mishiadd
2024-06-17 18:08:42
9673文字
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ザ・ショーストッパー

サムレムがミュージカルになった俳優パロ。ビッグナンバーを一手に引き受けさせられて異常ストイック性を発揮して舞台で歌い死ぬ勢いの宮本伊織と何百回の通し稽古で可惜夜を疑似体験させられて精神衛生が常にやばいセイバー、差し入れ魔の柳生宗矩、K-Pop出身舞台俳優のカヤちゃん、過労死寸前の演出家兼舞台監督兼俳優の若旦那など胡乱極まるドタバタコメディ。

showstopper [noun]
a piece in a stage performance that the audience enjoy so much that their clapping and shouts of approval interrupt the performance
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)

即ちそれは、――その万雷の喝采が舞台の進行を妨げるほどの『究極の一曲』――のこと。







1. Overture

それは、あるいは養父に連れられて初めて訪れた観劇の場であったのかもしれない。それがどういう機会であったのか、もはや伊織は覚えていない。
演目が何であったかも定かではない。舞台の上にたくさんの猫がいたような気もするし、それはアフリカのサバンナであったような気もするし、はたまた十字架にかけられるイエス・キリストであったような気もするし、そのいずれでもないような気がした。

ただその瞬間は、インターミッションに入る直前、第一幕の最後にあったのだ。

たったひとり舞台の中央で、スポットライトの力すら必要とせず。
数十人のダンサーが縦横無尽に舞えるほどの広さの舞台を「狭い」と感じさせるほどの圧倒的存在感を放ちながら。

――歌い上げるベルティング究極の一音ハイノート

緞帳が下がり、観客席ハウスが明るくなって、休憩時間のアナウンスがあってもなお、観客の冷めやらぬ興奮は劇場を揺るがすような拍手喝采のかたちで鳴り響き続けた。

伊織は、ただ呆けて見ていた。
気付けば頬が濡れていた。袖で乱暴に拭う。それは、哀しいのとも、怖いのとも、感動したのとも違った。
純粋に、びっくりしてしまったのだ。ただただ驚いて、その生理的反応として涙が流れてしまった。

歌声になのか、メロディになのか、オーケストラの大音量になのか、具体的には何に驚いたのかは自分でもわからない。

ただ、その時に伊織は決意した。



――あの究極の一音ハイノートをこそ、いつか自分は超えてみせる、と。






The Showstopper <ザ・ショーストッパー>