【ミコ東】儂にとって子には変わらん

33話に出てきたミコシ様と東雲さんのお話。捏造過多。私は上位存在がいい大人だろうが片足墓穴に突っ込んだ老人だろうが人間のことを【児】や【子】と呼ぶのに弱い。カミ東要素もあるよ。
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所変われば品変わるとはよく言ったものだ。

「あの場所カラ引っ越すこと自体、考えた事モ無カった」

活気に溢れ賑やかだった頃は人間たちが綺麗に手入れをしていた祠がいつ時からか苔むし朽ち崩れるのを待つばかり。
祠の前を通る人間たちが少なくなろうとも儂は”そこ”に佇み見守って来た。雨の日も風の日も雪の日も。虚が広がっていく心の隙間を昔の人間たちが絶えず行き来していた頃に想いを馳せ埋めた。
時折り清らかなる心で儂に供え物をし手を合わせる人間に、その者が知りたいと願っている事を夢枕で教えた翌日決まって皆笑顔で儂のところに再び訪れた在りし日の思い出を後生大事に抱き──、ひとり誰も通らない道を祠から眺めていた。



「ハイハイ、今日の営業はもう終いダヨ。また明日来ナさんな」

人気の無いうら寂しい道と打って変わり、紹介された場所は常に人で溢れ且つ儂の力を遺憾なく発揮できる商いがあるとは思わなんだ。
其処彼処から聞こえる残念がった声。それでも、皆一様にしょうがないと朗らかに笑い儂に手を振っては帰っていく。誰も彼も怖がらず逃げず何てことないように儂と接するのは未だ不思議なものだ。
祠から覗いていた時代に比べ随分人間との距離が近くなったのは偏に儂を新しい住処に誘ってくれた子のお陰であろう。
部屋も広くなり、目に映る世界はうんと広くなった。実に面白い。一か所に留まっていた時とは比べ物にならないくらいに儂の視界と知見は広がった。
窓口のシャッターを下ろして完全に店仕舞をすれば本日のお勤めは終了。周囲に人の目が無いのを確認後指を鳴らし、支給された仕事着から普段着へと着替え帰路につく。
祠に祀られて以来、自分自身の足で歩くのはおろか勤め先と新しい住居の往復する景色の中でさえ日々新しい発見があるのだから興味深く飽きが来ない。移ろいゆく朝夕の空気の流れ、すれ違う人間たちの声や気配、道端に咲いている小さな花も実に愛らしく感じる。
特に良いのが儂が歩く先には儂の帰る場所があるという事だ。

「異端の子ダト思っていタが、此処まで異端ダったとハ」

儂を誘い招いた子は、儂みたいな者達を誘っては住むところを提供している大家だという。なんという物好きか。しかも、儂以外にも神が住んでいるときたものだ。
流れゆく雲を目で追い履いたサンダルを小気味よく鳴らして新しい住処である敷地内に入る。

「さてはて、今日ノ夕餉は如何スルか」

顎を擦り思案に耽っていれば目の前に昨晩食べ好きになった洋菓子色の髪の子の後ろ姿が視界に映り込む。
その子は儂に気付いた途端五月晴れのような気持ちのいい笑顔で出迎えてくれた。

「お仕事お疲れさーん」
「オヤオヤ。儂の帰りヲ待っててくれたンか。愛い子ジャ」
「子って。ミコシさん、私いい年した大人だぜ?」
「儂にとってハお前さんも子に変わりはアルまい」
「むぅー。ハッ! じゃ、じゃあさ可愛い子である私に競馬予想教え──」
「却下」

気恥ずかしいそうに頬を掻き、浅ましい顔で笑い、気落ちして唸ったりと忙しない子だ。実に愛らしい。何も恐れず真っすぐ見詰め話してくれる、手を差し伸べてくれる、稀有な存在である異端の子。
此方が気にせず歩こうとも駄々を捏ね袖を引っ張り揺らす子供染みた仕草に微笑んでいれば急に振られていた袖が止まる。
立ち止まり腕を引っ張っていた子に視線を投げかけると、純粋な疑問を浮かべている子と目が合った。

「そういや、あの時の人形どったの」
「嗚呼、あれかイ。あれは捨てるにはシノビなくて家に飾っておいてるサね」

あんたが嫌なら捨てるよ。我ながら口に出した言葉に含まれた未練がましい感情を嘲笑する。歪んだ想いでこさえていたあの人形、正気に戻った今なら分かる不気味さはさぞ人間の目には悍ましいものに見えるだろう。
子のあまりにも真っすぐな目が眩しすぎて思わず、つと視線を逸らしてしまった。後ろめたいからか虚が減ってきた心の隙間に入り込もうとする冷たく暗い、寂寞が呻き嘆き虚を広げ始める。
否、これは寂寞ではない。子が儂を拒絶するのではないかと恐れて怯えているのだ。
丸いサングラス越しに子の様子を窺い見遣る。別段問題なんて何もないといった風に子は空を仰いだ後儂を見た。

「分かるわー、思い入れのあるやつは傍に置いておきたいもんな。あっ。あと私のでよかったらやるぜ? 流石に歯と目は無理だけど髪とか爪なら全然言ってくれ」
……何とも思わンのか?」
「なにが?」
「──いや、何でもなイよ。それにお前サんからはモウ貰っテおる」

マンションに誘われた日に子から貰った上着を掴んで見せるよう引っ張り足元のサンダルを鳴らす。
それで此方の意図を察した子が八重歯を覗かせ「そっか」と笑ってくれた。
嗚呼、愛い実に愛い子だ。

「ちょ、ミコシさん私は子供じゃないんだってばっ。頭撫でんの恥ずかしいってっ」
「さっきも言ったが儂にトッテはお前さんは愛い子ジャよ。ホレ、飴ちゃん」
「マジ? やったーっ」

飴玉ひとつでこの喜びよう。実に愛らしい。上機嫌に飴玉を口の中で転がす子と一緒にエレベーターに乗り、儂が先に下り振り返れば子が手を振っていたので振り返した。
上へと消えていく子を見送った儂はサンダルを鳴らしつつ廊下を歩き子から貰った上着のポケットから鍵を出し204号室の鍵穴に差し込んだ。