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不破
2024-03-07 23:31:06
5834文字
Public
空戦
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#17
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ブカレスト。中東に対するメルゼブルクの最前線に位置する都市だ。見えてきたその都市に目を凝らしながら、ラザフォードは合流したサイードの第2航空連隊と共に行軍を続ける。
雲海を行くブラッドローズの甲板。金色の長髪を風に揺らしながら、口に咥えた煙草に銀のライターで火をつける。大きく吸い込んで煙を吐き出し、端末を開いた。
「こちら、リベルタリア教導義勇旅団クルクス。これより我々は、メルゼブルク属軍事要塞都市ブカレストへの攻撃を開始するものである。3分待つ。降伏し、軍門に降れ」
端末を介して告げる声に返答はない。端末の光学モニターによって空中に浮かび上がる3分のカウントを開始し、刻限までの残り時間を示した。刻一刻と迫りくる戦いの幕開けを待ちながら、指に挟んだ煙草を口へ運び、大きく吸い込む。周囲を進むサイード軍の灰色の飛空艇を横目に、吐き出す煙が風に消えてゆく。
細めた緋色の視線の先、ブカレストから複数のなにかが飛び立つのが見えた。
『ブカレストより空兵部隊が出撃したようです』
「そうか」
端末から響いてきた偵察班の声に短く返し、予想していた通りの展開に「やはりな」と溢した。
ここで降伏をするような連中なのであれば、最初から宣戦布告などせずに済んだだろう。既に戦いの火蓋は切られている。
「警告は不要だったようだな」
言いながら煙草を大きく吸い込み、その大半を灰へ変えて投げ捨てると、表示していたカウントを消し、腰にしている純白の剣を抜き放った。
「総員戦闘準備! 敵空兵隊を排除し、ブカレストを制圧する!」
剣を真っ直ぐに掲げ、吠えるようにして言い放つ。それに応じるように周囲のサイードの艇から一斉に空兵達が飛び立ち、併せてブラッドローズからもクルクスの人員が空中へと躍り出た。それに併せてラザフォードもサテライトと呼ばれる空を駆けるボードに飛び乗り、大空へと躍り出ると、手にした剣に紅蓮の炎を灯し、サテライトを加速させてブカレストへと向かう。
周囲を飛ぶサイードの兵達が編隊を組み、上空を戦闘機が駆け抜けていく。前方から迫りくるメルゼブルクの空兵をHUD上に認め、ラザフォードは煌々と輝く炎を宿した剣を振り上げると、横薙ぎに振るう。火力を上げた炎が空を薙ぎ払い、敵の空兵へと襲いかかる。しかし、その炎は即座に散開したらしい敵の空兵隊を巻き込むには至らず、揺らめいて消える。剣を交えながら敵兵と交差し、即座にサテライトを返して振り返る。
と、その時だった。先行してブカレストに向かったサイード軍の戦闘機が撃墜され、青空に爆炎が広がった。
「なにっ!?」
広がった爆炎を皮切りに、続けて数機の戦闘機が撃墜され、爆音が響く。その向こう側に見えた空兵が、左手を上げるのが見えた。ぞわりとした感覚を覚え、ラザフォードは即座に叫ぶ。
「回避!!」
そう叫んだのとほぼ同時だった。駆け抜けた赤色が線のように伸び、周囲の空兵を貫いた。青い空に貫かれた空兵達の鮮血の赤が弾けたが、伸びてきた赤色の線がそれ等を吸い寄せるようにして飲み込んだ。
「これは
……
!」
駆け抜ける赤に歯噛みしながらも、心当たりのある魔術の名を口にする。
「
我が血で切る鉄十字
ブルート・エー・カー
かっ
……
!」
駆け抜ける赤色の元。その軌跡を描く起点となる位置に、黒い軍服の裾と栗色の髪を風に揺らしながらブーツ型のサテライトで滞空する姿があった。ロゼ・シュタインベルク。メルゼブルク軍の大将。皇帝、グリーディア・L・メルゼブルクの右腕として名高い男。ラザフォードは歯噛みしながらもサテライトを加速させる。サイードの雑兵やクルクスの部下達に相対できる相手ではない。メルゼブルクの吸血鬼の異名をとる大物がこんな前線に出てくるなど、誰が予想するものか。
「空兵隊は散開せよ! ブカレストへの侵攻を継続! 敵の大将には私が当たる!」
そう声を上げながらも炎を宿した剣を振り上げ、ロゼ・シュタインベルクへと襲いかかる。それを迎え撃つようにして跳ね上げられた黒い刃のサーベルと剣がぶつかり合い、金属音とともに炎が弾ける。
「どけシュタインベルクッ! 貴殿に用はないっ!!」
「随分余裕がないな、シンクレア公。生憎だが、通すつもりはない」
放った言葉に返ってくる冷静な声に苛立ちを覚えながら、ラザフォードは剣でサーベルを弾き、もう1度剣に炎を纏わせながら振り上げた。それを迎え撃つように、ロゼ・シュタインベルクもまた、手にしたサーベルを振り上げる。再び衝突する剣とサーベル。金属音を掻き消して炸裂する爆音とともに爆炎が弾けるも、ロゼ・シュタインベルクが盾のように展開した赤色がそれを阻み、間髪入れず剣山のように幾重にも赤色が伸び、襲いかかってくる。
「くっ
……
!?」
歯噛みしながらも即座に身を翻し、剣山のような赤色を躱して後退する。足下のサテライトを翻して制動し、滞空してロゼ・シュタインベルクを睨んだ。
「我が血で切る鉄十字
……
血を操る術とは、吸血鬼の名に相応しいな」
「お褒めに預かり光栄だが、この程度で感心して貰っては困るな」
毒づいた言葉に、ロゼ・シュタインベルクが返してくる。そして、左手を高く掲げて赤色、多量の血液を数多の槍のように変化させ、その切っ先をこちらへ向けて続ける。
「我が術はメルゼブルクの敵を尽く串刺す。血祭りに上がりたくなければお引取り願おうか」
「
……
言ってくれる」
言いながら、純白の剣を一振りして再び炎を灯す。煌々と燃え盛る紅蓮の炎の火力を強めながら、ラザフォードは続けた。
「なにを焼き尽くしてでも復讐を遂げると誓った。この業火、阻めると思うなよ?」
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