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ユコ
2024-07-14 18:42:41
19084文字
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Sincerely xxx.
お題:君に夢中
意味を知らずに手紙で乱用してくる『xxx』無自覚なギャンブラーとそれに振り回されて煩悩丸出しになる教授との恋文合戦。両片思い万歳!
1
2
3
【3】
「そういえば、例のオトモダチとの文通はうまくいってるの?」
執務室で顔を合わせたトパーズが、珍しく僕にそう声をかけてきた。
どうやら彼女なりに僕の相談ごとのその後を気にしていたらしい。
うまくいってるよ、と返したいところだが、この間のチャットの彼の反応を見る限り、僕の手紙は失敗したと言っていいだろう。僕はトパーズに言った。
「あのさ。君が使ってた末文のあいさつを使ってみたんだけど。あれから相手が怒っているように感じるのは僕だけ?」
「ええ? 好意を持っている相手なら怒られる表現じゃないけどな
……
。もしかして君が友達って思ってるだけで、相手は君のことあんまり好きじゃないとか?」
トパーズの直球な指摘に僕は返す言葉がなかった。
確かにそれはそうだ。
彼は僕への仕事への誠意を誉めただけで、僕自身に好感を持っているとは言い難い。僕のことをしょっちゅう喧しいというし、チャットもすぐに退出してくるし、アティニークジャクと皮肉ってくるのだから。
黙り込んだ僕にトパーズが心配そうに尋ねる。
「ねえ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? 君のいう友達って誰なの? それがわかれば私ももう少しまともなアドバイスもするよ。もしかして星穹列車の開拓者? それなら、あの子を引き抜くのは私の役目だよ」
「さすがに違うけど、その引き抜きの件はステイだな」
「じゃあ、誰なのよ」
「
……
レイシオ教授だよ」
渋々僕が白状すると、トパーズは大きな瞳をぱちぱちと瞬かせる。
そして僕が見ても明らかにしまった、という顔を見せた。やっぱり彼女の表現は教授に送るには相応しいものではなかったようだ。
「え、ちょっとやだ、それを先に言ってよ。私が馬鹿みたいじゃない」
「君が言ったんだろ」
「だって、相手が教授だとは思わないじゃない。理解者だとか特別だとか
……
、てっきり私はそう言う相手かと」
「そう言う相手ってどう言う意味?」
僕の問いに呆れた顔でトパーズが僕を見た。
はぁ、と小さな溜息と共にトパーズは僕に手を差し出す。
「ねえ、アベンチュリン。手紙の中身の私的な部分はなるべく読まないようにするから、君たちのやりとりを少し見せてよ。じゃないと彼が怒っている意味がわからない。これは結構センシティブな話だよ」
「吹聴しないだろうね」
「私を信頼していないの? アベンチュリン先輩?」
わざわざ先輩をつけてからかってくる彼女に僕は渋々持ち歩いていた手紙を鞄から取り出す。
信頼していなければ、僕たちの命と等しい基石を借りたりなどしない。一緒に命の綱渡りをしたのだ。今更、手紙の一枚や二枚、彼女に見せたところで何になる。僕は隠さずここ最近のやりとりを彼女に見せた。
「
……
わぁ。
…………
うわぁ」
彼女は何枚かの手紙を手にして読みながら、まるで壊れたラジオみたいな言葉にならない声を発し続けた。
なんだか彼女の白い頬が赤くなっているようにも見える。照れているのだろうか? 暑い、と言いながら彼女は頬を仰ぐように手で仰いだ。そうして呆れがまじった瞳で僕をじろりと見る。
「あのさぁ。これはひどいよ。教授が戸惑うのも無理はない」
「僕は君に言われた通りに書いただけだ」
「こういう文脈の終わりでつけたらさすがに意味が変わるよ、君は重い! 私は、君が手紙で僕らしい表現を、っていうから
……
、いつもの君のようにもっとソフトに、カジュアルに使うんだろうなって思ってたのよ。
……
まぁ、これを見る限り、教授も怒ってるっていうよりは戸惑ってるって感じがするけど
……
」
「君はそう捉える? だってあのベリタス・レイシオだよ?」
「だって、この文面は一度も君の気持ちを否定はしてない」
そう言って、トパーズは頭を抱えた。
「私ってもしかして藪蛇? 馬に蹴られるってこと? だったら最悪なんだけど」
「君は何を言ってるんだ」
「そもそも、これはお互いが鈍いってこと? でもなぁ
……
」
ぶつぶつとトパーズは何かをぼやいている。
そうして、しばらく一人で唸り続けた彼女はやがて一つの解──助言を見出し、僕に指を突きつけて言った。
「いい? 君たちは、手紙の前にその手前のコミュニケーションが圧倒的に足りないと思う。今度会ったときに聞いてみなよ。
xxx
トリプルエックス
を送られるのは嫌だった? って。嫌だって言われたらもう送らないだけの話」
でもこの返事を見る限り、教授はまんざらでもないと思うけどね。
そう助言を締め括ったトパーズの目は、なんだか生暖かい、まるで雛鳥の巣立ちを見守る母のような慈悲深い瞳をしていた。なんで年下の女性からこんな目で見られなきゃいけないのか。普段は弄る立場が逆転しているのは面白くない。ヤリーロ-Ⅵの一件以来、どうにも彼女は僕に貸しを報いたいと思っているようだ。
ここまで私の貴重な時間を使ったんだから、結果はちゃんと報告してくださいね、アベンチュリン先輩?
