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豆炭々炬燵
6340文字
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アンデッドアンラック
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【フィル風】無警戒の信用
王子様のキスでお姫様は目覚める(要約)なお話とおねが抱くクッションポジになりたいショタのお話二本立て。フィル風編。
1
2
3
4
無警戒の信用
「誰かの気配や目線があった方が作業が捗るんだ」
しばしば風子自身がはにかみ述べる裏側、散々ニコやイチコ、ジーナ達から誰の目にも届かない場所でやれば根を詰めすぎる。そう口酸っぱく注意され続けられていたのをフィルは知っていた。
共同作業兼休憩スペースの一角。所謂自由気ままに使用して構わない大広間の壁際で書類の束と睨めっこをしていた風子が深く息を吐いた。無造作に広げられた書類がテーブルの上を埋め尽くし、適当に一枚を手に取り眺めては再びテーブルの上に戻す。
つとお供に置いていたティーカップに手を伸ばしてカップの縁に口を寄せ傾けるも喉の渇きを潤す事は叶わなかった。あとから軽すぎると気付いたカップをソーサーを戻した切なく澄んだ音が響く。
知らず前のめりになっていた姿勢をググっと伸ばして浅く沈む背凭れに寄り掛かった。
重力に従い背凭れに沿ってズリ落ちる身体。後頭部が背凭れの上に乗っかるかたちで止まり、仰ぎ見た天井の高さを何んとなしに「たかーい
…
」なんて当たり前の情報しかない事を呟いた。
久々の書類整理。滞っていたデスクワークを熟すにあたり脳内に疲労物質が溜まり、文字の海を泳ぎ疲れた目を労うべく気怠い瞼を閉じた。
程よい眠気を誘う室温、耳をすませば聞こえる人の気配に風子は残っている意識を振り絞り、白紙にペンを走り終わらせた瞬間完全に意識を手放した。
──もし、寝ていたら起こして下さい
簡潔に書かれた文章。最後の方に至っては途中で力尽き変に伸びてしまっている。
頭を包み込む背凭れは枕。下腹部の上に乗せた両手はブランケット代わり。薄ら開いた唇から零れる寝息は穏やかで、目を瞑り眠りについた顔は本来の彼女らしいあどけなさが垣間見えた。
「
………
」
気を張り詰める必要がほぼない組織内。安心して仮眠を取る風子の姿を休憩スペース入り口から見付けたフィルが浮遊移動で音もなく近付き、テーブルの上に置かれた書置きを一瞥後、彼女を起こさぬよう隣へと静かに腰を下ろした。
機械の身体の時より発現した否定能力の所為で無機質で無表情に拍車をかけるフィルの凪いた幼顔。
無垢すぎる新緑色の大きな目が寝入っている風子を眺め、細心の注意を払い彼女が微睡み満喫している夢の国から戻って来ないように頭を寄せた。ふわふわした目の色と同じ短い髪が身を預けた風子の身体に沿って微かに擦れあう音を産む。
身長差があるので肩同士が触れ合う事は無いものの、服越しの温もりや呼吸し上下する動きが分かる位の近さまで≪託す者≫の身体で凭れ掛った。
ゼロどころかマイナス並みにフィルがくっ付いている態勢でも気持ちよさそうに寝ている風子から起きる気配は無く、やんわり彼女の腕の隙間に球体関節の細い腕がするり入り込み腕を組んでも起きる事は無かった。
終始上目遣いで風子の様子を窺っていたフィルの視線が無機質な床に落ち脳内でカウントを始めた。
「(1
…
2
…
3
…
)」
寸分の狂いなく数を数える。仮眠に適している時間はおおよそ10分~15分。
その僅かな間だけこのままでいたい子供らしい純粋な願いは幸いな事に誰にも邪魔されず終わりを迎えた。
カウントが終わりフィルは一度だけ風子が起きても構わない程度の力で彼女の腕に顔を埋め摺り寄せる。
猫が親しい相手に額を摺り寄せるように、フィルもまた大きな目を閉じ柔らかな前髪ごと押し付け摺り寄せるも風子の口から要領を得ない寝言が漏れるばかり。
閉じている瞼から伸びる睫毛すら震わす事も出来ず、赤みの強い朽葉色の瞳が瞼裏から現れてくれない。
摺り寄せていた顔を離して組んでいた腕を解きフィルが風子の身体を優しく揺する。真っすぐ見つめる新緑色瞳は絶えず「起きて、風子お姉さん」と呼び続けていた。が、起きない。全くもって起きる感じがしない。
大抵の場合揺すって起きないのであれば、更に揺する力を強めるか声量を上げ呼び掛けるもの。だが、フィルはどちらも選択しなかった。
透明度の高いフィルの澄み切った瞳が風子の寝顔から彼女の折り重なった手に向けられる。
上に重なっているやおら常時素肌を晒さない手袋をした風子の手を恭しく取り手の甲に小さな唇を触れさせた。
ふわり可憐な花を愛でるかのような優しい仕草。フィルが手を取ったあたりから目を覚まし寝惚けた頭と眼で彼の様子を眺めていた風子の頭と眼を一気に覚醒させた。
幼いながら整った顔つきと拙さなぞ無い紳士的な振る舞い。まさしくおとぎ話に出てくる王子様。
そして、弛緩していた風子の手が変に強張っているのに気が付いたフィルは彼女が目覚めてくれた事を知り表情宿らぬ顔で見上げた。
目と目が合うも何も喋らない風子にフィルは空中に青み掛かった半透明のディスプレイを呼び出し文章を打ち込み表示させる。
『おはよう、風子お姉さん』
「お、おはようフィルくん。起こしてくれたんだよね? ありがとう
…
」
テーブルの上にある書置きを横目で見遣り未だに手を離さないどころか両手で掴み直しているフィルに風子は胸中渦巻く疑問を素直に訊こうか訊かまいか考えあぐねている。
それを察してかフィルは続けざまに文章を打ち込みディスプレイに表示させた。
『王子様のキスでお姫様は目覚めるって本で読んだ』
「ゆ、有名なお話だよね!?」
不意に子供がする行動に思わず胸がキュンキュンして変に声が上擦ってしまう。
純粋な好意は微笑ましくそれ以上でも以下でもない、なのに何故か変に顔が火照っている気がして仕方なかった。それは寝起きの頭で出し抜けにされたからか、キスというのを変に意識し過ぎてしまっている所為か。
さり気なく手を引こうとする風子の手をフィルがやんわり掴む力を強め再び手の甲に唇を寄せる行為に赤みの強い朽葉色の風子の目が瞠る。
『あと、リップお兄さんが”好きな人はみんなお姫様”だって教えてくれたんだ』
「それってつまり──」
『風子お姉さんはボクにとってのお姫様』
今度は真正面からフィルが手の甲に口付けする様を見てしまい風子の頬に朱が走った。手袋越しに伝わる薄っすらでいてはっきり押し付けられ離れる唇の感触。聞こえない筈の音が勝手に脳内で再生され余計に意識してしまう。
純真無垢な好意にたじろいでいる風子の様子にフィルが静かに想いを綴る。
『迷惑?』
「そ、そんな事ないよ! 全然迷惑なんかじゃないって!! お姫様気分になってちょっとドキドキしちゃっただけだから!?」
表情から読み取れないが明らかに気落ちしているフィルを元気付けるべく風子が早口で言ったが最後、その日を境にフィルは彼女が転寝をしてるのを起こす際、王子様のキスでお姫様は目覚める方法を採用したのだった。
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