序 チャーリー・ゴードン・アルツハイマー・シンドローム



3

ヴェスパーから追い出されて2ヶ月が経った。
寮にあった荷物も届いて、家も多少は僕の家らしくはなった。
リビングにはソファーが増え、寝室には棚も増えた。

ヴェスパーを追い出された後、ホーキンスから何度か手紙と贈り物が届いた。
君が欲しがりそうなものを送るよと言って、ヴェスパーのロゴが入った支給品を送ってくれる。
マグカップとか、トレーニングウェアとか、電子ノートとか。
先日は支給品じゃなく、パキラの鉢をくれた。
世話をするものがあった方が君の気分も楽だろう。
そう言って送ってくれたものだ。
彼は優しい。

僕の未来は未だ砂漠のようだけども、彼のおかげで今をかろうじて消化できている。

朝起きて、パキラに水をあげる。
朝食を食べる。
散歩をする。
単調な生活。

一体いつまで僕は耐えることができるだろうか。
ふと頭にその問いが浮かんでしまって、泣きたくなる。
今日も朝から憂鬱に身体をやられて、ソファーから動けない。
動くだけで怖くなって天井をずっと見上げている。
何もしていないのに苦しい。
息も出来ない。
目だけが恐怖で熱くなって、涙が溢れ出した。

視界がぼやけていく中、着信通知のメッセージが網膜に映る。
相手はスネイルだ。
僕は慌ててソファーから起きて、涙を拭って通話に出た。

「出るのが遅いですよメイナード。この私を待たせるとは愚鈍で使えない犬です」
いつものようにスネイルは毒を吐いている。
久しぶりに聞く罵倒がなんだか嬉しい。
「久しぶりだね、スネイル。元気そうでよかったよ」
「貴方も相変わらずズレていますね。まあいいでしょう、本題です。メイナード、本社より通達です。7月28日を以て、貴方に内部監査部門情報統括部への異動を命じます。連絡は以上です。」
「情報統括……もしかして、バベル?」

そう聞いた時には既に通話は切れていた。
着信画面が視界から消えて、ただの天井が目に映っている。
『内部監査部門情報統括部』、アーキバス所有の情報全てを統括する知の門番。
通称『バベルの図書館』
異動したら最後、2度と図書館の外には出ることができないと聞いたことがある。
僕はまた泣いた。
もう自由に怯えなくていいんだ。
自由から逃れる檻を見つけた僕の心は安堵に満ちていた。

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