とわざわざ先輩づけまでして命じたトパーズに僕は返す言葉もなかった。
*
僕はトパーズの助言通りに、彼に素直に尋ねることにした。
なぜ怒っているのかをなるべく丁寧にしたためて、その手紙を次元伝書鳩に託す。
その返事は1システム時間も使わずに訪れた。
僕の執務室に突然青い炎が灯り、男の姿が現れたからだ。
「うわ、びっくりした!」
まさか手紙でもなく、チャットでもなく、本人が位相霊火を使って僕の目の前に現れるとは思わない。一応、十の石心の高級幹部の執務室って厳重なセキリュティがあるはずだけれど、カンパニーのセキュリティなんてこの男の前ではあってないものだ。
「レイシオ。君の手に入れたそれ、お気に入りなんだと思うけど、突然現れると心臓に悪いから使う場面は考えてくれよ」
「
……
遺憾だが、君に確認したいことがある」
突然現れた教授は何やら渋い顔をしている。
てっきり僕のプレゼントにあんな感謝の手紙をくれたぐらいなのだから、再会した時は少しは上機嫌な顔が見られると思ったけれど、僕の手紙は相当彼を不機嫌にさせていたらしい。
「えっと、教授、怒ってる?」
「怒っているというより、君が何を考えているのかわからなくて不快なだけだ。
……
僕の思い違いでなければ、君のことは意外と気が回る、唐変木ではない男だという認識をしている。仕事上での君からの贈り物や行動をそう捉え、君への理解を深めたと僕は思っていたが、やはり結局のところ君は僕にとって不可解な生き物だなと考えていた」
「なんだよ、急に」
「昨日、僕に送りつけてきた手紙はなんだと聞いているんだ」
そう言ってレイシオは僕がトパーズから助言を受けて書いた手紙を突きつけた。
そこには僕が昨日、トパーズに言われたことを素直に書いた文面が綴られている。
『君は追試をしないと言ったけれど、君からの追試を受けたい。
君が怒っている理由を知りたいんだ。
僕は君にxxxの表現に値しない人間で、嫌われてると思っていいのかな。
だったらもうしない。
君とのコミュニケーションだけは及第点だと思っていた、僕を許して欲しい。』
うん、文法的には間違ったところはない。
改めて読み直した僕はレイシオに問い返す。
「何って。
……
これが、僕の正直な気持ちなんだけど。僕はそんなに君を怒らせた手紙を書いたのかな」
「
……
そもそも僕と君の認識がずれているようだな。君はここに書いている『xxx』の意味を理解して僕に手紙を送っていたのか?」
「え? だってこういうのって仲良い者同士の『形式』ってやつなんでしょ?」
僕は首を傾げる。
それを言った瞬間、レイシオの眉間に深い皺が刻まれた。
やっぱりこれ、彼を怒らせてないか、トパーズ。
胸の内で聡い後輩に尋ねるが、もちろん返事などあるわけもない。
続けろ、と低い声でレイシオが僕の話を促す。
きっと授業で彼に指名された生徒ってこんな立場なんだろうなぁ、と思いながら僕は思わず姿勢を正しながら口を開いた。
「君からお礼の手紙をもらったけど、僕はああいう丁寧な手紙をもらったりするのを今まで人生上したことがなくて。すごく嬉しかったからお返しをしたいと思ったんだ。でもまたそのお返しに物を送ったら君は怒るだろうなと思って、トパーズに相談したんだよ。大切な相手に送るときの末文って紙の手紙ではどう締めくくるって? 僕は奴隷にだったから、識字は正直人より不得手だし、慣れてない。でも君はこんな僕にすら敬意を払ってくれた。君のSincerely yoursに応えたいと思ったんだ
……
けど」
間違ってるかな?
