無窓居室
2023-11-09 20:43:57
6317文字
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タイッツーSS集

タイッツーに流したSSのまとめです。
内容は雑多で全年齢。時間があれば増やしていきたいです。



I Can't Stop ……

(ブラアカ)

「ほら、こうすると縫い目にそってたためるでしょう?」
「ほ、本当だ……魔法みたい」
「オレちゃん今は魔力もデビルツールも使ってませんけど。後は衣装箱へ入れて防虫すれば大丈夫です。念のためにこのたとう紙に包んでおくといいですね。あ、防虫剤を使うときには衣類に直接触れさせないように」

 浴衣をしまうブラックの手つきに、アカネはほとんど見惚れて溜息をついた。ブラックは愛用の黒い手袋を外しており、人間の男の手より滑らかな、しかし女のそれにはない力強さを持つ指が布の上をすべると、まるで浴衣の方が言うことを聞いているように綺麗に折りたたまれてしまう。アカネがたたもうとしたときは何度やってもずれて上手くいかなかったというのに。
 ブラックが作った、少なくとも選んだ浴衣だからかもしれないと内心アカネは思い、ならばこの浴衣はブラックからのプレゼントになることに考え至って頬を赤くした。たとう紙を透かして見える浴衣の柄の紅梅のように。

「どーしました?」
「い、いや!お着替えアプリで出した服だから、脱いだら消えるとかそんなのかと思ってた」
「オレちゃんアフターサービス付きのプレミアムプランに入ってるので。でもアカネさんがしまい方を知らなかったとは。洗濯板で洗濯物を破く人なのを思い出して来てみてよかったですよ」
「い、色々ごめん……

 勝ち誇ったように意地悪な笑顔でブラックが言う。アカネもさすがに一言もなく俯いた。視線の先の浴衣は桐の箱に収まっている。紅い花を微かに浮かせたまま。

「そういやさ、お着替えアプリは浴衣のデザインも選んでくれたの?」
「何パターンかの提案の中からオレちゃんが選びましたけど」
「そ、そっか……
「知りたいですか?何で梅の花を選んだか」
「えっ」

 話を変えようとしたところに踏み込まれてアカネは慌てたが、取り乱してまたからかわれるのも癪にさわる。何でもない風を装って「うん、まぁ、そういえば何で?」と答えた。鬼の尖った耳がぴくぴくと震えそうなほどにそばだてられているのは隠しきれていない。

「そうですね、まず蘭や芍薬、薔薇みたいな華美な柄はちょっと違うかなと……
「どうせアタシは梅こぶ茶とかが似合う地味な女だよ
「そうじゃないです。盛装ならどんな華やかな図案でもお似合いですが、夏の普段着にはちょっと暑苦しいでしょう?せっかく仲間内で気取らないお祭りに行ったので、アカネさんの素の魅力を引き出せるような、シンプルな定番柄が良いかと思ったんです」
「ぇ、あ、そ、そうだったの???」

 ブラックの最初の一言にがっかりしつつ、心のどこかで安堵もしていたアカネは、流暢に語られた口説き文句さながらの理由にあっけなく動転した。ブラックは構わず続ける。

「黒地で闇夜の梅、というのも粹ですが白地の方が雪の中で咲く花を思わせて涼やかですから。それに〝耐雪梅花麗〟って知ってます?」
「初めて聞く技名だな」
「カカカッ!!格闘マンガの必殺技じゃないですよ!いつか調べてみて下さい」

 いかにも愉快そうにブラックは笑った。甘い雰囲気から一転、釈然としない気分になったアカネに、さらに付け加える。

「ま、白い方が夜目に目立ってアカネさんが騒ぎを起こしたとき見つけやすそうなのもありましたけどね!」
「やっぱりそんな理由かよ!!」

 後はいつも通り。ひとしきり騒ぎ合った後にアカネが出してくれたお茶と雷おこしで一息入れる。流行りの動画や次の企画について語り合ううちに、すっかりいつもの調子に戻ったアカネは一人前のYouTuberの顔をしていた。



 梅は春を告げる花だ。辺りがどんなに深い雪でも、咲けばそこにはじきに春が来る。誰にも止められない。夏の夜にも秋の昼下がりにも、じきに春が来る。

……アナタと同じですね、誰にも止められない──)

 教えた動画を一心に見つめるアカネの横顔を、眺めながらブラックは声に出さず呟いた。

 春が来る。
 悪魔の胸の中にさえ。


 2023/11/05