MN*B
2024-06-23 02:47:29
18839文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.29 胡蝶の羽搏き

シリーズ中第46話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。

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お待たせしました。

 
「死して赦されるより、此處で生きて」「慾しかった」 これを呪いと呼ばずとして何と呼ぶ。
 

 今回、またオリジナル要素多めです。あとオリ主不在回です。
正直、原作と流れは変わんないのでカットしたって良かった部分はあるんですが、狗巻先輩に少しでも活躍してほしかったので書きました。基本方針、書いてる側が書きたいのを書くだけですので…。
ちなみに、猪野くんも好きです。というか敵含め、心底嫌いってキャラもいないので、敵だろうが出番があれば割と書きます。

 次回、たぶん若干のホラー回になるなと思ってます。個人的に怖いなーって思うだけですが。
二週間後の予定で書きます。以内に書けたらいいんですけど…。

追記:次話についてですが、書き手の筆が進まないので、一週間ほど遅れます。
追記:一週間ほどと言いましたが、無期限で遅れます。
 

追記2024.2.4:簡易領域について(4P)と狗巻のメガホンについて(5P)加筆。メガホンはフツーに忘れてました。


#夢術廻戦 #オリキャラ #虎杖悠仁 #伏黒恵 #狗巻棘 #猪野琢真 #吉野順平 #究極メカ丸
2024年1月22日 21:41



 一方、帳の外では激戦が繰り広げられていた。


 冷気と霜、氷が順平と伊地知に襲いかかる! だが、二人に届く前に、氷は裏梅の制御を離れ、霧散していく。同時に、冷気と対抗するように澄んだ音が響き、それは裏梅にさえ迫ろうとする。
 音と氷の攻防が続いていた。

 順平は自身の背丈よりも大きい長柄を持ち上げ、一定のリズムで地面を突いている。振り下ろす度に澄んだ音が響いていた。
 それは太鼓のように音圧が高く、地面や空気を伝って、周囲にいる人間の身体の奥まで震わせてくる。
 シャランと石突より遅れて鳴るのが、頭部の輪形が円状に並び、そこに通された複数の遊環だ。

 裏梅は氷で牽制しつつ、相手の出方を窺い、分析する。

「(呪具の頭は飾り……影響を与えてくるのは、あの石突か)」

 金剛杵のような頭は刃でこそあれ、刃はほとんど潰され精彩を欠き、遊環すら通してあるのだ。用途は不明どころか、無駄にしか見えない。むしろ遊環が立てる音は調和を乱し、効果を下げている節があった。

 順平が最初に張った簡易領域。それを維持し続けるために、彼は一定のリズムで叩き続けている。彼は見た目よりもずっと重たげに黒い柄を握り、術を行使していた。
 本来、簡易領域は術式を中和する働きはない。それでなお順平が裏梅の呪術を退けられている理由は、揮っている“術”にある。予備動作が必要だが効果は高く、その術は順平だけでなく伊地知を含めた範囲をカバーしていた。

 しかし、それも限界があるだろう。そう読んだ裏梅だったが、わざわざ限界を狙う理由もない。それに、呪力の通りが悪い空間とそれが少しずつ悪化していく感覚もあった。
 裏梅は眉を ひそめる。

 通常の眼では捉えきれないほどの微量な変化。だが、それは術師によっては致命的だ。
 裏梅のような術式は、自身に効果を付与するのではなく、呪力を使った具現化による攻撃が主要手段。術式を乱されれば、それだけ威力や効果範囲に影響が出る。

 そして、順平の術が発動すればするほど、氷を退ける輪が広くなっていくのが目に見えて分かるようになっていた。
 ――順平は簡易領域の範囲を拡張させ続けている。音が広がるたびに、効果範囲も広がっていくのだ。

 それでも、大した相手ではないと裏梅は見定めた。裏梅は術式を強め、攻撃の手数を増やす。
 飛ばす氷柱が増え、順平たちへ一斉に襲いかかった。

 音が鳴り、氷は解けて消え、消し切れなかった氷が順平とその後ろにいる伊地知のそばを掠める。順平の術では一度に対応しきれない物量になったのだ。
 このままでは押し切られる。冷静にそう判断した順平は、裏梅を直に叩くことを決めた――

