ぎんちき
2024-03-22 23:15:38
21115文字
Public 再録
 

【再録+書き下ろし】遺り物

2021/11/07 第19回全国大会GSにて発行したブン木手死ネタショートショート集を加筆修正したWeb再録です。
今回の再録にあたり、新作「再会」を書き下ろしました。

以下注意事項
・全編死ネタです。丸井、または木手、あるいは双方が亡くなっているお話のみ収録しています。
・年齢操作(未来捏造)ばかりです。
・捏造家族が登場します。
・モブに襲われる(それを匂わせる)話を含みます。


絶無の場合
炎のような

 後追いなんてするのは馬鹿げている。と、思っていた。いや、別に俺はそう思ってここへ来た訳じゃない。だが、人によってはこれは「そう」と捉えられることもあるのではないだろうか。それは不本意だが……こうなってしまった以上、そんなの些細なこと、か。そもそも、他人のことでいても立ってもいられなくなるだなんて、余りにも俺らしくないでしょう?
 彼を見つけたいだけ。そう思ってここまで来たのは、余りにも無謀だった。未だにその道のプロでも見つけられていないというのに、全くの素人が、というのは。

 ああ全く! どこに行ったのやら。小一時間だけのつもりで出てきたから装備は十分とは言えないんですよ、こっちは。……、これは単純な八つ当たりだ。焦燥感を覚えているから。アナタがいないと駄目だ、なんて……思ってしまったんです。失うことは恐ろしいと、アナタのせいで知ってしまった。
 視界を覆う白銀が、ますます強くなる。最早、寒さは感じない。ここにあるのは、孤独だけだ。
 ……アナタがどこかで生きているかも、なんて考えはとっくに捨てました。無事でなくっていいんです。ただ、その姿を見せてくれれば。できれば一緒に帰りたいですけど。多分、それは難しいので。俺も限界が近いみたいなんです。情けない話ですね。天候が変わりやすいから気をつけろ、なんて散々注意したのに、失念していたんですからね。
 話は戻りますけど、それもこれも、アナタのせいですよ。知らぬ間に俺の中へと入り込んでいた丸井ブン太という存在は、恐らく、アナタの思っている以上に大きかった。そうじゃなければ、こんなにも執着しませんし。誇って、自慢してくれたっていいくらいですね。
 耳鳴りが酷い。これはいよいよ、だろうか。自分の間抜けさに辟易とする。こんなの、彼も望んでいないだろうに。わかっている……わかってはいたが……

 ふと、風が止んだ。それどころか、厚い雲の隙間から日差しすら降り注ぐ。つい先ほどまであんなにも酷い状態だったというのに。白銀に反射した光が、この瞳に真っ直ぐと突き刺さってきた。眩い。瞬きを、する。そして、何かに呼ばれたような気がして、後ろを向いてみる。

 ――ああ。
 ようやく。見慣れた姿を見つけた。瞬間、胸に熱いものがこみ上げる。よかった。本当に。よかった! 俺の心も、周囲の白銀も、あっという間に全て溶け出してしまう。彼は、そういう人だ。
 こんなところにいたんですね。寒かったでしょう。でもね、大丈夫ですよ、もう。俺がいますから。側に、います。ちゃんと、側に……。ずっと、ずっと。そこに俺はいますから。安心してください。アナタの言ったことを、これでちゃんと守れますね。

   *

 俺の背中はさ、お前にじゃない。ジャッカルに預けてんだよ。アイツじゃないとだめ。お前、いつ裏切るかわかんねぇし。あー、いや……もちろん、もう二度と裏切らせてやるつもりはないけどな?
 とにかく、だ。お前は、俺の横にいて! そうすればキテレツのこと、見失わないで済むだろい? な。だから、この先も俺の……うん。そう。えっと、だな……あー……っそ、側に、いてください。

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最果てで 待ちあう

「どうでした?」
「駄目。全然! まともに聞いてもくれなかったわ」

 祝福してもらえるなんて、これっぽっちも思っていなかったけど。否定までされるとちょっとキツい。

「キテレツはさ……こう、つい、手とか出なかったか?」
「俺のことを一体何だと思っているんですか? 出しませんよ。……いえ、むしろそんな気力が湧くくらいだったなら、良かったのでしょうね」
「あー……そっか。そうかも。俺もなんか、力、抜けちゃった……怒り、ではないんだよな」
「でしょう?」
「うん…………あれ。キテレツ、泣いてない?」
……まさか。丸井くんこそ、鼻声になってますよ」
「ちっげーよ! 電話越しだからそう聞こえるだけだろ! あはは」
「ふふっ、そうですよね」

 どうして彼の近くにいてやれないのだろう。アナタがいるだけで、俺はずっとずっと、敵無しで、強くいられると思ったのに。今の自分は、余りにも無力だ。こうやって、嘆くことしかできない……

「これからどうしましょうか。『幸せ』になる為に」
「そうだなぁ……難しいよな」

 どっちが言い出したのかはもう覚えていないけど、俺たちは一緒になることを選んだ。ふたりで、たくさん話し合った。計画を立てた。親にも、仲間にも、誰にも知られないように。失敗しないように。邪魔をされないように。何ヶ月も相談して、ようやく「その日」を決めることができた。大丈夫。きっと上手くいく。

