【カミ東】負けてもいいけどたまには勝ちたい

東雲さんをときめかせたいが負け気味なカミキリ様のお話。※この二人付き合っております。

映画鑑賞中のお供で食べるお菓子を二人で選びカゴに入れていく。そんなひと時も僕は楽しかった。
カゴの底が見えなくなるくらいまで買ったお菓子や、他の気になった新商品を追加で入れ数人ほど並んでいるレジの最後尾に並ぶ。
カゴを持ってレジに並んでいる大家さんの隣、僕はふとご機嫌斜めな空の様子を確認した。透明なガラスに水玉模様が増え始め、重苦しい鈍色の空からとうとう我慢できず泣き出してしまっているのを大家さんの上着を引っ張って伝えた。

コンビニのガラス扉を開けるのに合わせ聞こえる入店音。
あまり長居をしない、そもそもマンションから遠くないため雨に降られる前に戻れるだろうという目論見は見事に外れた。
「すぐだし傘一本でいいっしょ」
大家さんが会計ギリギリで買ったビニール傘をぽんっと広げ差す。その隣をビニール袋を持った僕がぴったりくっ付いたのを確認した大家さんが歩き出したので僕も彼女の歩幅に合わせて歩き出した。
マンションに着くまでの短い帰り道。沢山買い込んだ袋の中を覗き込めば、緩やかな雨音に混じって「どれから食べるか選び放題だぜ」という大家さんの楽し気な声が傘の中で響く。
やおら顔を上げて頷いた僕は大家さん越しに見えるカーブミラーに目が留まる。鏡写しで見える丸く切り取られた世界。歩くのに合わせて近付き遠ざかる僕と大家さん。雫が落ちるその鏡面に映り込んでいる大家さんは僕に気付かれない程度に傘を僕側に傾けていた。
傘の外側にある大家さんの肩をそっと覗き込む。薄っすら濡れている気配に僕の心が焦り出す。
「大家さン肩濡れテる」
「んー? これくらい平気だって」
「僕、傘持つ」
「カミキリさん私より背低いじゃん。傘持つのはいいけど腰か背丸めないといけないからヤダ」
はっきりした物言いにショックを受けている僕に気付かず大家さんは話し続けた。
「その気持ちだけでじゅーぶんだし、カミキリさんには袋持ってもらってるからチャラね」
にしし。そう笑い言う大家さんを見ただけで、気持ちが和らいでいく自分はかなり単純だと思う。
現に車道側を歩いている大家さんが、やにわ立ち止まったのでそれに合わせ止まれば徐行運転の車が小さな水たまりを水飛沫を上げ通って行く。幸い水飛沫が掛かる手前で止まっていたので二人濡れ鼠にならずに済んだ。
「濡れてない?」
「大丈夫。大家サんは?」
「水たまり手前で止まったから私も濡れてないよ」
念のため他の車が来ないか確認して歩き出す大家さんに僕も彼女に合わせ歩き出す。というか彼女は僕の歩幅に合わせて歩いているのに気付いた瞬間、コンビニから今に至るまでの気遣いの数々に口をきゅっと結んだ。
相手を気遣う根底にあるのは優しさだ。それを自然と熟す大家さんに抱いた僕の感情はふたつあった。好きと嫌い、……正確には嫌いではないけれど、それに近しい感情が僕の頬を無意識に膨らませる。

「(絶対、大家さンのこと照れさせてミセる……!!)」

告白してお付き合いが始まった日から大家さん僕に照れるどころか僕の胸の奥をきゅってさせるのが多くなった。元から他人との距離が近い人だと思っていたけど、一緒に過ごす時間が長くなるのに比例してグイグイ来る。
照れ恥かしがる素振り全然しなくなった。僕ばっか大家さんの今まで見れなかった触れなかったのに見て触れて、ドキドキして、それが全然嫌じゃなくて、でもちょっとだけ嫌で、アナタも僕と同じ気持ちになって欲しくて。そんな思いが僕の中でぐるぐる回る。
「おっ。雨止んだな、ってどったの」
ビニール傘を畳んだ大家さんが僕を見るなり立ち止まる。僕の瞳に映る彼女は目をぱちくりさせ。
「てい」
何の躊躇なく僕の頬を人差し指で突いた。気の抜けた空気が漏れる感触とやわく頬を押す指先の感触に僕はめいいっぱい大家さんを睨んだけど、てんで効果はなかった。




