racmon
2024-03-03 10:48:55
4027文字
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【SasaRo Spring Party】遅刻SS

春のささろ祭開催中に投稿したかったコンビ時代ささろ(未満)です



 『ガラパゴス・エイティーン』

 改札を足早に抜けた盧笙の足を止めさせ、簓は路線図を見上げた。馴染みのない駅名を数える。
「なんぼ?」
「分からん知らん。俺定期やもん」
 はよう、と足踏みをする盧笙に急かされて仕方なくICカードに500円をチャージした。簓の所持金はそろそろ1000円を切りそうだ。
「どんくらいで着くん?」
「30分くらい」
「まあまあやな」
 そう言ったわりにはあっという間に大学最寄り駅に到着し、はて、と簓は首を捻ったりした。もう少しでその理由に辿り着きそうになったとき、漂う甘い香りに思考をすり替えられた。
「わーなんか店出てるー」
 ベビーカステラがポコポコと飛ぶ様を見て、夕方のまかないを食べてから何も口にしていないことを思い出した。
「あらぁあかん。ルール守ってへんから」
 盧笙はきりりと眉を立て、『路上販売お断り』の張り紙を親指でさす。大変厳しい姿勢である。
「違法ベビカスか」
「違法ベビカスや」
 盧笙はずんずんと進む。簓はフンスと胸を張り、その後に続いた。店に群がる学生たちは、簓のその誇らしげな様子など知る由もない。
 キャンパスに着いてからは、張り紙一枚一枚にコメントをしていく簓を盧笙が引きずっていくなどのタイムロスもあったが、なんとかPCルームに辿り着いた。
「ありゃ、出来へんのか。クーリング・オフ」
 通信販売にはその制度はありませんと、インターネットにあっさり門前払いをくらった。費用は消費者負担の返品がいいところだ。
「いやぁすまんすまん。現社のキョーカショの、こぉんなちっこい枠でしか俺見たことなかったからなあ」
 それでも盧笙はキーワードを変え、電脳の海へと航海を試みる。どれもピンとくる記事ではないのか、頭を抱えたり、腕を組んだりしながらも、諦める気配はない。言い出しっぺのはずの簓はとうに飽きてしまって、だからと言ってなにか調べたいことがあるわけでもなく、唯一の娯楽である盧笙の観察をはじめることにした。
「どないかならんのか……
 眼鏡のレンズに反射する青い光と、その奥の虹彩をまじまじと見る。吸収された情報が脳に焼き付けられ、また盧笙の一部となっていく。
 さっきまでワルそうな格好で違法露店にガンをつけ、今は口車に乗せられて買ったキッチン用品を返品する術を探している。大学にきちんと通い、空いている時間でアルバイト。ガラケーが綺麗な状態なのは、ポケベルから機種変して間もないから。好物はプリン、怖いもの辛いものが苦手。簓と漫才コンビを組んでいる。
「ちょお、簓」
 うっすら目元に疲れが見える盧笙は、離れた先を指差した。
「コピーしたやつ、取ってきて」
 簓は言われるがまま立ち上がり、印刷が終わるのを待った。しかしいくら待てど、出てくるのは難しいグラフやら論文、数字にアルファベット。簓が普段触れないものばかりだ。
「クーリング・オフのん印刷した人ー?」
 どうやら誰かの印刷物に紛れ込んでしまっていたらしい。大声で紙をはためかせるその人から、簓はそそくさと受け取った。
「ちょお、めっちゃ恥ずかってんけど──」
 顔を仰ぎながら大袈裟に盧笙の元へ戻ると、数人に囲まれて姿が見えなくなっていた。話し声が聞こえる。
「ええ? つっつんまた騙されたん?」
「ちゃうって。ただの気の迷い」
「一緒みたいなもんやろぉ」
 簓が知らない人と交流する盧笙は貴重で、本来ならばここぞとばかりによく観察すべきだった。簓は一言二言の会話を聞くと、すぐに割って入った。
「盧笙、取ってきたで」
「おお、ありがとう」
「腹減ったし、食堂も行ってみたいわ俺」
 それだけ先に伝えると、簓は盧笙の友人と思しき人らと談笑した。内容は取るに足らない。盧笙が離席したのを確認し、ほなねと手を挙げる。あとをついて行って、それから振り返ることはなかった。

 まだ温かい弁当が入ったビニール袋の内側が汗をかいている。手持ち無沙汰に何度か覗き込みながら、簓は盧笙の隣に立ち、電車が来るのを待っている。向かいのホームに着いた電車から、たくさんの人が降りてきた。ぞろぞろと粘度の高い液体のように階段を流れていく。
「すごいな」
「ぼちぼち三限やろ」
「ああ、三限ね」
 記された最善の方法を熱心に読み込む、横顔。簓は目だけで盗み見た。ガラガラのホームに二人きり。同世代の人間とは反対方向の行き先。
「なんかええ解決策ないんか……
 衝動的に、盧笙が持つコピー紙を手持ちのネタ帳に差し替えた。タイトルは『カモネギ』。料理上手な鴨が、鴨鍋以外のネギを使った簡単レシピを山ほど知っているという内容だ。0コンマ何秒の世界、簓はその反応に構えた。
「いや、出し抜き方えぐいな!」
「出汁取らせんようにせなあかんからな!」
 なるほどな、と盧笙の肩が揺れる。
「もう諦めて元取ったろうや!」
 悩む盧笙にとって、それはもはや名案だった。そうと決まれば行動は早い。安いスーパーで野菜や肉を買い込み、片っ端からフードプロセッサーにかけた。冷凍保存もできて、なににでもサッと入れられる食材は、二人の間で大ヒットしたのだった。