれる。
「取り戻せ、お前が望むものを。あの光を連れ帰るのだ」
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