不破
2024-06-17 21:08:30
5687文字
Public 空戦
 

#20


 手にしている身の丈よりも長い杖をぐるりと翻す。十字を模した形状の杖を回転させて構えると、自らの魔術を発動させた。周辺の気温が急激に下がり、自らを中心に急激な冷気が炸裂し、迫りくる空兵を巻き込んで広がる。凍りついた空兵がサテライトと共に落下していくのを目にしながら、白く染まる息を吐き出した。更に杖を翻し、迫りくる大斧を阻む。響き渡る金属音、弾いた斧の主が宙返りして体勢を立て直すのをアイスブルーの目で見据える。

「あら、色男」

 ブーツ型のサテライトで滞空する女が斧を方に担ぎながら笑みを浮かべた。
びりびりと伝わってきた衝撃に似合わない涼しげな声に苦笑し、手にしている杖を下ろすと、ノーヴェは肩を竦めながら口を開く。

「お褒めに預かり光栄だ。ヤノフスカヤのご令嬢とこんなところで会えるとは思わなかったぜ」

 言いながら、白いローブの懐から煙草の箱を取り出すと、1本を口に咥えた。こちらを見る女、エヴゲーニヤ・ヤノフスカヤがキンセンカ色の目を呆れたように細め、ため息交じりに言う。

「敵の目の前で一服とはね。カラブレーゼのお坊ちゃんは食わせものだって聞いたけど、ほんとみたいね」

……なんだそりゃ。酷え言われようだな」

 杖を脇で挟んで手を空けると、銀のライターで火をつけ、煙を吐き出してから苦笑する。煙草を大きく吸い直し、一気に灰へ変えて煙とともに冷気を帯びた風に消し去り、わずかに残ったフィルター部分を吐き捨てると、杖をぐるりと翻して弄んでから自らの正面に立てるように構えた。

「では改めて……ウィンズレット軍、第6艦隊ジュリアス所属。ノーヴェ・カラブレーゼだ。お手柔らかに頼むぜ、お嬢さんシニョリーナ

 渦を巻く冷気に雪が舞い、周囲の気温を一気に下げる。と、視線の先で呆れたように苦笑するエヴゲーニヤが大斧を構えた。

……メルゼブルク軍ベガ隊隊長、エヴゲーニヤ・ヤノフスカヤだ。イェーニャでいいよ、色男」

 手にした大斧を振り上げ、サテライトを加速させて急迫してくる。即座に杖を一振し、大気中の水分を凍らせて鋭い氷片を作り出し、弾丸のように撃ち出す。

「ちまちましてるね! そんな柄じゃないでしょ!」

「へっ……!」

 放った氷片を打ち払いながら迫りくるエヴゲーニヤの言葉に小さく笑い、振り下ろされる斧を回避して後方へ飛ぶ。刃を返してもう1度振るわれる斧を躱して宙返りすると、手にしている杖をぐるぐると弄ぶと、先端を凍結させて氷で覆い、杖を槍へ仕立て上げる。

「確かに、熱烈なアタックには情熱的にお応えしなきゃな!」

 槍と化した杖をぐるぐると振り回し、遠心力を乗せて突き出す。凍てついた矛先と斧の刃がぶつかり合い、氷の破片が宙を舞った。