 順平は長柄で地面を突くだけの定型的な“静”の物から、長柄を振り回す“動”へと動きを変える。その動きは“動”と言えど荒々しく見えず、どんな武術にも組みこまれている繊細さがあった。

「伊地知さん、ぶつからないようについて来てください!」

「は、はいぃっ!?」

 伊地知は内心で「無茶言わないで!」と弱音を吐いたが、四の五の言わず、順平の後ろについた。

 順平は黒い柄を持ち上げ、呪力を纏い速さを伴って振るい始めた。飛ばされる氷と長柄が打ち合い、攻防を繰り広げる。そして、その距離は徐々に縮まっていくのだ。
 居場所を制限された歩道橋の上だったが、順平は動きに支障を見せない。裏梅も氷を出すのに場所を問わないため、お互い縦横無尽に叩きつけ合う。

 その最中であれど、時折、地面に石突が叩きつけられ、迫りくる冷気を薙ぎ払っていく。
 しかし、それはかなり狭い範囲でのことであり、伊地知は先ほど順平から言われた言葉の意味を身をもって理解した。

 そんなふうにして二人の戦いを見ていることしかできない伊地知だったが、だからこそ、順平の動きに関することで気がかりを見つける。

 重たげにしていた動作からいっても、順平は長柄を持った上で必要な動きをするための筋力 フィジカルが足りていない。それをカバーするために呪力で身体能力を向上させているのだろうが……それは重面が言っていたように、道具負けしているということだ。
 そして、呪力を一定の出力で流し続けるのには、それなりの鍛錬が必要だ。練度が低いと、ちょっとしたことで乱れてしまう。


 予想よりもしぶとい相手に、裏梅は腹立たしそうに表情を歪める。それが氷の弾幕越しにでも見える距離まで、順平は近づいていた。
 長柄を振るい、目に見える範囲の氷を無効化する。そのタイミングで順平は勝負を仕掛けた! 長柄を反転させ、前方にいる裏梅へ石突を差し向ける!

……そう来ると思った」

 冷ややかな声がそう告げる。――順平の動きは裏梅に読まれていた。
 順平が放った突きは容易く避けられ、逆に、その腹目掛けて氷柱が突き出される!

「吉野くんッ」

 伊地知が腕を伸ばしかけた先で、空間が水面の如く揺れた。

「『    』」

「なんだと?」

 順平の腹を貫くかと思われた氷柱は、目に見えない壁に当たったかのように逸れる! 相手を仕留めたと思った攻撃が弾かれ、裏梅は思わず声をこぼした。
 同時に、順平の身体に流れていた呪力が途切れ、その手から長柄が滑っていく。呪力への集中が途切れたことで、長柄を掴んでいられなくなったのだ。

 しかし、順平は慣れた手つきで手元に来た長柄の頭を押し下げ、長柄を空中で回転させる。腕に沿わせて向きを整え直し、両手で柄を素早く掴み直した。
 その持ち方は術を使っていたときとは違う、大振りな構えだ。これでは技を発動させることはできない。――その代わり、この持ち方であれば呪力はいらない。

 法具 金剛。これを持つ為の条件は二つ存在している。
 その一つが、使用者の呪力総量だ。……これは条件というよりも、金剛に付与された術式効果と言ったほうが正しい。

 順平は両手でバットでも持つように呪具を構えた。複雑な動きを放棄し、2m近い長柄を握りしめて振りかぶる!
 長柄の頭が地面を擦り、歩道橋を削り取りながら振り子のように振り上げられた。
 捨て身に近い攻撃に、裏梅は目を見開く。

 金剛は、使用者の呪力量が多ければ多いほど“持ちが軽く”なる。そして、それと反比例するように、振るう対象に金剛が当たった ヒットしたとき、

「ぐぅッ!?」

 ――威力が上がる 重たくなる
 バキリと氷が叩き割れる。裏梅が咄嗟に作った氷の壁すら砕き、長柄の頭が鈍器として裏梅に襲いかかった!

