不破
2024-07-28 20:23:10
5398文字
Public 空戦
 

#22




 通信の向こうから破裂音のような轟音が響いた。それと同時に、視界の端で赤色を孕んだ水飛沫が飛び散るのを捉え、気に留めることなく迫りくる敵兵へ視線を戻した。
 手にした黒刀をぐるりと弄んで逆手に持ち替えると、目前に迫った敵兵の喉笛を裂いた。舞い上がる鮮血を背後に切り抜け、ボード型のサテライトを返して方向転換し、速度を上げながら上昇する。再び黒刀を翻して順手に持ち直し、それとほとんど同時に急降下してきた敵兵の槍を掻い潜りながらその胴を横薙ぎに斬り裂く。速度を落とすことなく上昇を続け、追ってきた戦闘機を振り返ると、サテライトを蹴って空中に身を投げて躍り出る。一気に急降下へ移り、身を翻して黒刀を戦闘機のコクピットに突き立てる。キャノピーの内側が真っ赤に染まるのを目にしてほくそ笑み、即座に機首を蹴って飛ぶ。旋回して戻ってきたサテライトに両足をつけて着地し、再び加速していく。

『カノープス2! ミサイル!』

 と、その時だった。通信から響いた声。それに一瞬遅れてミサイルのアラートが響いた。即座にサテライトを蹴って後方へ跳び、ぐるりと宙返りしながらも迫りくるミサイルを飛び越えるように交差しながら、視界に捉える。ホルスターから取り出した銃を左手でミサイルへ向け、引き金を引く。乾いた銃声が数度響き、ミサイルが爆炎に包まれる。爆風を背に大きく跳び、戻ってきたサテライトに着地する。
 目視しているわけでもなく、端末のレーダーよりも先にミサイルの存在を知らせてくるとは、管制官として優れているというのは本当らしい。使い物にはなるだろう。もっとも、サテライトを駆る空兵にとって、戦闘機のミサイルは脅威とは言えないが。
 急迫してくる敵兵を横目にそんな事を考えつつも、敵兵が振り上げた剣を左手のハンドガンの銃身で受け、右手の黒刀で喉を貫く。そのままハンドガンの銃口を相手の身体に押し当て、引き金を数回引いて仕留めた。黒刀を引き抜き、飛んだ血飛沫が返り血となって顔を塗らすも、気に留めず弾の切れたハンドガンを投げ捨てる。

『敵飛空艇より機体の発艦を確認。都市制圧装備のUAV無人機です!』

『優先して撃墜するわ!』

 新兵の声に続いてニオの声が響き、レーダー上に新たに表示されたマーカーに「TARGET」と追加で文字が浮かぶ。それなりの数だが、そこまで苦労するようなものではない。サテライトを加速させ、敵の飛空艇へ向かって飛ぶ。わらわらと飛び立つUAVを目にしながら黒刀をぐるりと弄んだ時、すぐ脇を赤い戦闘機が駆け抜けて行く。
 赤蠍という通り名で呼ばれているらしい、シャウラ1の機体。それが結晶体のようなレーザーユニットを展開し、赤い色のレーザーを一斉に放った。青空に爆炎が広がり、衝撃波が駆け抜けると、爆炎を突き破って飛来したUAVが猛スピードで突っ込んでくる。勢い良く飛来したそれを目にし、咄嗟にサテライトを立てた。魔導シールドの展開が間に合わないタイミングで迫ったUAVがサテライトに激突し、その質量に押されたサテライトが砕けて広がった爆炎を尻目に、UAVをやり過ごしたフュゼは舌打ちをした。

『カノープス2!』

……うるせえよ」

 飛び去っていくUAVを振り返りながらも、通信から響いたニオの声に吐き捨て、身を翻すと、UAVを追って戻ってきた赤い戦闘機の垂直尾翼に掴まる。

……俺の機体はサテライトじゃない』

「知ったことじゃねえ。それよか、自分てめえの取り溢しだ。自分で片付けやがれ」

……

 沈黙の返答の後、展開される赤い蠍のレーザーユニットが飛び去り、前方を飛ぶUAVを赤いレーザーが貫いた。

『UAV、全機撃墜しました。敵部隊も撤退を始めたようです』

 新兵の言葉が響き、フュゼは敵の飛空艇の方を振り返った。後ずさるように慎重に撤退していく敵兵達を見るに、これ以上の侵攻の意思はなさそうだ。

『了解。全機、警戒しつつ撤退。RTB』

 同じようにその光景を確認したのだろう。ニオの声が響いた。