レンタルした映画を見終わった余韻もそこそこに僕は大家さんにバレないようにスマホを持ってトイレに立った。
大分慣れ始めた指先でタプタプ押して検索を掛ける。神社に訪れていた人間達がしていた行動を模倣するのは簡単だが、僕にとって何が良いのか悪いのかがよく理解できなかった。
それに時代によって良かったり悪かったりもあるので迂闊に出来ないのも大いにあった。折角お付き合い出来たのに嫌われて別れたくない、そんな気持ちで僕は薄い板と睨めっこをする。
「ヨシ」
検索して上位に出てきたサイト内容を頭に叩き込み、アリバイ工作のため一応トイレの水を流してから出た。
パーティ開きしたポテトチップスの袋を零さぬよう傾けざらざら食べている大家さんの隣に正座をして座る。横目で伺い、袋をちゃぶ台の上に乗せたのを見計らって僕は大家さんの頭をぽんぽん撫でた。

No.1 頭ぽんぽん
頭ぽんぽんされる方は親にしてもらった時の安心感や、身長が高い人ほど頭ぽんぽんされる頻度も低いからされた時のときめきポイントが高いぞ☆

果たして本当だろうか。若干胡散臭さを覚えつつも、サイトに書かれていた通りに黒髪の部分を優しくぽんぽんした。
二人揃って座っているなら身長差なんて関係ない。難なく僕でも頭を撫でられる。
掌から伝わる髪の毛の感触を楽しんでいると、大家さんの目尻がほんのり赤く染まっているような気がした。
「なになに? どったの?」
わざとらしく明るい口調で言う彼女に僕は、あのサイトの内容は本当に効果があると此処で確信してしまった。
そう確信してしまったのだ。
意気揚々。気分は鼠を追い詰める猫の気分。角に追い詰め逃げ場を無くし、両手でそっと包み込んで離さない。
僕は大家さんの頭をぽんぽんしていた手を彼女の後ろにある壁に付いた。

No.2 壁ドン
壁際に追い詰めた彼女の顔の横や脇に手をつき、ドンっと音を立て腕という檻の中に閉じ込めれば彼女のハートはどっきどきどっきんこ☆

でも、強い音はさせない。だって近所迷惑になるし、大家さんを怖がらせたくなんて無いから。
やや覆い被さった僕によって照明灯の明かりが遮られ大家さんの上に影が落ちる。あまりない僕の方が高くなった視線で見下ろせば、これまたあまり見れない上目遣いの大家さんと目が合った。
「(可愛い……、もっとしたら僕に照レてくれル?)」
影を背負って見辛いが、頬や耳が赤く染まっているのを期待して次の行動に移った。
壁に手をつく役目を与えていなかった方の手で大家さんの顎を指でクイっと持ち上げる。

No.3 顎クイ
しゃらくせえ☆好きな彼女の顎を指でクイっと持ち上げい☆話はそっからだ☆

後半もはや何を伝えたいのか理解に苦しむ。とりあえず、言われた通りにしてみたけど此処から如何すればいいのだろう。ちゃんと最後まで書いて欲しい。
僕が次に何をすればいいのか悩んでいる内に、大家さんが何かに気付いたのかひとり頷き、顎クイしている方の手を指で突き、掌を上に向ける形にするよう言われ、した。
「ほい」
結果、大家さんが僕の掌の上に顎を乗せ上目遣いで笑うという反撃を喰らい一気に首元まで熱くなってしまった。