【フィル風】たまの甘えた膝の上

中々おねがショタに甘えてくれないので、ご都合主義猫化したおねがショタに甘えてもらうお話。
フィル風編。※アン風前提のフィル→風。






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うろ覚えな記憶の断片。はたまた曖昧な思い出の1ページ。
情報が少なすぎるものから出力され象られた目に映る世界はあやふやで、目を凝らして見詰めるほどぼやけていった。見覚えのない、だが不思議とその光景に懐かしさを覚えた。
クーピーで輪郭を描かれた塀や木々に手を伸ばせば、触れているようで触れていない感触が指先に宿る。
「(……夢?)」
冷静に状況を分析すればするほど、突拍子のない展開すら素直に受け止めてしまう。
何の前触れもなく薄く明るい白い靄が立ち込め始め、やにわ晴れる頃には一匹の三毛猫が目の前に現れた。長い尻尾を体に巻き付け座っていた三毛猫が風子の姿をその猫目に映すなり腰を上げピンと尻尾を立てる。
しゃなりしゃなり、鳴いて近付く猫に思わず腰を屈め両手を───、手袋を付けていない差し伸ばした両手が風子の視界に映るなり大きな目が見開く。
陽だまり染みた気持ちが一気に冷え身を引いた。引いた筈なのに意識と体は、猫に向かって伸ばされ続けていた。
「(駄目、駄目駄目駄目……!!)」
素手で触ってはいけない。肌を触れ合わせてはいけない。逃れられない恐怖とこれからするであろう後悔の念が心を蝕む。
風子の顔が苦痛と悲しさに歪み、声にならない声で自分の行動を止めさせるべく制止の声を叫んだ。

「ねこちゃんっ」

悲痛な叫び声ではない幼い無邪気な声の出所は一体何処からか。声の行方を耳を澄ませ視線を巡らせ辿る。
周囲を見渡し自分と猫以外の気配が全くないことを認識した瞬間、空が遠のき周囲のものが途端背が伸びた。というより風子自身の視界の高さが低くなっていた。
混乱する頭。戸惑う心。何故という疑問に慌てふためけば、腕の中から何とも可愛らしい鳴き声が聞こえた。
ここで風子は理屈を全て取っ払い理解する。今、自分は不運が発現する前の子供に戻っており、その幼い手で三毛猫の頭を撫でていた。
「にゃーん」
人懐こい三毛猫は風子がつと撫でるのを止めると自ら額を擦り付け撫でてと強請る。
不運が発動する前なら直接触れても大丈夫。そう緩々な思考を働かせ止めていた手を動かした。手のひらから伝わるなめらかで柔らかい毛の感触。撫でれば撫でる分だけ、触れれば触れた分だけ生きている温もりが風子の心の柔いところを刺激する。
………ッ」
否定能力が発現した日から割り切っていたつもりだった。生身で触れてはいけない、誰にも触れさせてはならない。だが意識すればするほど、どうしようもなく寂しくて恋しい気持ちも心の奥底に降り積もっていった。
三毛猫を頭から背中に沿って撫で、顎の下を指先で撫でればゴロゴロと猫が喉を鳴らす。発現する前の当たり前だった光景に風子の視界が歪み、気が付けば小さな腕で猫を抱き上げぎゅっと抱き締めていた。
風子に抱き締められている三毛猫がフスフス彼女の目元を嗅ぎ透明な道の上を舌で舐めた。数回舐めた後、今度は額を何度も押し付け撫でを強要する気紛れお猫様に風子の顔が綻ぶ。
「フフッ。ねこちゃんなでなで」
「にゃあ」
上機嫌で風子に返事をする三毛猫。それがおかしくて風子は三毛猫と向かい合うように抱き直した。その金色の猫目の中に風子の姿が映り込む。猫の鳴き声を真似れば返してくれる、それがまた面白くて風子はにゃあにゃあと三毛猫とお喋りをした。
直接触れること自体を気にしなくていい。距離の近さに身構えなくてもいい。遠い彼方へ置いてきた感覚が蘇り、風子は愛おしさから三毛猫を撫でては抱き締める。

「夢の中だから気にせず触れる。でも、夢から醒めたらこの気持ちにまた蓋しなきゃ……

いつの間にか子供の姿から戻っていた風子の腕の中に収まっている三毛猫。鳴き声ひとつせず猫目でじーっと見詰め湿った鼻先を彼女の鼻先とくっ付けた。
猫特有の挨拶。風子は穏やかに寂しげに微笑み小さく「おやすみ」と言えば三毛猫もまた小さく鳴いたのだった。

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