無窓居室
2024-04-15 03:25:05
3594文字
Public
 

お花見短文

春の短いお話四つ。同じ家に帰ったり一緒にお風呂入ったりしてるので多分付き合ってる😈👹
相変わらずフィーリングしかありません。


花漏れ日


「桜の季節もいよいよ終わりですね」

 桜並木のある遊歩道を歩きながらブラックが言う。頭上の桜はほとんどが散りかけ、乏しい花の中に赤い軸が目立つようになっている。路上に落ちた花びらもすっかり踏みしめられて地面の色と見分けがつかない。枝の先に芽吹き始めた若い葉が、そこだけ生き生きとしてアンバランスな眺めだった。すっかり葉桜の季節になるまでもうあまり撮りようもなさそうだ。
 そんな思考を傍のアカネの声が遮った。

「これはこれで綺麗だな、満開のときには見えなかった空が見えるよ」
「そうですか?」

 確かに花びらに遮られていた春の空が枝の向こうに覗けるようになっていた。桜の盛りの頃よりも鮮やかな青は、しかしまだ夏空よりも優しい。

「木漏れ日、って言葉は知ってるけど花がまだ少しでもあると何て呼ぶんだろうな。ほら、この辺なんかカーテンみたいじゃないか?なんて名前だっけあの、透け透けの……
「女子力ない表現ですね〜」

 言われてみれば僅かな花びらと枝葉を通した陽の光は、総レースのカーテン越しのそれを思わせた。白い繊細な刺繍に赤と緑の縁取りが施されているだろうそれはどんな名工も再現できず、春の終わりの一時にだけ降ろされる。

「アカネさん、ちょっとそこへ立ってもらえます?」
「ぇ……こ、こうか?」

 気まぐれを起こしてスマホを構えてみる。動画ではなく静止画だ。膝をついて姿勢を低くし、アカネの背景に桜の木が来るようにアングルを調節する。急なことに驚いているのだろう、アカネはポーズを作るでもなく、恥ずかしそうに視線をうろつかせながらその場に立ち尽くしていた。

「うーんやっぱりいいです。邪魔なので」
「おい!!」

 あっさりアカネを構図から外して枝ぶりだけを撮影すると、当然ながらアカネは怒声を上げた。また追いかけっこになりそうだ。赤い髪と瞳に金の角を持つアカネの華やかな美貌が散り終わりの桜を霞ませてしまうから、だとは言わないままでブラックはスマホを仕舞う。
 アカネの姿が映っていないところでブラックは不都合を感じなかった。この景色の価値を教えてくれたのが彼女であることを、自分が忘れるはずがないと知っていた。


 2024/04/15