mishiadd
2024-06-17 18:08:42
9673文字
Public
 

ザ・ショーストッパー

サムレムがミュージカルになった俳優パロ。ビッグナンバーを一手に引き受けさせられて異常ストイック性を発揮して舞台で歌い死ぬ勢いの宮本伊織と何百回の通し稽古で可惜夜を疑似体験させられて精神衛生が常にやばいセイバー、差し入れ魔の柳生宗矩、K-Pop出身舞台俳優のカヤちゃん、過労死寸前の演出家兼舞台監督兼俳優の若旦那など胡乱極まるドタバタコメディ。


4. The Ensembles

カヤはK-Popアイドル出身の舞台俳優である。
単身韓国へ渡り活動したあと、舞台というものに興味をもって帰国した。実力派――というふたつ名に実際どれだけの価値があるかカヤにはわからないが、舞台の上でも魅せる体の動かし方は心得ているつもりだ。
今回のカンパニーにはオーディションを経て参加した。原作ゲームは役に受かってからプレイした。アクションゲームは得意な方ではないが、移動の合間にちまちまとプレイしてなかなか楽しめた。

主演ふたりとは今回が初対面で、特にタケルとは歳が近く気楽に会話ができる一方、座長であり少し歳の離れている伊織とは、会話する時に少しだけ背筋が伸びてしまう。とはいえ、そんな気負いはカヤが勝手に感じていることだし――それに、役作りの上でそんな緊張はあまりよろしくないのだろうな、とも思う。
実際、伊織はカヤと会話するときも気さくで壁がない。もっとも、見る限りあの人はカンパニーの誰と話すときも大差がなく、分け隔てがない。

伊織がカヤに声をかけてくれたのも、そんな折のことだった。
「あちらの控室に宗矩さんからの差し入れが入ったから一緒に食べに行かないか」という誘いだった。

「宗矩さん、いつもすごい差し入れ持ってきてくれますよね。ニコニコしながら」
「つい一昨日あたりに生ハムの原木が届いたばっかりだったのにな」

ふたりで廊下を歩きながら控室へと向かう。

「その前はなんでしたっけ、チーズ?」
「ラクレットだった」

顔を見合わせて、フフ、と妙な笑い声が漏れる。いや、生ハムもラクレットもありがたくいただいたのだ。まず自分で買わないし。

「今日はなんでしょうね」
「なんだろうな。……チョコレートファウンテンとか?」
「ああー」

はははと談笑しながら待合室に入ると、半分ほど削り取られた生ハムの原木とラクレットの隣に置かれていたのは、意外にも小さな箱だった。
はて、と思いながらふたりで顔を見合わせる。近づいてよくよく見てみる。――赤福、だった。

うーん、とふたりで小首を傾げる。わかるような、わからないような。







ふたりで赤福を頬張りながら、「そういえば、いつか訊いてみたいと思ってたんだが」と伊織がカヤに尋ねた。

「『オトタチバナヒメ』役のとき、もしかして少しだけ俺に対して当たりが強かったりしてるか?」
「あ、気付いてました!?」

ぱっとカヤが顔を輝かせる。演技に言及してもらえるのは嬉しかった。

「そうなんですよ! でもちょっとだけですよ。ほんの少しだけ変えてるんです!」
「へえ、やっぱりか」

得心したように伊織が頷く。

「面白い解釈だな。それは、なぜ?」
「『なぜ』!?」

カヤの声がひっくり返る。「宮本さん、モテるだろうにわからないんですか!?」と一気に距離感を飛び越えた発言をしてしまうが、カヤは気付けない。

「宮本さん、頭の中まで『役』とおんなじになっちゃったんですか? まずいですよ、わからないようじゃあ……
「す、すまん。まったく話が見えない」
「いいです、『兄ちゃん』に教えてあげます。……あのですね、面白いわけがないからです」
「うん?」
「あたしが恋をした大好きな子がキラキラした目でそっちばかり見てるんです。
勿論、あの子が哀しい顔をしているより何百倍もいいです。あの子はあたしの顔を見たら謝ってばかりで――あたしのことを大切に思ってくれてるのはわかるし、それはすごく嬉しいけど――でも、あの子には笑っててほしい。
だから、あの子を笑顔にしてくれたあなたには本当に心から感謝してます。本当です。――でもね!」

ぷに、と伊織の頬をつつく。

「ほんのちょーっとだけ、悔しいような!
でもこれは、逆に誇ってもらって構わないのです! あたしをこんな気持ちにさせたこと自体を!」
……なるほど」
「だから、ちょっとだけイジワル。でも、本当のイジワルじゃないですよ。ちょっとだけです。……恋敵に優しい女の子なんて、古事記の時代からいないのです!」
「なるほどなあ」

ふうん、と何度も頷きながら、伊織が咀嚼しているようだった。
カヤの方と言えば、気付けばすっかり伊織に対して心が打ち解けていた。勝手に感じていた壁はなくなり、これからは愛称として役の上での関係性で呼ぶことも違和感がないように思う。

そういえば、と手元の赤福を見下ろす。

――宗矩さんの差し入れ、みんな『分けにくい』、な。

よくお礼を言っておこう、と今更ながらにカヤは思う。