あつき
2024-07-23 00:50:12
14275文字
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退治人は吸血鬼に泡沫の恋をするか

片思いのロくんが三十年後の未来に唆される話。安心安全のハッピーエンドです。




数日後、懲りずに原稿中に、やはり万華鏡が気になった。あの日見た未来は、振られたことにより変わってしまったのだろうか。
そんな不安と少しの期待を込め、また万華鏡を覗いた。ホワイトアウトした後に映るのは、やはり事務所の生活スペース。ソファに壮年のロナルドとドラルクは並んで座っていた。ソファの隣に棺桶もあることを鑑みると、同居している未来は変わっていないようで安堵する。何か言い合いをしているようで、こんなおっさんになってもまだ子供のように喧嘩をしていることに笑ってしまう。しかし今のロナルドたちと違うのはここからだった。腕を組んで拗ねたようなドラルクに、困ったような笑みで壮年ロナルドは話しかけ、ドラルクの気を引くと唇にためらいなくキスをした。
「うわーー!!? 何してんだ!!」
あちらの声も聞こえなければ、こちらの声も届かない。しかし叫ばずにはいられなかった。

(俺からちゅーした!? ドラ公に、自然にスマートに!! やっぱり付き合ってるじゃねーか!? なのに今のあいつは何で、あんなに塩対応なんだよ!!)

羞恥心に混ざるのは、悔しさと羨ましさ。一瞬のその光景を後に、再び元の万華鏡に戻った。

……ちくしょー……。」
万華鏡を引き出しに戻し、机に突っ伏す。感情がぐちゃ混ぜで泣きたくなった。そんな時にまるでロナルドの感情を逆撫でするかのように、シャンシャンうるさい音と共に、生活スペースに通じる扉が開いた。
「ヘイヘーイ!! ロナゴリ君、何か雄叫びあげてたけど大丈夫? 原稿進まなすぎて野生に還った? 今日はジョンが出掛けていて暇だなぁ! 気分転換にスマヴラやろ? スナバに付き合ってもいいよ! ロナルド君の奢りねっ」
けたたましくタンバリンを響かせながらご機嫌に踊るドラルクに、無性に腹が立った。そして自分にも。

―――未来の俺が出来たんだ。俺だって、やれば出来る。

かっと血が上った頭に急き立てられるように、椅子から立ち上がり迷わず距離を詰める。ドラルクの腰をマントごと片手で抱き寄せ、挑むように目を合わせると、赤の瞳が狼狽に見開く。
「なっ、なにっ!? 突然どうしたんだ!? 野生のゴリラ落ち着け!!」
私、何かした? と、ロナルドの予想外の行動にあわてふためいてるドラルクに構わず、空いた右手で冷たい頬を押さえた。逃げられないよう間を置かず、そのまま自身の唇を薄い唇に重ねた。
ドラルクが持っていたタンバリンが手から落ちて、がしゃんと音を響かせる。その音が止むと、事務所は静寂に包まれた。
ロナルドはそれから動けなかった。目を閉じているのでドラルクが今どんな表情をしているか分からないが、小さい瞳孔をひときわ小さくさせて驚いているのが目蓋に浮かぶ。

呆れているかも知れない。怒っているかも知れない。引いているかも。蔑まれていたら?

そんなことを考えたら、なんて馬鹿なことをしたんだと頭から水を浴びたように背筋が凍り、目が開けられない。
きっと衝撃でドラルクはすぐ塵になると予想したのに、触れたままの唇が、そうはならなかったと示している。
そのままどのくらいの時が過ぎたのか、おもむろにドラルクから唇が離されたので、ロナルドもこわごわ目を開けると、そこには表情の読めない吸血鬼がただ立っていた。沈黙に耐えきれず、ロナルドから口を開いた。
「ドラ公、ごめ……
謝罪の言葉は、最後まで言わせてもらえなかった。
ドラルクはロナルドの肩を掴むと、口から出かかった言葉ごと唇を塞いだ。一度だけではなく、二度、三度と何度も繰り返される口づけに、呼吸も思考も乱れた。
「んぐっ、どっ、ドラこ」
合間に何とか言葉を絞りだそうとしたら、開いた唇の隙間に冷たい舌が入り込んだ。どう反応を返せば良いのか分からず思考がさらに乱れる。
訳も分からず夢中で応えていると、不意に唇が解放された。回らぬ頭でドラルクを見つめると、いつも悪い顔色が今はさらに血色が悪く見えた。
……ごめん、忘れてくれ」
ドラルクはそれだけ言うと、長いマントを翻して外に通じる事務所の扉を開け、逃げるように走り去っていった。
……は? 忘れろ? 最低じゃねえか。……あんな……えっちな時にしかしないようなちゅーしておいて」
最後まで表情の読めなかったドラルクからのキスは、決して嫌なものではなかった。有無をいわせないようで、その実ロナルドの反応を伺っていた。確かめるように優しいキスを何度も繰り返し、拒絶されていないときっと気付いていた。舌を絡めた時に、それに応えたロナルドに安堵したように目を細めていた。その事実に、ロナルドはいつもより更に身体を持て余した。

次にどんな顔をして会えばいいのかと悶々としたが、原稿が白いまま遅々として進まないことを心配したフクマが優しさからメイデンに入れてくれて、しばらく帰れなかったので要らぬ心配だった。
戻った時には脱稿ハイで暴れまくり、ドラルクもその対応に追われいつもの日常に戻っていった。