そうまるで教授に指導される大学の生徒になったかのようにおずおずと正解を確認する。
僕の答えに、レイシオは海の底まで届きそうな長い長い溜息をついた。
そうして、僕の回答への答え合わせを口にした。
「
……
事情は理解した。理解したが、君はやっぱり物事への深慮が全く足りない、0点。いや、マイナスだ」
「ええ?」
「いいか。トパーズが意味まで教えているかは知らないが、
xxx
トリプルエックス
はスラングだ。通常は、愛を伝えたい相手への末文にいれる。僕が大学でみる若い学生などは結構フランクに使ってるらしいがな。どちらかと言うと女性が好んで使う表現だし、君にこれを教えたトパーズなら、確かに似合う表現だろう。彼女らしい表現と言える」
「へえ、愛か。いいね。君は僕のことを好いていないかもしれないけれど、僕は君のことが好きだよ。じゃあ、間違ってないんじゃない?」
その瞬間、僕の頬をチョークが掠めた。
──トパーズ、やっぱり彼は怒ってないか?
ぎろりと赤銅色の瞳をぎらつかせて僕を睨んだレイシオは、僕に静かに尋ねる。
「君の故郷では少し好意を持った相手にはキスをする文化が?」
「いや? 家族や恋人相手にだけかな。触れ合うことは特別な相手にしか許さないよ」
「僕の故郷もそういう認識だ。xを重ねる意味は、愛──キスを贈るの意のスラングだ」
「え?」
「君は何回、手紙で僕にキスを送ってきたのかその意味を考えろ、愚鈍め」
──てっきり私はそう言う相手かと。
僕が手紙で相手を怒らせたと言った時に、トパーズがそう返した時の意味を改めて思い知る。
つまり、僕が彼女に特別な相手と言ったから、彼女はそういう愛を伝えるべき相手だと彼女は思った。ついでに、おそらくヤリーロ-Ⅵの件でいじった僕に軽い仕返しもしたかったんだろう。あえてスラングの意味を伝えなかったのは彼女の『遊び』だ。
「
……
トパーズめ」
でも、僕が最初から相手を教授と言わずに助言を求めたことで起こったすれ違いなのだから、トパーズを責めるわけにもいかない。
確かにビジネスパートナーから突然そんな親しげで熱烈な『愛』の署名が送られてきたのだから、さぞかし困ったことだろう。というか、今後も戦略的パートナーは続けて欲しくて彼に送ったのに、これではかえって継続の危機的状況だ。プライドの高いレイシオを揶揄ったと思われてもおかしくない。
これは誤解なんだ、と僕は今から間に合うかはわからないが慌てて弁解を口にしようとしたが、口を開いたのはレイシオが先だった。
「
……
書いてないだろうな」
「何を」
「このサイン、僕以外には書いていないだろうな?」
彼の指摘に僕は瞳を瞬かせた。
そうして、彼の発した言葉の意図をしばし考える。
ああ、つまり、ビジネス相手に間違ったコミュニケーションをとっていないかと彼は心配してくれているのか。さすが教授。
「送ってない。いったろ、こんなことする相手は君ぐらいしかいないって」
「
……
なら0点で評価は止めてやる。これからは書く相手とタイミングはきちんと自分の意思で選ぶように。僕はこれで帰る」
僕の回答に何故かひとまずの満足を見せたレイシオは、また右手に青い炎を灯らせた。
現れるのも突然だし、去るのも突然だ。
現実でもバーチャル世界のチャットと同じようにこちらの空気も読まない自主的都合の退出をしようとするレイシオを慌てて僕は引き止める。
「待てよ、レイシオ! さすがにこれで帰られるのは僕が居た堪れないんだけどな!?」
「君の意図は理解した。これ以上何の会話をする必要が?」
──君たちは、手紙の前にその手前のコミュニケーションが圧倒的に足りないと思う。
トパーズの忠告が頭に蘇る。
確かに僕が手紙で綴った距離が近すぎるスラングは、僕たちの今の距離感だと過ちだ。
共感覚ビーコンが犯す罪を僕は重ねちゃならない。共感覚ビーコンの罪は表面上の翻訳でのコミュニケーションで齟齬が生まれ、相手の気持ちや相互理解が欠けたコミュニケーションが氾濫したことにある。だから、彼はわざわざ直接僕のところに訪れ、僕の送った「xxx」の意図を確認しにきたのだ。
つまり、確かに僕からの「xxx」が嫌だったとは、彼は一度も言っていない。
