結ぶ花の愛しきよ

MHRウ教×マイハン♀(リラ)。 両片想い。
本編ネタバレあり。

エルガドにて日々調査と狩猟に勤しんでいたマイハンの耳に届いた『カムラの里の教官が怪我をした』という噂。ハピエン。



言の葉がなくとも、想いが通じ合う。
やがてお互いの顔がゆっくりと離れた時、二人は視線を絡めあって、笑い合った。

涙で赤くなったリラの双眸にも、ようやく笑顔が、安堵の光が宿る。

……ウ、ツシ、教官……
……大丈夫? 落ち着いたかい?」
…………はい。……ごめん、なさい」
「謝らないで。……良かった」

ふわりと静かに笑ったウツシは、改めてリラを短く抱きしめた後、体を離して「こっちおいで」と彼女の手を引き、一緒に上がりかまちに腰掛けた。

ウツシにされるがまま座ったリラは、腕で自分の目元をごしごしと擦りながらも、歩く彼の足元が、いつもよりおぼつかないことにようやく気付いた。
足を挫いたのは、最近なのだろう。

「ウツシ教官、足……大丈夫ですか……?」

不安げに表情を曇らせたリラに、当のウツシはからからと笑ってみせる。

「なぁに、大丈夫だよ! 全くドジな話さ。あれは確か、一昨昨日かな? 闘技場の掃除と整理をしている途中でちょっと、ね。カッコ悪いから詳しくは言わないよ?」
「歩き方を見てると、凄く痛そうですけど……本当に大丈夫なんですか?」

ハンターとしても歴戦の強者ツワモノであるウツシは、普段からとても痛みに強い。
多少の怪我も笑顔で隠してしまうことを知っているので、リラは彼の『我慢している痛み』の部分が心配でたまらない。

当のウツシは「大丈夫!」と穏やかに微笑み、頷いた。

「昨日までゼンチ先生のところで、泊まりでお世話になってたんだ。オトモたちはイオリくんが見てくれていてね。今日からは自宅で良いって太鼓判をもらったよ! 痛みも腫れも大分だいぶ引いたから、通院で良いだろうって」
「杖とかは? 痛みが治まってきたとはいえ、まだ足引きずってるんですし……
「昨日まで使ってたけど、もう大丈夫! まぁ、これを機に怪我のないことを当たり前と思わず、感謝して気を付けて過ごせって怒られちゃったけどね」

苦笑するウツシの左足には、主に足首にかけて丁寧に包帯が巻かれていた。ゼンチの手当てだろう。アイルーながらにその手腕はさすがだった。

今の彼の言葉を聞いて、娘はようやく、どうしてこの家に帰宅と在宅の痕跡が一切なかったのか腑に落ちた。

ウツシは今やっと、ゼンチのところから自宅に帰ってきたところだったのだろう。

帰宅して早々に、家の中に突然エルガドから帰ってきた泣いている人間がいて、よほど心臓に悪かったに違いない。

しゅん、と申し訳なさそうにリラは眉を下げ、肩を落として縮こまった。

「ウ、ウツシ教官……ご、ごめん、なさい……び、びっくり、しましたよね……
「だから、謝らないの。大丈夫だから」

よしよし、と優しく頭を撫でてくるウツシはとても穏やかな様子で、本当に何も気にしていないようだった。
むしろリラが泣き止んで、落ち着きを取り戻したことを喜んでいる様子だ。

だが、それではリラ自身の気が収まらない。
彼女は少しの間、俯き加減に考えて「そうだ!」とウツシの横顔を改めて見つめる。

「ウツシ教官! 私、お手伝いします!」
「え? お手伝い?」
「足が治るまで、色々と、生活のお手伝いを!」
「えっ!? ホント!? いいの!?」

予想以上のウツシの反応に嬉しくなったリラは、「はいっ!」と元気に頷いた。
大好きな彼の役に立てるなら、これほど幸せなことはないとまで思えている。

ウツシは内心、驚いていた。
自分が頼もうとしていたことを、彼女が自分から言い出したのだから。

(以心伝心、かな? ふふ、嬉しいものだね)

締まりなく頬が緩みそうになるのを必死に抑えこみながら、ウツシはリラを改めて見つめる。

「ありがとう、愛弟子! それじゃ、しばらくよろしくお願いします!」
「こちらこそ! 早速ですけど、お茶でも飲みません? 久しぶりのおうちでしょうから、ゆっくりして欲しいです!」
「そうだね! お湯は囲炉裏でのんびり沸かすから、墨の用意をお願いできる?」
「はい! 分っかりましたー!」

