戌丸アット
2022-05-30 00:11:45
5497文字
Public Fate
 

短編まとめ

槍弓



拝啓、愛しい人。どうしていますか?私は相変わらずロンドンで健やかに暮らしています。
ありきたりだが読みやすい柔らかな文字で始まったロンドンから届いたアルトリアからの手紙を貰ったエミヤは読み終えると、すぐに空港へと車を走らせた。
だが到着すると、どうだろうか?
手紙に同封されていた写真の青年と共にアルトリアは空港から出てくる所だった。
周りの客も思わず振り向いて視線を集めているが二人の美男美女がどこ吹く風だ。

「おや?流石ですね。アーチャー!もう到着してしまいましたか。驚かせようと思っていたのに」
「いや、充分にサプライズだ……まさか急に知人と共に泊まらせて欲しいと手紙を送ってくるとは

何処かまだ幼さの残る可愛らしい笑顔で残念です!と少しも悔しがっていないアルトリアに苦笑いをして見知らぬ青年に手を差し伸べる。
握手しようとしたのだ。
だが青年は惜しげもなく顔をしかめると不思議そうに首をかしげた。

「なんのつもりだ?俺は男と握手する趣味はねぇよ、今回はセイバーに引っ張られて来たしな。俺の事は気にしなくて良いぜ」
「ふむ、そうか」

別に気にはしない。
エミヤ自身、特に好かれる態度や性格ではないと自身を客観視している為、青年の態度は気にならなかった。
アルトリアの手紙の内容は大まかに以前は世話になって感謝している事、そして再び今回も家に住む事を許してほしいとの事だった。
まさか時差などにより手紙にかかれた当日になるとは思っていなかったが。
アルトリアの反応から察するに、わざとなのだろう。
そもそも彼女との出会いは彼女が冬木市でナンパされた所を助けようとして、逆に叩きのめされた不良を保護した所からの縁だ。
一年ほど居候していた期間をエミヤは、今も忘れていない。
まさか本物のイギリス貴族と知ったのは彼女が帰国した後とはいえ、もう会うこともないと思っていたのだから何が起きるか人生とは分からないものである。
そう、本当に分からないものなのだ。
アルトリアと共に来日したアイルランドの貴族だと言うクーフーリンに惚れるとは、空港で出迎えたエミヤには分かる訳などない。
たった一週間の出来事だが、それ以上にエミヤにとってアルトリア、そしてクーフーリンとの一週間は目まぐるしく。
そして何よりも得難い経験、そして気持ちを理解する事になろうなど誰が分かると言うのだろう。
アルトリアには頼らない。それはエミヤにとって信念に近い。
故に夢のような一週間を経たエミヤにとって喧嘩別れした彼と再び会って謝罪できるなど限りなく難しいだろう。
クーフーリンの振る舞いはフランクだったが由緒正しい血筋の家柄、貴族だ。
最早、謝ることすら難しいエミヤにとっては開き直って、また会えますように、と願うほかにないのだった。

END

槍弓のお話は
「拝啓、愛しい人。どうしていますか」で始まり「また会えますようにと願うほかないのだ」で終わります。