僕はおずおずとレイシオに尋ねた。
「
……
あのさ。確かに僕は君に馬鹿な手紙を送ったけど、それの意図を考えたってことは、君は僕との『xxx』を考えたってこと?」
僕の問いかけに、長い沈黙が起こる。
そのまま無言で位相霊火で消えられそうだったけど、彼の性格上、質問を返さずに帰ることはできない性分のようだ。重い沈黙を破って不機嫌を丸出しにしてレイシオは口を開く。
「
……
それが何か?」
地を這うような低音に、恐らく僕以外の人間だったらそれ以上追求はせずにとっととこの不機嫌な宇宙を股にかけて活躍する学者におかえりを願っただろうが、あいにく僕は彼から小言を言われるのは慣れている。僕は追い打ちをかけるように質問を重ねた。
「君はそれを嫌だと思わなかったのか? だって男の僕だよ?」
「何が言いたい」
「
……
それなら、僕が嬉しいなと思っただけ」
それは本心だった。
僕は確かに男相手のビジネスパートナーに、突然愛を送った不届きな男だけれど、それを受け止めてくれるのであれば嬉しいと思っている。どうして、僕は彼の胸に残るような特別な贈り物をしたかったのか、今更ながら意味に気づく。あれはただの感謝なんかじゃない。僕が君をどれだけ理解して、考えているかを伝えたいだけの求愛行動だ。孔雀が羽を広げて美しさで愛を語るように、僕はたとえ虚栄でも君への想いを形にしたかった。
僕は彼を特別に思うことを許されたい。
僕のことをできれば他の誰かより特別に気にかけていてほしいし、僕を他の人間とは異なるコミュニケーション相手と認めていてほしい。同じものを返してくれなくてもいい。それを受け入れてくれるだけで、僕は嬉しい。
僕の唇から出たささやかな願いに、レイシオの眉間に刻まれていた深い谷間が少し浅くなったように見えた。けれど僕の発言を怪訝に思うのは変えられないようで、僕に重ねて問い直す。
「むしろ、君はどうなんだ。トパーズに言われて、その意図を考えもせずに送ったんだろう」
「確かに僕は彼女に意味を聞かなかった。でも彼女は送る相手を丁寧に確認してくれた。間違ってない。間違ってないよ、レイシオ。今、君に問われてはっきり自覚した。僕にとって君はキスを贈れる男だ」
「
……
君はそれの意味がわかっていて言っているのか?」
「僕は君のコミュニケーション相手としては優秀な方だと思ってる。意味はわかって言ってるよ」
「
……
そうか」
僕の言葉に、レイシオは特に拒絶もしなかった。
右手に灯していた青い炎を消して、レイシオは僕に歩み寄り、近づく。
赤銅色の燃えるような熱の中に、金色の美しい光彩が光る。僕が彼に贈り物をしたいと思った時に想像した、彼の美しい瞳だ。常に真理と前進を求める正しい瞳が、僕をまっすぐに貫く。
「誠意には誠意で返すのが僕の信条だ。だから、君に答える。
……
君の手紙のサインには戸惑ったが、嫌ではなかったし、むしろそのせいで君とそう言った行為を想像した。所詮、僕は凡人だからな。君からの手紙の末文ひとつでそこまで想像した自分に嫌悪感は抱いたが、君に対しての感情は何も変わっていない。君をバカでアホでマヌケとは思うがな」
だから、君に直接、真意を確認しにきただけだ。
そう溜息混じりに言い終わると、レイシオはくるりと反転して僕に背中を向けた。そうして消したばかりの青い炎をまた右手に灯す。今度こそ、逃げる気だ。言いたいことだけ言って向こうはスッキリしたかもしれないが、この言い逃げは流石にどうかと思う。混乱しているのは自分だけと思うなよ、この野郎。僕は彼の服の裾に慌てて手を伸ばした。
「
……
なんだ、この手は」
「引き止めてる」
「何のために」
「えっと
……
」
僕はレイシオの服の裾を思わず捕まえた自分の手を見つめ直す。
だって、勿体無い。
ギャンブラーとしての勘が、本能が言っている。
だって、彼は言った。
僕の手紙でxxxを想像したし、僕のことで頭がいっぱいになったとも言った。
それは彼の口から出た大きな弱みで、交渉ポイントだ。
この男を攻めるなら、今しかない。
こういうときは先手必勝。待ったら負けだ。
──君は重い!