 金剛が軽くなればなるほど、激突した際の衝撃が大きくなる。これが法具 金剛に付与された術式効果、重さこそ力 Mass is Power
 このことからも分かるように、封魔は代々、所謂……脳筋だった。


 裏梅は両足が地面から浮きかけ、踏ん張りが利かなくなる。そこへさらに、順平の傍では一本の棘が姿を現す――

「『 澱月 』」

 ノーマークだった場所から、意識外の攻撃が裏梅に向かう! ……だが、裏梅は一筋縄でいく相手ではない。

 澱月の触腕が刺さった場所は、――氷。一瞬先までそこに居たはずの裏梅の姿はなく、透明度の高い氷が順平の姿を映している。
 そして反撃の如く、尖った氷が辺りに生え始め、順平に襲いかかった!

「くっ!」

「その程度で私に届くと思ったのか。調子に乗るな、下郎が」

 氷で作られた高台から、裏梅は二人のことを見下ろす。歩道橋からも離れ、街路樹すらも越えた高みに裏梅は居た。
 あの一瞬の内で、裏梅は自分の足元から氷の柱を生み出し、自身を上へ押し上げることで澱月の攻撃を回避したのだ。

 順平は迫りくる氷を避け、一度、伊地知と共に後方まで下がった。手足に霜がついたまま、体勢を整え直す。彼が持っている呪具の柄は木製に漆塗りなのがマシな点だった。
 順平の様子を見た伊地知が焦りの声をあげる。

「吉野くん!!」

「なんともないです、これくらい……

 順平は落ち着いたまま、短く言葉を返した。その鼻からは鼻血が流れ出ていたが、彼にそれを拭う余裕はない。

「その様子だと、それがお前の決め手だったようだな」

しょうもない。と、裏梅は鼻で嗤った。

 順平が何かを狙っていたのは裏梅も薄々分かっていた。それが順平にとっての切り札あるいは勝ち筋であろうことも。……戦いに関する経験値。その差が浮き彫りになっていた。
 裏梅が順平の接近を許したのも、隠し玉を出させるための“誘い”だ。呪具の威力が想定を超えていたものの、裏梅に大した影響はない。せっかく温存していた術式も一度守りで使ってしまえば、奇襲に利用しようと見破られるのは当然のことだった。


 裏梅がトドメでも差そうと構えたとき、順平が威勢よく声を張り上げた。

「知ってる? 音ってさ、気温が低いほうが遠くまでよく聞こえるんだ」

「だからなんだ。私とお前、術式相性の話をしているのであれば、力量差のほうが勝っている」

「音が伝わるのは温かいほうが速いんだけどね。あと、同じエネルギー量を持つ音と音が衝突すると相殺されるんだ。もちろんこれは相殺したい音とは逆位相の音波じゃないといけない」

 裏梅が訝しげにする。そして、術式の開示かと、表情を険しくさせた。

「何が言いたい?」

「僕もこの技を使ってると感覚が麻痺するんだ。あ、さっきまでの話とは関係ないよ。単にコレの音が大きいって話でさ、しばらく使ってると耳が慣れちゃって、――周囲の音に気づくのが遅れるんだよね」

 その言葉で彼以外の人間も気づく。いつの間にか、唸るようなエンジン音がすぐそこまで迫ってきていることに!
 裏梅が咄嗟に視線を向ければ、一つ目のヘッドライトが歩道橋のかかった道路を高速で駆け抜けようとしていた。

「時間稼ぎか!!」

「失礼します!」

 相手にできた隙を突き、言うが早いか、順平は伊地知の腹に腕を回す。そのまま押し出し、歩道橋の上から一緒に身を投げた!!

「嘘ですよねぇっ!?」

「受け止めて!!」

 歩道橋の下をバイクが駆け抜ける。その一瞬で交差した。
 順平は伊地知から手を離し、長柄を抱えて道路を転がっていく。

 バイクの後部 タンデムシートから一人が降り、その位置に伊地知が腹から落ちた。伊地知は息が詰まり、すぐ目の前を流れる道路に身を縮こませた。地面を擦りそうになる手足を引っこめる。
 視線を後方に向ければ、目に入ったのは歩道橋でできた暗がりの中に立つ、呪術高専の制服を着た青年。そして、吉野順平……守るべき対象 子どもだ。彼らを置き去りにしていることに気づき、伊地知は声をあげた。

「吉野くん!! ぅわッ」

 座席から滑り落ちそうになる伊地知は、一本の腕によって支えられた。バサバサとはためく布地の下から覗くその手は、機械の腕だ。
 伊地知はバイクの運転手のことを見上げ、その正体に思い当たろうとしていた。

