無窓居室
2023-11-09 20:43:57
6317文字
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タイッツーSS集

タイッツーに流したSSのまとめです。
内容は雑多で全年齢。時間があれば増やしていきたいです。



無題

(無ブラック単体)

「あなたなんかに私の気持ちはわからない」

 友達は──ぼくが友達だと思っていたひとは、そっけ無くそう言った。苦しみや悲しみそのものをぼくは恐れたのではなかった。そんなもので悪魔は死なない。でも、人間にはそれが気に入らないらしかった。

「私ほんとうはずっと傷ついてたのに、あなたはいつも楽しそう」

 ぼくはみんなが好きだったから、代われる嫌なことは全部代わってきたつもりだった。ぼくは悪魔だ。痛いのや辛いのは平気だ。みんなから引き受けて無かったことにしてしまえば楽しいことしかない世界になる。そんなふうに思っていた。

 ぼくを責める目をしているそのひとの前で、ぼくはこれまでに受け止めてきた痛みと苦しみを解放した。ぼくの体は一瞬で、スーパーで売っている細切れ肉みたいにバラバラになった。

 ほら、きみのために傷ついたよ。
 死ななくたって悪魔も悲しむんだよ。
 どうか昔みたいに喜んでよ。
 そうでなければ一緒に痛がってよ。

「やだ……なんなの?」

 でも、そのひとは眉を寄せて言い捨てただけだった。馬鹿にされたと思ったらしい。
 怒りですらない蔑みがぼくの好きだった目の色の中にあっただろう。靴を汚さないようにぼくを避けて歩き去っていく気配がした。肉が細かくなりすぎたせいで涙も出なかった。

 ぼくはみんなが好きで、みんなと楽しく過ごせるこの世界が好きで、その中にいられるなら苦しみも悲しみも何でもなかった。
 ぼくはみんなが好きなのに、誰もぼくを好きでいてくれない。そのことだけが怖かった。

 ぼくは悪魔だから、自分が何かを好きでいるだけでは満足できない。それは人間も同じみたいだった。みんないつしかぼくに、お金や、おもちゃや、車や時計や服や、才能や名声なんかを欲しがった。
 悪魔にはそんなものいらない。ただぼくの好きなひとにぼくを好きになってもらいたかった。ぼくとずっと楽しく遊んでいて欲しかった。だから契約して何でも叶えた。
 でも、無理なんだ。積み木の家はいつか崩れる。砂の城は流される。みんな最後には必ずこう言う。

「お前なんかと契約するんじゃなかった、この悪魔」

 結末を知っていてもぼくは契約をやめることができなかった。誰かに嫌われた寂しさは誰かに喜んでもらうことでしか埋められない。憎まれれば憎まれるほど僕はみんなを喜ばせようとし、自分が何をしているのか分からなくなっていった。

 肉が千切れる苦しみには耐えられても、寂しさにだけは耐えられない。ドキドキもワクワクも寂しさの始まりだと決まっているのに、何にも心動かされないことにはもっと耐え難いのはなぜだろう。どうしても我慢ができなくなったとき、ぼくはそもそも耐える必要がないことに気がついた。

 全ての感情を消して、やっと安らぎを感じることができた。ずっとずっと求め続けていた、終わらない喜びを実感した。

……でも、〝喜び〟って何だったっけ……


 2023/12/16