racmon
2024-03-03 10:48:55
4027文字
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【SasaRo Spring Party】遅刻SS

春のささろ祭開催中に投稿したかったコンビ時代ささろ(未満)です

 簓はその日、嫌な胸騒ぎがしていた。バイトも当日欠勤しようか迷うほどだった。しかし金欠の日々にまたマイナスが出るのも、それはそれで心臓に悪い。いつもならのんびり人間観察でもしながら向かう集合場所まで、猛ダッシュをきめる。労働後の乳酸が溜まった脚にさらに負荷をかけるように、一段飛ばしで階段を駆け上がった。借りている合鍵を使って、部屋に転がり込む。日が昇りきらない空間に光はない。狭い部屋の真ん中に、簓の相方、盧笙はいた。
「おい……
 ひと足、いやもうとっくに遅かったのかも知れなかった。ゆっくりと振り向いた悲壮な表情。盧笙は腕になにかを抱えていた。
「簓、俺……
 簓は崩れるように駆け寄った。ある程度の重量と丸みのあるものが、ごろりとその手からこぼれる。
 簓はわずかに震える指先で、照明の紐を引いた。
……ついにやったか」
 ラグの上に転がっていたのは最新モデルのフードプロセッサー。コンパクトかつ、ビビットなビタミンカラーが目に嬉しい。物自体には、なんの罪もない。
 本人曰く、朝起きると届いていたのだという。昨夜のうちに玄関の前に置かれたようだ。一見すると怪しい荷物だが、何故これがこのウチにあるのか、簓は容易に想像ができた。肩を落とした家主は緩く首を振る。
「俺まったく覚えてへんねん」
 でも、と向けられたケータイの発信履歴には、簓とバイト先以外の番号が一件だけ挟まっていた。日時は一週間前の午前二時半頃。どうせお高いような物が今ならナントなお時間だ。
「打ち上げの後か……
 こくりと頷くだけの盧笙に呆れはすれど、責める気にはなれなかった。簓もその晩は気分が高揚しなかなか寝付けず、一度入った布団から這い出てコンビニへ走り、いつもと違う少し良いリングノートを買い、バラバラの紙切れに蓄えていたネタを夜通し書き写していた。さらに驚きの挿絵付きだ。アプローチこそ違えど、ハイになっていた。
 ごく小規模ではあるが、はじめての賞レースへの出場が決まったのだ。
「気が大きくなっていたんだと思います」
「でしょうなあ。別に欲しかったわけではないんやろ?」
「自炊せんやつがなにをみじん切ることがあんねん」
「と、今まさに自分に問うてたわけやな」
 また一つ、こくりとした。
「そういうのって、できるやろ」
「クーリング・オフ? 通販てできるん?」
「いや俺詳しないけど。電話して聞いてみたら?」
 簓のアドバイスにあまり乗り気でない、もしくは信用がないのか、盧笙はのろのろとした手つきでケータイをぱこっと開いた。神妙な空気の中、ボタンを押す音だけがパチパチと鳴る。
……話し中や」
 ため息が重なる。
「自分が買うたこと忘れてる奴ばっかりなんやわ」
「二万はでかい……
「それそんなすんの? まじで調べてみよや」
 とはいえ、二人が持つ文明の利器は、ほぼ前時代となりつつあるものだった。メールや電話、ちょっとした個人サイトを運営するには十分だが、調べ物には向かない。ノリで撮った照れ臭いツーショットプリクラを隠して貼るには、最適なアイテムだけれど。
「ええ加減俺ら機種変せなあかんで」
「これ返品できたらその金でするか」
 重い腰を上げ、むかうは盧笙が通う大学キャンパス。簓が潜入するのは初めてだった。
 黒ずくめにジッパー、スタッズ付き財布。白パーカーにジーンズ、トートバッグ。簓の方がいくらも大学生ルックで、おおよそ二回生くらいに見える。実際のところ、平たい荷物にはネタ帳しか入っていない。
「よし行くか」
「一応キャップも被ってこ」
 簓は目深に被って歯を見せる。なんぼのもんやねんと笑いながら二人は玄関を出た。