「そんな、まさか……

 見覚えのない青年と見知った青年。伊地知は振り返り、ズレた眼鏡越しに遠ざかっていく彼らのことを見つめる。
 バイクは走り続け、順平たちから距離を離していく。真っ直ぐ向かうのは、帳の張られている方角だ。


 歩道橋から飛び降りた順平は、無事道路に着地し、仲間とも合流を果たしていた。が……

「君が来てどうすんだよ!?」

「仕方ないだろう! いきなり人をぶん投げた奴が文句言うな!!」

 ぎゃいぎゃいと言い争う若い二人。お互いこんな形での合流は不本意だと、歩道橋の下で言い合っていた。
 しかし、――それも一瞬で収まり、二人は同じ方向を見やる。

「!」

「とんだ相手に当たったな」

 呪力の高まる気配と共に、周囲の気温がどんどん下がっていく。二人の吐く息が白くなり、睫毛まで凍りそうだ。
 現状、敵の死角に二人は居る。だが、このままではここら一帯が氷漬けにされかねない。相手が周辺を一気に凍らせてこないのは、順平が先ほどまで使っていた技の作用が残っているだけにすぎなかった。

「俺の術式とお前の技は相性が悪い。どう切り抜ける」

「大丈夫、僕だけでやるよ」

……鼻血、出てるぞ」

 順平は指摘され、意地になったようにゴシゴシと拭う。すでに血は止まっており、乾き、一部凍ってしまっている血がパラパラと落ちた。

「澱月はもう使うな。この先も何があるか分からん」

「散々出させてた人がよく言うよ。そっちは?」

「もう一機、簡単なのを動かすくらいならできるさ」

 そう言う青年が懐から取り出したのは小型のドローンだ。それは電力ではなく呪力で動き始める……傀儡だった。


 ブゥンと、これ見よがしに呪力を立ち昇らせ、歩道橋の影から飛び出す傀儡 ドローン。それをすぐさま術式で凍らせ、打ち落とす裏梅。

「つまらん小細工だ、……何?」 

 傀儡による陽動の影に紛れ、逆側から順平が駆け出してきていた。裏梅は知らぬ間に順平の接近を許している! ――気配を隠すのが上手い 気配が異様に薄い
 気づかれたことを悟った順平は、呪力を巡らせ、その場で術の発動を行う。

「風間流・錫杖伝 一拍」

 ダァン!と道路に叩きつけられる石突と、それによって生み出された音の圧。指向性を持ったそれは波となり、一直線に道路を割りながら氷の高台へと向かった。

 呪力がぶつかり弾け、氷の高台が解ける。足場を失った裏梅は宙に投げ出された!

「(術式が解除されたッ――?)」

 呪力の制御が難しくなり、裏梅は術式 を保てなくなったのだ。
 強制的な術式の解除、それを順平は中距離から行った。だが、技の真髄はそこではない。――順平が狙うのは、術師本体の無力化だ。
 しかし裏梅とて、それに近いことを悟っている。当然、詰め寄ってくる順平から距離を取ろうと、裏梅は身を翻す。

 裏梅は今までの攻撃を観察し、重面の呪具に起こった現象を鑑みて、“石突で突かれることがマズい”のだと察しがついていた。ならばこそ、裏梅は石突からの攻撃を何がなんでも回避する!

「それなら!」

 それを感じ取った順平は、作戦を瞬時に切り替え、対象を裏梅から真下の地面に変えた。確実に狙いを当てるのではなく、威力を底上げして無理矢理にでも当てる――

 呪いは物に宿っているときが最も安定する。逆に、空気中に漂っているような残滓は吹けば飛ぶようなものだ。
 それを共鳴……つまり、“鳴らす”ことによって、“ ならす”のだ。呪力によって均された場は、他の呪力が通り難くなる。
 そして、呪いの宿った物に対しては、安定した状態を別の形に均してしまうことで、結果的に乱してしまう効果があった。それが、風間流・錫杖伝の実体だ。


 裏梅は地面に手を伸ばし、順平は地面へ長柄を向ける。――二人は同時に術を発動させた。

「氷凝呪法……直瀑」
「風間流・錫杖伝 偃武 えんぶ

 裏梅の手の中で呪力がパチリと弾け、不発に終わる。それと同じく、順平も呪力による身体強化の効果が失われた。
 至近距離。人の可聴域を越えた音がすでに二人を捉えている。――直撃しなくとも“音”は伝播し、身体の芯を揺らす!

