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はらっぱかーご・楠木アウト
2024-06-03 19:57:45
5955文字
Public
小説・短文・語り
【健全】首輪なき犬達の家【小説】
621の性別は読者選択式。
解放者√後
スッラ(普通に元気)がウォルター(肉体的にも精神的にも無事じゃない)&621のお家に居つく話
ほのぼの生存・共存ルート
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4
*
「お前に相応しい末路だ、ハンドラー・ウォルター」
酷い言葉です。
手足が取り外され、ヒトのカタチから遠のいたウォルターさんを見るや否や、この台詞です。
「逃げろ、621」
ベッドに横たわり、天井を見つめる虚ろな表情。けれどあの人の声が部屋に響いた瞬間、そこに陰りが見え始めました。
「ウォルターさん?」
「スッラは、危険だ
……
逃げろ、621。618、あいつも、スッラに」
「この人がその気なら、もう手遅れです」
逃げろと言ったって。吹雪の中をうろついていたにもかかわらず平然としているような人から、どう逃げろというのでしょう。
こんな風になってしまってからというもの、ウォルターさんは時々無茶を言うようになりました。
普通の人生を送れだとか、そういう、色々。犬には出来ない事の方が多いのですが、壊れてしまったウォルターさんには、それが分からなくなってしまったようなのです。
「逃げろ、逃げてくれ」
うわごとのように。何度も何度も、辛そうに、そう言い続けるのです。
私とあの人は、そんなウォルターさんから目を背けるようにして顔を見合わせます。
「ええと、それで。どうして、ウォルターさんを尋ねて来られたんですか」
「言っただろう、顔を見に来たと」
「そうですか」
「憐れんでやろうと思ってな」
「可哀想だから?」
「そうだ」
てっきり、嗤いに来たのかと。この人、意外と慈悲深いのかもしれません。皮肉でなければ、ですが。
「スッラ。そいつを
……
殺すのは、やめてくれ」
「
……
」
「頼む、もう、俺の」
「
…………
」
「ようやく生きながらえたんだ。俺に、付き合わせたばかりに、
……
あいつらは」
ウォルターさんはもがきます。衰えた身で、何の支えもなく、身体なんて起こせるはずがないのに。
落ち着かせようと思うのですが、どうすればよいのだか、さっぱり分からないのです。
困り果てた私の横で、あの人はその様子を、ただ黙って見つめるばかり。
「頼む」
――
長い沈黙。そうして、ひとつ。あの人は深い溜息をついて、頭を抱えるのでした。
「犬。飼い主を飼う気分はどうだ」
「どう、と言われましても」
飼っているつもりはありません。ただ、一緒に暮らしたいだけなのです。だからこうしているのです。
そうしているうちに、あの人は、許可もなく勝手にベッドの端へ腰掛けました。雪で濡れた服でそんなの、駄目です。乾かしてから、なんて。咎めるのは、よくない事でしょうか。結局言い出せませんでした。
「犬、よく聞け。私はな。こいつに昔、提案をしてやった事がある。ルビコンにもコーラルにも、こいつの言う友人達にも。付き合う必要はない。ほうっておけと言った。関わると碌な事はない。だから、もうよせと。もういい歳だ。私のような境遇の強化人間を憐れむのであれば、手持ちの金で全員引き取って面倒を見ろと。闇医者を始末し強奪してでも。そうしたいのなら、と。協力してやると言ったのに」
「そうですか」
唐突に、長ったらしい愚痴を吐き出し始めたので、とりあえず相槌をうちました。
「犬。お前以上に若いのも、在庫として山ほど眠っていた。こいつは可哀想なガキを見るとすぐ目が曇る。そういう連中を率いるくらいの手伝いなら、いくらでもやってやる。ガキのお守りは気が進まないが、出来ない事もない。そう言ったのに、だ」
「そう」
愚痴なんだか、恨み言なんだか、よく分かりません。
「だが、こいつは聞かなかった。大体、無茶な使い方をすれば離反される可能性も増える。私自身がそれを実演してみせた。それなのに懲りない。結局、最後の犬であるお前にも裏切られた。あれだけ忠告したというのに」
「そうですね」
この人としては、親切心があったのに無下にされたと主張したいらしく。どうしようもなく不満げです。けれど、私にそんな事を言われても、困ります。
大体、ウォルターさんを邪魔して散々苦しめていたくせに、全部お前の為で
……
優しさで
……
、みたいな雰囲気を出しているのが解せません。
「
――
そうして今、ここで情けない姿を晒している」
また、酷い言葉です。
「621。駄目だ、そいつから、離れろ」
「ウォルターさん、ウォルターさん。あの人、私達を殺しに来たわけじゃないみたいなんです。そんなに心配しないで」
「駄目だ、逃げろ。言う事を聞いてくれ、621」
「貴方を置いて、どこへ行けっていうんです」
「621、頼む」
もがき過ぎて、額に脂汗を浮かべ始めたので、いよいよ止めに入らねばなりません。とりあえず肩に手をかけて、ベッドに身を委ねさせようと軽く押し込んでみたのですが、まともに動かぬ身体に反してその意思はどうしても暴れ出したいほどのものであるらしく。ウォルターさんは、まるで嫌がる小さな子供のように何度も首を横に振るのでした。
「ウォルターさんは、貴方を歓迎していないようです」
「らしいな」
皮肉な笑みを浮かべるあの人は、気のせいかどことなく寂しそうにも見えるのです。
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