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戌丸アット
2022-05-30 00:11:45
5497文字
Public
Fate
短編まとめ
槍弓
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北半球の中では一年の中で一番昼が長く夜が短い日、夏至。
所謂クーフーリンの生誕の日も過ぎて、本格的に夏が来ようとしており、気候はいよいよ日本独特の湿気を含んでいるジメジメとした梅雨が日本全国を覆い包もうとしている。
それは落ち着いた寒さが馴染み深く冬の長い冬木市も例外ではない。
雨も振らず、現在の日常のひとつとも言えるアスファルトの焼けた匂い。
蝉が仲間を求めて鳴く声。
植物を生かし殺しかねない刺すような日差し。
まさに日本の夏を代表するような日に限って、本日の来訪者であるクーフーリンは今、まさに慣れない土地の暑さにじわじわと蝕まれて客とは思えない態度でソファの上に伸びていた。
「おい、ランサー手すりに足を置くな。掃除が増える」
「ぁあ?テメェならこれくらい差して問題にならんだろうーが」
「サーヴァントでも現界していれば汚れは出る」
せっせと凛が分けておいた洗濯物が洗い終わったので拭き終わった食器をすぐに棚へ戻し、光の御子殿の頭に濡れタオルを置いてやる。
サーヴァントに熱中症対策など無意味なのは百も承知ではあるのだが目の前でゴロゴロされては邪魔で仕方ない。
気分の問題なのだ。
「つっめたっ!!!」
「それで我慢したまえ」
「こんなもんすぐに熱くなんだろ
……
なんでこんなに暑いんだ?この国は!」
「なんだ?どうして暑いのか科学的に説明しろと?」
やめろ!更に熱くなるだろうが!と拗ねた表情で大人しく濡れタオルで汗を拭いているのを見ていると、アーチャーの世話焼きの心を擽ってくる。
自覚の無い世話焼き男の心を擽る事に成功したクーフーリンことランサーは、濡れタオルでひと通り身体を拭き終えると本来の目的を成す為に庭へと出た。
夏を迎えようとしていながら冷房も使わずに遠坂邸を掃除しているのには訳がある。
事の発端は、ランサーとアーチャーの二人が衛宮邸を半壊まで追いやった事だった。
多少、二人と渡り合えるセイバーも壊していたがセイバーは二人を止める為だからとお咎めがあったのはランサーとアーチャーだけと言う始末なのだ。
だが器用と言えど慣れない家事をしたランサーにご褒美をこっそりと渡しても問題はないだろう。
ランサーとて口の軽い男ではないのだから。
*
「あーあっちぃな
……
前に坊主に食わせて貰った茶碗蒸しとやらの気持ちってこんなのか?」
「その下らない質問を私にするな」
「はいはい、くだらなくて、すいませんねぇ!今ならどんな軽口でも買ってやれるわ!」
「そうか、だが生憎と私は手が放せないので遠慮しておこう」
「
……
んだ、それ」
慣れない蒸し暑さと言うと苛立ちを駆り立てる二重苦に堪え性のないと自覚していながら、ついつい弓兵に喧嘩を売るような口振りを吐いてしまう。
無論、聖杯戦争が終わって夢の続き、夢うつつな現状を戦闘に費やすよりも楽しんだ方が有益なのは理解しているが、それだけではあまりにも物足りず、また性にも合わないのだ。
ところが肝心の弓兵は何やらペンギンの腹から何やらガリガリと雪とは違った削れた氷を作り出す。
なんとも見ようによってはグロテスクな道具で、どうやら料理をしていた。
先程、遠坂の娘に言われ、魔力の維持の為に取った食事は終わっているのでデザートだろうか?
ならば期待は自然と膨れ上がる。
お節介だと自覚していながら止められない男の事だ。
当然、一言どころか大量に皮肉が飛んでくるだろうが気分転換になるのなら安い物だろう。
何故なら、このいけ好かない男は料理がプロ並なのだから。
「出来たぞ、かき氷と言う料理だ、一応な」
「ほう
……
この青いのなんだ?」
「甘みを出す為のものだ、害はない」
「応、お前さんの出す料理に毒はねぇのは分かってる。だがうめーの?」
「
……
ふん、食えば分かる」
なんだそれは。
と言うのが率直な意見だが近くに置いただけで伝わってくる冷気に誰が逆らえようか?
真夏ではないと聞いてゾッとした程に湿度を多く含んだサウナのような部屋でたった一つ寒さすら覚える涼しさが机の上にある。
ランサーは抗う事もなく、その涼しさの塊を迷う事無く、スプーンで穿ち、山盛りに取ると大口を開けて出迎えた。
「っうんめぇぇ!!?なんだこれ!」
「ふ、珍しく大袈裟だな」
「何を言ってやがる。涼しげな顔してるがお前さんも汗が止められてねぇぞ
……
ってお前まさか体温調整してんのか?」
「あぁ、マスターの指示に従うのはサーヴァントの基本だろ?」
「ふーん、そんなもんなのかねぇ」
相変わらず遠坂の娘は良い趣味をしている。
そして何より此処ぞと言う時に間が抜けているのも愛嬌があって後十年、早ければ抱く為に誘っていただろう。
この目の前で暑さから無防備に汗の滴り、程よく色付いた肌をランサーの前に晒す男にするように。
「よう、アーチャー後は何処だ?掃除か?」
「む?
……
ふむ、確か後は客間だな」
「んじゃ、この上手いの食ったらさっさと終いにしようぜ」
「そうだな、夕飯の支度もしなくては」
あぁ、哀れな子羊は律儀に真っ白な皿の上へと狼に誘導されるとも気付かずに席を立つのだった。
END
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