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豆炭々炬燵
11598文字
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アンデッドアンラック
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【フィル風】たまの甘えた膝の上
中々おねがショタに甘えてくれないので、ご都合主義猫化したおねがショタに甘えてもらうお話。
フィル風編。※アン風前提のフィル→風。
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2
3
4
乱暴からかけ離れた手付きは何処までも優しくこそばゆい。自分自身が触るとは違う、他者に触られる感覚は如何にも慣れない。しかも、直接かつ生身の接触ゆえ風子にとって変に力が入り結んだ口元が波打ってしまう。
「(あれ?)」
今日一日中撫でられ続ける覚悟を風子はしていたが如何やら違うらしい。
不意に尻尾を触られていた感覚が消え、知らず閉じていた瞼を開けた風子がフィルの方を見れば、彼の両手にふわっふわな猫じゃらしと棒の先端に紐で繋がれた鼠の玩具が握られていた。
≪不感≫であるフィルの表情は変わらず、新緑色の無垢な瞳もまた波紋のない湖面染みた静けさだったが、どうにもこうにも彼の背中から柔らかで朗らかな空気が出ているのを風子は見た。心なしか上下に動かしている手もワクワク感が滲み出ているように見える。
「えっと、流石に猫になったけど、そこまでは
……
」
懸命に目の前で猫じゃらしと鼠の玩具を振るうフィルに、風子は申し訳なさそうに眉根を下げた。若干体が疼いているが、抑え込めないほどではなく意識と視線を逸らすのも容易だった。
風子が反応してくれないと見るや、フィルは手に持っていた玩具をベッド脇に置いた。
「(うぅ
…
、フリでもじゃれついた方が良かったかも
……
)」
風子の胸の奥に罪悪感が募る。今からでもフィルがしたかったことを叶えるべきか。ベッドの上に置いた手に重心を掛け風子が身を乗り出すのに合わせ、フィルがズボンのポケットから何かを取り出した。
白米を彩らせるふりかけのような小袋にはデフォルメされた猫のイラストが描かれている。今どきのふりかけのパッケージデザインは可愛いなあ、などと思っていたのも束の間、風子の瞳孔が縦にキュッと絞られた。
本日二度目の緩慢な世界。ぺりりと小袋を開けるフィルを止めたくて伸ばした風子の手は間に合わないどころか、勢い余って彼の手元から小袋を弾き上げ──。
「あぶっ!!」
豪快に頭から小袋の中身を被ってしまった。
ふわり広がる粉塵が落ち着く前に風子の鼻が反射的にヒク付き、今まで味わったことのない酩酊感が体を襲う。
「マタタビはぁ、ずるいってえ」
猫じゃらしを見た時の比ではない。否応なしに前面に出していた理性が削られ、奥底に押し込んでいた本能を引き摺り出される。
垂れた三毛柄の猫の耳、揺らめく三毛柄の猫の尾、赤みの強い朽葉色の目が半分近く瞼裏に隠れてしまう。風子は体を支配する衝動に抗えず、フィルの柔い頬にすりっと額を擦り付け、そのまま身を彼の膝の上に沈めた。
うーうーと懸命に抗っている理性が唸り声になるのに合わせ、勝手に喉から聞こえるゴロゴロとした音が何処か他人事のように思える。止めきれなかった顔を古代遺物であるフィルの腹部に軽く埋め、風子はその細い腰と小さな背中に手を回した。
「ごめんねぇフィルくん。なんか体が言うこときかな、ハッ!!」
意地で顔を上げた風子が息を飲む。見開いた目、窄んだ瞳孔に映り込むフィルの手に持っている物体から逸らせられない。そこはかとなくフィルの新緑色の無垢な瞳が期待感に満ちている、気がする。
「だめだめだ、あ~~~~~
………
」
逃げることも出来ず呆気なく陥落した風子の口からだらしない間延びした声が部屋に響き、フィルが手に持ったヘアブラシが照明灯の光を受けなめらかに艶めく緑の黒髪の上を滑っていった。
「
………
」
「あぁ~~~
……
」
ゆっくり一定のリズムで頭のかたちに沿ってヘアブラシに生えている硬い猪毛が心地よく頭皮を撫でていく。頭皮マッサージとはいったものだが、自分ではない誰かが髪を梳かしてくれている。その部分が遠い幼き過去に置いてきた記憶と感情を呼び起こす。
風子はフィルの腹部に軽く埋めていた顔をズラし、今度は彼の揃えられた太腿の上に顎をのっすと置いた。この体勢の方が髪の毛を梳かしやすいだろう。たしかにその気持ちもなくは無いが、どちらかと言えばもっと満遍なく髪を梳かして欲しい気持ちの方が勝っていた。
優しく梳かすフィルの動きに合わせ三毛柄の猫の耳がぺたりと倒れ、いつの間にか猫の手よろしく指先をやんわり丸めた両手が追加で彼の太腿の上にちょこんと乗せられている。
ブラッシングは頭の天辺からフィルの手が伸びる背中の途中まで、そしてまた頭の天辺に戻りなり背中の途中までをくり返す。酷いことや嫌なことをなどを一切しない、する気配すら抱かせない果てしない優しさに溢れたそれは在りし日の母親が梳かしてくれていた面影と重なる。
紛れもなくあたたかい懐かしい想いは風子の胸に火を灯す。
「変なこと言っちゃうけど、きいてくれる?」
意を決して舌先に乗せた風子の言葉。親の様子を窺いたずねる子供に酷似した物言いは不安の裏側に断って欲しくないという期待を隠していた。
フィルが髪の毛を梳かしていた手を止め、新緑色の無垢な瞳で彼女を静かに見下ろした。
「
……
頭、撫でてくれないかな」
照れ恥かしさから風子の頬に朱が走り、フィルの膝上に置いた手が指先を更に内側に丸める。
息を潜めフィルの様子をピンと立てた猫の耳で窺っていれば、ベッドの上にヘアブラシを置く気配をつぶさに拾う。風子の赤みの強い朽葉色の目がフィルを見上げた。
怖がらせぬようゆっくり下りてくる小さく幼い手。その手が頭に乗せられるのに合わせ風子は瞼を閉じた。頭を撫でてくれる手の動きは、想像以上に心地よく風子の喉が鳴り続ける。
温かくも冷たくもない手は、優しく柔くて、あったかい。安心感を誘う手の動きが甘い睡魔を引き寄せる。
うとりうとりする風子の意識をフィルの小さく幼い手が寝かしつけていく。
まるで、寝ていいよという撫でつける手に風子が鳴らしていた喉が小さくなっていき、ついには穏やかな寝息にすり替わった。知らずため込んでいた疲れが出たのか、はたまた遠い過去に置いてきた繭のような安心感に包まれ寝入ったか。
「
………
」
穏やかに寝入る風子を見下ろすフィルは目を細め、彼女が起きるまでずっと頭を撫で続けたのだった。
「んーっ、いつの間にか寝ちゃって
……
た」
「
………
」
「ずっと乗っかっちゃててごめんね!? 足痺れちゃってない!?」
「
………
(フルフル」
「ほんと? じゃ、じゃあ次なにして遊ぼっか」
「
………
(スッ」
「あやとり! 今度は大丈夫っ。やり方思い出したからうまくとれ、わー!? フィルくんすごいね!? これどうやってとればいいの!?!?」
そのあと、猫化が解けるまで風子とフィルは楽しく二人で遊び続けたとさ。
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