不破
2024-07-28 20:23:10
5398文字
Public 空戦
 

#22


 ウィンズレット軍がアムステルダムへの侵攻を開始したことを報じるネットニュースの記事を顰め面で眺めながら、唸るように溜息をついた。自分のライブにも来ないというのに、兄はまた戦場へ駆り出される。戦争はあらゆるものを奪っていくというが、あながち間違いではないのだろう。平和な時間も、夢も、希望も、笑顔も、なにもかも奪うのが戦争だ。だから自分は、戦争をする国のためになど歌わない。それが、自分に出来る小さな戦争への抵抗だった。

「ライア! ちょっと聞いて!」

 と、その時だった。ドアを勢いよく開いてオフィスに駆け込んできた自らのマネージャーであるアリエスの声に、アストライアは振り返った。

「どうしたのよ? アリエス。そんなに慌てて」

 アリエスが事務所に駆け込んでくることは珍しいことではないため、アリエスの声に反応した数人のスタッフも笑いながら仕事に戻っていく。手元に開いていた光学モニターを閉じてソファーから立ち上がり、並べられたデスクの脇を抜けてアリエスの前まで歩いていく最中、少しだけ息を切らしたアリエスの表情は興奮と期待に満ちたものであることに気がつき、このニュースが良い知らせだと悟った。

「舞台の仕事が決まったわ! 主役よ! 主役!」

……主役!?」

 アリエスの言葉に一瞬思考が止まった。しかし、すぐにその言葉の内容を理解しアストライアは声を上げた。

「戯曲”サロメ”。貴方が主役を演じるのよ! ライア!」