「ああ、そうだ。しっかりと受け取りましたよ、『チケット』。すぐに開封して確認しました……わざわざありがとうございます」
「おお。ちゃんと届いたんだ。良かった」
「ええ、何とか」
……それ使ってさ、逢えるかな」
「大丈夫です。行き先が書いてあるじゃないですか。だから、逢えますよ」
「うん、そうだよな」
……迷っているんじゃないですか?」
「ごめん。正直、ちょっとだけ」
「責めている訳ではないので、謝らないでください。そもそも、止めたって良いんですよ。今ならまだ」
「いや、それはナシ。だからもう、迷わねぇよ」
……それならアナタは、自信を持っていないと。それが……俺の好きな、丸井くんなんですから」
「そうだよな。サンキュ」
――……それで、当日のことですけど」

 それはいつだって、まるで遠足の計画を立てるようなひととき。アナタと一緒になるためだから。焦る気持ちがない訳ではないが、慎重に。着実に。大切に。少しだけ楽しみながら。

「そうだな。じゃあ、その日。その時間に」
「早く来てほしいものですね」

 そうは言われても、不安に思っているんじゃないだろうかと考えずにはいられない。だって、キテレツは自信家と思いきや、色々考え込んじゃうタイプだから。今まで培ってきたものを全部捨てないといけないなんて、怖がっちゃいないかな。それを直接、は難しいけど。こういう時間を使って少しずつ、拭ってやりたい。その為の準備期間でもあるのだから。

「あ。やっべ。もうこんな時間か。キテレツと話してるとあっという間だわ」
「本当ですね……では、また」
「あ。ちょ、っと待って。キテレツ、愛してる!」
「えっ。あ……!」

 言い逃げはズルいじゃないですか。……でも、率直に。嬉しい。遠く離れていても、俺たちは確かに繋がっているのだ。……改めて、思う。誰にも邪魔されない。させはしない。いつもの挨拶に添えて「俺もですよ」と、メッセージを送った。

 ――照れながら手を繋いで、ふたりでどこまでも行った。いつまでも、一緒に――

 当日。まだ日が出ないうちに家を出た。『チケット』をちゃんと持って。もうすぐ、キテレツに逢える。

「キテレツ。今どこ? 俺は向かってるとこ、なんだけど」
「もう着きました」
「え、マジ⁈ 待ってて。急ぐから!」
「大丈夫ですよ。ゆっくりで」

 この道の先に『不幸』が待っているというのならば。それが『行き止まり』であるなら。そうと、分かっているのだから。まだ、『幸福』である内に。
 どうせ『不幸』になるんだろ。だったらこんくらいのわがままは赦してほしい。だってそれが、俺たちの見出した『希望』なんだから。
 疲れて。身体が重くなっていくのとは反対に、心は軽くなっていく、ような。
 もう誰にも嘘をつかなくていい。皆にも、自分にも。

 おやすみなさい さようなら ■■で逢いましょう

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再会

 ある穏やかな春の日。ふたりで公園を散歩していた。少し疲れたからそこで休もう、と提案された。俺も賛同して、近くにあったベンチに並んで腰を下ろす。
 たわいない会話が続いた。お前、昔と比べて饒舌になったよな。それって俺の影響もあるのかな。
 そんなことを考えながら、これといった相槌をうつでもなくぼーっと見つめちゃってたから、居心地悪かったんだろうな。「なんですか」って、聞かれる。ほぼ反射みたいなもんで首を横に振って、「なんでもねぇよ」と笑って誤魔化した。
 お互いに、全部を口にしなくても何となく相手の考えていることは理解していた。そうなれるほどの時間を共にしてきたんだ。それでも、揶揄いあって、軽口を叩き合う――そんなひとときを大切にしたい。
 もっと、長く。少しだけでもいいから。できるだけ、一緒に。

   *

 ピ、ピ、ピ……と、無機質な音が絶え間なく鳴り響いてるのが聞こえる。もう瞼も開けたくない。
 なんだか長い夢を見ていた気がするな。それは、とても心地の良いもので……もしかしたら、夢じゃなかったのかもしれない。そこにいたら胸の中が温かくなって、ずっとあのままでいられたらどんなに良かっただろう。
 ……何かが右手に当たった。気がする。「夢」の中の温かさに、似ている……かな。右手から全身へ、じわじわ……広がってくる。眠い。身体が、重い。横になったまま、どんどん沈んでいくみたいだ。ここは、どこだっけ。

……?」
 目を開けたけど、目を閉じている時よりも暗い。自分の姿すら見えない、自分がどこを向いているのかもわからない、そんな中を俺は走っていた。何かを考えるより、周りの暗闇が怖く思えるよりも先に、この脚が向かうべき場所を知ってるみたいな感覚がしたから、それに任せた。

 ああ、そうか。やっと、会えるんだ。結構待たせちゃったな。文句、言われるだろうな。でもこんなに久しぶりだからさ、憎まれ口だってきっと愛しく思えると思うんだよな。
 なぁ、キテレツ。そうだろい?