【カミ東】負けてもいいけどたまには勝ちたい

東雲さんをときめかせたいが負け気味なカミキリ様のお話。※この二人付き合っております。


正直カミキリさんが壁ドンし始めたあたりから「はは~ん、これは胸きゅんさせようっていう魂胆だな」と感づいてはいた。
実際予想は当たっていた。試しにこの前テレビで見た犬の可愛い顎乗せを真似してみたら面白いくらいカミキリさんの顔が赤くなった。ほんとは手で輪っか作ってもらって、その中にずぼって鼻先突っ込みたかったが、生憎鼻そこまで長くないからな。残念だ。

「結構マンションに入居してくれた人増えたし、また皆の休みが合い次第なんかすっか」

夕ご飯を食べ終わり二人並んで食器を流れ作業で洗っていく。カミキリさんが食器を洗い、泡をすすぎ落した食器を私が布巾で拭くのも随分慣れたもんよ。
新たに増えた住人を思い浮かべ、そんなことを話しながら手元を動かす。
「バーベキューまたする?」
「それもいっけど、折角だし別のもいいな」
「皆とスル賑やか僕好き」
「分かる。わいわいしながらするの楽しいもんな」
前回大人として恥ずかしいところを見せてしまったのは置いておき楽しかった記憶に顔が緩む。大勢で集まって同じことするのはやっぱりいいもんだ。
カミキリさんから最後の皿を受け取り、布巾で拭いていれば先に手を拭き終わったカミキリさんの小さくも男らしい手が私の上着をぎゅっと掴む。何かやり残したことでもあっただろうか、なんて視線を送れば彼の口から零れた言葉に思わず手に持っていた皿を落としそうになってしまった。

「でも、大家サんとの二人きりモット好き……

俯いているカミキリさん頬と云わず耳が仄かに朱色を纏っている。視線を合わせようとせず、だが上着を掴む手を離さないカミキリさんに私の胸がギュンっとなった。
「(は? なんだ今の?)」
落とさずに済んだ拭き終わった皿を重ね、何故ギュンっとなったのか分からない胸を擦り首を傾げた。
今まで感じたことのないコレはなんだ? なんかの病気か?
腕を組み似たようなことが無かったか、記憶の引き出しを開けまくるがどうにもこうにも似たような現象に陥った記憶が見つからない。
「ん~?」
知らない間に普段通りに戻っていたカミキリさんが右に傾いていた首を左に傾ける私を真似して首を傾げていた。



「(こんなにモヤつくの久しぶりじゃん)」
答えが見つかりそうで見つからないこの気持ち悪さ。歯を磨いて風呂に入っても消えぬまま、カミキリさんと一緒の布団に潜りこんでも眉間の皺が無くなる気配はなかった。
「大家サんずっと唸っテる。顔渋い」
「ちょっと考え事な」
「ふーん」
向かい合って寝ていれば、カミキリさんが笑った気配がしたので意識を記憶の箪笥をひっくり返しまくった脳内から引き戻す。てっきりあまり構ってもらえず不貞腐れているかと思えばそうでもない雰囲気に疑問を抱いた。
そんな私を見たカミキリさんは大きな目を細めてやんわり笑った。それを目で「なんで?」と問いかける。
「今、大家さンひとり占メしてる。それが嬉しイ」
こっそり打ち明けた秘密にしては大層嬉しそうに言う彼に私は一言「……そっか」と素っ気なく返した。
が、そっからがおかしかった。カミキリさんの言った言葉を咀嚼する度に、顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。熱い熱い、熱い。加えて胸の奥が何か変にギュンってなって仕方ない。
咄嗟に胸元の服を掴み、変な声が出ないよう口を引き結ぶ。
「──、大家サん?」
カミキリさんの暗い中でもはっきり見える瞳が嬉々として輝いた。
「もしかして照れテる? 嬉しい?」
「~~~知らんっ! 寝るっ!」
いっそ布団とは云わず部屋から出て行きたくなる衝動を抑え込んで、カミキリさんに背を向けるかたちで寝返った。
その後背中から絶えず私の体を揺すり「見せて、顔。見せテ見セて」という神様の無邪気な声を聞かぬよう掛布を頭まですっぽり被ったのだった。