すっかりいつもの調子に戻り、土間の端にある炭を取りに行こうと、リラがハキハキと立ち上がった瞬間。

彼女の腰から、はらりと何かが落下する。

「ん? 何か落としたよ、愛弟子」
「え? あ、ごめんなさい」

座っていたウツシが先に拾い上げたそれは、千切れた花結。
それを見た彼女は、はっとしたように目を微かに見開いたまま、ぱちぱちと瞬かせた。

「あ……! そ、れは……
「珍しいね? 花結、切れちゃったんだ。俺、直してあげるよ」
「えっ」

予想外の提案に、リラが驚きよりも嬉しげにウツシの顔を見つめる。

「いいん、ですかっ……!?」
「もちろん。このくらいならすぐ直ると思うよ」
「よ、よろしくお願いします……!」

小さく頭を下げた彼女の表情には、大きな喜び。
花結が切れた瞬間は不安と胸騒ぎしかなかったが、これがまさかこんな形で修復されることになるとは思わなかった。

ウツシは挫いた左足を少々かばいながら、囲炉裏の周りの座布団まで移動して、ゆったりと腰を下ろす。

慣れた手つきで花結を結び直し始めた彼の顔は、あまりにも優しく穏やかで、リラはつい見つめていたくなる。

土間から炭を持ってきた彼女が囲炉裏にくべて火を起こし、鉄瓶に水を満たしてその火の上の自在鉤じざいかぎに手際良く吊るすと、ウツシは「ありがとう」と笑ってくれた。

(……ウツシ教官っ……!)

あまりにも愛しいウツシの笑顔に、切なく胸が高鳴るのを感じながら、リラは彼の隣の座布団に座った。

たちまち、穏やかな時の流れで満たされる。

パチ、パチと墨が爆ぜる音。

たまに火かき棒で火と炭の様子を確認しながら、ちらりと、リラは密かに想いを寄せる彼の様子を見やった。
軽快に花結を直していくウツシの手つきは速いがとても繊細で、見ていて全く飽きない。

その視線に気付かないはずのない彼は、静かにリラと視線を絡め、照れたように微笑んだ。

……あんまり見られてると、緊張するなあ?」
「あ……! ご、ごご、ごめんなさい……!」
「フフ、まあもう少しだけどね」

悪戯っぽく笑いながら、ウツシが軽快に花結の修復を続ける。

いつしかリラは、この時間がずっと、ずっとずっと続けば良いのにと願っていた。
火の温もりと共に、大好きな人が傍にいる、至福の時間。

ウツシの怪我には早く治ってほしいが、今、この穏やかな時間があまりにも心地良く、流れるに惜しいと思える時間だった。

……さあ、できた」

満足気に声を上げたウツシが、隣に座るリラに、修復したての花結を差し出す。

「お待たせ、愛弟子。しっかり結んでおいたから、今度こそ簡単に切れないはずだよ」
「ありがとう、ございます……!」

お互いに、笑顔を浮かべて手を伸ばし合う。
大切な人の、ウツシの手。花結を結んでくれた手。その愛しい手から渡される祈りのお守り、花結。

受け取る時に、ふと、互いの手と手が触れ合って。
思わずリラが手を引っ込めようとしたが、不意にウツシはその手を逃がすまいとするように握った。

「ッ!? ウ、ツシ、教官っ……!?」
……。花結、火に落っことしたら大変だから」

優しさの中に凛と微笑んだウツシが、しっかりと両手で掴み直したリラの手の中に、花結を握らせる。

……これからも、無事でいてね。リラ」


そう囁いたウツシと視線を絡ませながら、リラは頬を上気させる。
とくとくとく、と心臓は小気味良い音と共にリズムを刻んでいて、気付けばその音の狭間から、彼女自身の不動の願いが顔を覗かせていた。

「それは……教官も、ですからね?」

ことのほか低めの声が出てしまったことにリラは自分で驚いたが、ウツシは笑顔のまま申し訳なさそうに目尻を下げて「そうだね」と頷いた。

触れ合えるほど、近くに居る。
言葉を交わし合い、笑い合える。

どうかこれからも、その時間が続きますように。

言葉にせずとも共通した二人の願いを守り結ぶように、花結からは、ふわりと優しい香りが広がる。

悟られずミノトの気配が遠ざかったのは、その香りが、二つの願いを結んだ直後のことだった。


@acadine