そう断言したトパーズの貴重なアドバイスを思い出し、僕はできるだけ軽くからりとした笑顔を添えて言ってみた。
「あのさ。お互い、『xxx』が嫌じゃないと言うことがはっきりしたみたいだし。とりあえず、僕とキスしてみない? 君が言った、僕とのキスでどんな想像をしたのかが知りたくて」
「ふざけるな、僕は帰る!」
*
レイシオから雷のように落とされた特大の怒声と共に別れたその翌日の朝、僕が執務室に出勤すると、僕のデスクの上にはまた一枚の手紙が置かれていた。
宛名は確認しなくてもわかる。
Veritas Ratio.
美しい筆記体でそう綴られた手紙を僕は開封して、目を剥いた。
それは長い長い──いわゆる、恋文というものだった。
『アベンチュリン
先日はふざけた別れの挨拶をどうも。
君にはまるで自覚がなかったようだが、僕は君を導く立場だ。
だから、僕は教師として出来の悪い生徒の君に、正しい恋文の書き方を教えてやろう。
君が僕にしたためてきたものは、間違いなく愛を伝える恋文というものだ。
君と会話し、僕はそう確信した。
だから僕も同じものを君に返そう。
君は僕にどんなキスを想像したのかと問うたな。
それをしっかりとこの手紙で教えてやる。
これを読んで、君が一体、どういう衝撃を与えるものを
僕に送り続けていたかを正しく理解するように。
僕は、君のアティニークジャクのようにやかましく、軽薄な唇を塞いで、その美しい見せかけの羽の下にしまった君の深淵に触れたいと思った。
君の胸にある深淵を埋めることはできないだろうが、正しく見つめ返せるのは真理を追い求める僕だけだと自負がある。
君はいつも嘘を纏うから、言葉だけでは真意が測れない。
だから、その体に問いかけたくなる。
君に真心というものがあるのなら、僕はそれに触れたい。
丁寧に、時間をかけて。
どれだけ、時間がかかってもいい。
僕が想像した君との触れ合いは、そういうものだ。
いいか、これが正しい恋文の書き方だ。
これを見た君の回答を楽しみにしている。
xxxxxx.
Ratio. 』
この手紙を読んでいる自分の姿を鏡で見たら、さぞかし滑稽だろう。
顔を真っ赤にして、口元は笑えばいいのか、怒ればいいのかわからないほど綻び、見るだけで恋にうつつを抜かして弱っているまぬけを体現したような男の姿が写っているだろうから。
僕の自室も知っていてあえて執務室にこの手紙を届けにきたレイシオの魂胆が腹立たしい。どう考えても僕の反応を揶揄うための悪戯としか思えなかった。──レイシオ、この野郎。
こんな手紙を朝から見て、まともに働けるわけがなかった。
僕は執務室で朝の優雅な珈琲の一杯とともにペットの毛繕いに勤しんでいる同僚に、再度アドバイスを求めて声をかける。
「
……
ねえ、トパーズ。優秀な君に言語表現を教わりたいんだけど。熱烈な恋文に対して相手を唸らせるような返答のやり方って君の辞書には書かれてないかい?」
僕の問いかけに、トパーズは深い溜息と共に僕に貴重な進言するのだった。
「
……
もういいから、君は早く仕事を終わらせて、とっとと彼に直接
xxx
トリプルエックス
しに行きなよ。それで君の悩みは万事解決するから」
彼女の助言通り、僕が本日の執務後に彼に『xxx』をしかけに行けるかどうかは、地母神のお恵み次第だけれど、この時ばかりは僕は自分の幸運に賭けられることを幸せに思った。
何事もハイリスク・ハイリターン。
これだけ、同僚にもパートナーにも恥を晒すリスクをしてきたのだから、きっとそのリターンは僕の望みを満たしてくれることだろう。
( Sincerely xxx.)
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