「自爆上等ッ」

――!!」

 裏梅は術の余波をもろに食らう。それは使用者である順平も同じだ。
 互いに呪力を扱えず、純粋な肉弾戦に移行したことに裏梅も気づく。けれど裏梅が狼狽えることはない。その程度で負けるようであれば、生き抜けない時代を生きていたのだから。

 順平を見据え、裏梅は腕を振り上げる! ――だが、順平は一人ではない。

 遠くから飛来するのは、裏梅が先ほど凍らせていた傀儡 ドローンだ。それは氷から解放され、飛んで来たかと思えば、裏梅の側頭部に勢いよく命中する。
 裏梅は防御もできず、衝撃で視界がブレる。そこを、目の前にいる順平が叩く! ――順平の手には変わらず、武具 鈍器としての金剛が握られている。

 金剛を持つ為の条件は使用者の“呪力総量”であり、持つ際に呪力を消費・放出する必要はない。他の呪具と同じように、振るうこと自体に呪力は使わないのだ。
 故に、術による余波を術者が受けたとて、攻撃手段は残される。それが法具 金剛と風間流・錫杖伝が対になっている理由だった。

 順平は長柄を構え直し、再び思い切りフルスイングするッ!
 裏梅には術式による壁も、呪力によるガードもない。――つまらない小細工によって裏梅は翻弄され、胴体を打ち抜かれた!!

「がっ、ァ!」

 裏梅は撥ね飛ばされ、街路樹の幹に叩きつけられる。息が絞り出され、微かに血が混じった。
 辛うじて裏梅を退けることができた順平は、荒れた息を整えながら振りかぶった姿勢を解き、本来するはずだった残心の形へと移した。

「一応、忠告しておくけど。しばらく呪術は使えないと思ってよ」

 呪術を封じる、封魔の真髄。それが染みついた道具と技を使うには、揮う人間の魂が問われる。――裏梅は吉野順平に死人の面影を見た。

 裏梅は街路樹に身体を預けながら、忌々しげに順平のことを睨みつける。
 体内はまだマシだが、体外への呪力の放出が霧散するのだ。攻撃はできず、呪力の運用がうまくいかない状態で、裏梅は反転術式による回復に専念する必要があった。

 とはいえ、この効果は永続ではない。呪力の宿った物体に対しての威力、効果の持続時間は落ちる。それは人間に対しても同じだ。徐々に感覚は戻ってくる。
 それが分かっている順平たち二人は、無理に敵を追いつめようとはせず、その場から足早に撤退していく。

 立ち去る順平ともう一人の青年に、裏梅が言葉を投げかける。

「次、会えば必ず殺す」

「最初から殺すつもりだったんじゃないのか」

 殺気立つ裏梅に対し、青年が白けた顔をして言った。口を開けば煽りのようになるのは京都校節だった。




 伊地知を乗せたバイクは、しばらく走ったところでいきなり止まる。帳に入る手前で急ブレーキをかけ、横向きに止まったのだ。
 その拍子に伊地知はバイクから投げ出され、情けない声を出した。彼は硬い物に背中からぶつかり、ずり落ちそうになったところで腕を持たれ、脇から支えられる。

「伊地知くん」

「へぁっ、七海さん!?」

 伊地知がぶつかり、そしてそんな彼のことを支えているのは七海だった。
 七海は伊地知のことを立ち上がらせながら、信じられない物を見る目でバイクとそれに乗る人物のことを見つめる。

「彼は……!」

「それが私にも何がなんだか」

 人通りのない道路の真ん中で、車体を横向きにして止まるバイク。それに跨る人物のフードが脱げていた。

 “彼”が遺したものは、呪力消費が少ない機能を制限した小型のものだけだと、七海は“本人”から聞いている。
 渋谷に配置されているのも三機中二機だけだ。うち一機は破壊され、一機は虎杖と共にいる。

 緑色の ライトが光り、身動ぎをすればカタリと硬い音がする。服は纏っておらず、身につけるのは布一枚だけだ。それで構わないのも、彼が人の形をした機械 傀儡だからだった。

 それは存在するはずがない、四機目 フルスペックのメカ丸だ。