【ミコ東】儂にとって子には変わらん

33話に出てきたミコシ様と東雲さんのお話。捏造過多。私は上位存在がいい大人だろうが片足墓穴に突っ込んだ老人だろうが人間のことを【児】や【子】と呼ぶのに弱い。カミ東要素もあるよ。
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「ズルい」

同じ屋根の下に住まう者達との顔合わせの場を”子”に設けてもらい、恙なく終わるや否や先住神が儂の背中へぼそり呟いた言葉に部屋に戻るべく動かしていた歩を止めた。
儂を此処に誘い招いた”子”をはじめ、周囲にいる住人達が儂らをすり抜けていく光景に目を眇める。緩慢に廻る閉ざされ澄み切った世界の居心地の悪さは恐らく自分由来のものではないからであろう。外界と切り離したい程に儂とのやり取りを知られたくないのだろうな。
内に秘めたる強大な力を敢えて抑え込んでいる様は、何処か本来の力を完全に取り戻しておらず欠けているようにも見えた。

「何が狡イ」

儂の言葉が気に障ったらしく先住神の宵の瞳が黒く染まる。
足早に距離を詰め幼くも男の手で儂の上着を掴み睨み上げてきた。

「大家サんのっ! これモ、ソレもっ! ナンデッ!!」
「大家? 嗚呼、”子”の事か。子が儂を気遣ってクレたものだが、それガ如何シた」
「僕マダ貰ってナイッ! なのに何でアナタが先に貰ってル!?」

憤怒とも羨望とも云える眼差しは揺れ動き震え叫ぶ声音に儂は悟った。

「お主。あの”子”を”子”としてではナク見ているノか」
……っ」
「──好イテいるのカ」

耐え忍ぶ面持ちで小さく頷く先住神に儂は天を仰いだ。何という事か。この者は、夜明けを告げる瞳の”子”に一人の女性として好意を寄せている。
別段、神が人間を嫁として迎え入れる事はそう少なくない。この先住神もそうなのだろう。されど、そうかそうか……

「そレは申し訳ナイ事をシタ」

幼き子供の姿をした先住神の頭を儂はそっと撫でた。泣くのを必死に我慢する姿に心が痛む。
神というのは兎角寂しがり屋だ。気に入ったモノを手放したくない気持ちも、他の者に奪われんと連れ去り隠したい欲望も儂自身嘲笑してしまう程理解できる。嗚呼、できてしまうとも。
点々と小さな虚に心を蝕まれ、惨めに虚を埋めるべくする行為の愚かさに目を逸らす日々を終わらせただけではない、虚を埋めるあたたかな”子”の言葉と差し伸べられた手にどれほど救われたか。
じゃが、儂はあの”子”が幸せに過ごすのを見届けられればそれでいい。それ以上の事は望まん。

「安心せい。儂は”子”を愛いてオルが、主ノような感情は抱いテおらぬ」
「ホント?」
「おうさ」

神とは兎角嫉妬深い。想い人が自分以外の誰かに思い入れのあるものを贈っただけで心乱される。しかも、贈った相手が同族とくれば尚のこと。先住神が勢い余って神域を展開させるのも無理はない。
先程よりか大分落ち着いてきた先住神と目線を合わせるべく腰を屈めた。

「儂ノ予感が主と”子”の相性ハ頗るイイと言っておるわ」

ハッと見開いた宵の瞳。驚きと期待に満ちた眼差しに笑みが深くなる。

「”神は嘘は言わん”主もよく分かっているデあろウ」
「うん」
「今後儂にも手助けデキルことがあれバしよう。儂はあの”子”が幸せナ道を歩メればそれでヨい」

ほれ、飴ちゃん。
差し出した飴をころころ転がし頬張る先住神の機嫌が直ったのか、周囲と切り離されていた空間が元に戻うておる。素直に非を詫びる姿に儂は構わぬと述べた。だがの、見た限りあの”子”は中々手強そうぞ。どれどれ篭絡させる糸口を共に探そうかね。

「がンばる」

先住神が軽く拳を突き出すので儂も軽く握った拳を突き出しコツンとあてた。
さあさ、異端の”子”よ神というのは諦めが悪いぞ。覚悟するといい。
カミキリの宵の瞳と儂の瞳が遠ざかっていく”子”の背中を目で追っているのをその場にいた誰もが気付きはしなかった。