鹿
2023-11-12 00:05:26
6088文字
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ちいさくてかわいいやつに影響されたやつ

煮付けきっかけで書き始めたのに煮付け要素が入れられなかったやつ


「ねえお爺さん、その伝説だけどさあ、男はどうして、人魚以外に助けてもらえなかったと思う? お爺さんの言う通り大手柄をあげた男なら、村の英雄ってやつじゃないの? どうしてあんな人気のない入江で、人魚が来るまで手当もされなかったんだろうねえ?」
「そもそも、隣村と争っていた理由については伝わってるの? はあ、わからない? はは、そうかそうか。じゃあ当然人魚はどこからやってきたかもわかんねえよな?」
…………僕が何か知ってるように見えるって? はあ、そう? いやいや。歳の割になあんにもわかっちゃいない半端もんだよ」
 そう語る男は目の下に濃く隈がしみついていた。ずっと笑っているのに、和かな印象はまるでない。多く見積もっても三十そこそこなのに、八〇年近く生きた自分を見透かしたような態度をとる。人と話し慣れた雰囲気があるのに、親しみやすいとはまるで思えない。矛盾した雰囲気の男だった。
「そうだよ、あの入江に用があるのさ。なんでって――思い出の土地、なんでね」
 自分は生まれてからずっとこの村に住んでいる。その自分にもまるで見覚えのない男が、軽く手を振って去っていくのを、ただ見送った。入江近くは足場が悪く、村の者でなければ難儀するものだ。だが案内をする気にはなれなかった。男はやたらと大きな箱を背負い、一抱えもある壺を持っているにも関わらず、軽々と歩いていく。だがそれが男を送っていかなかった理由ではない。
 ついていけば、殺されると思ったからだった。
 
 
 ――男が「人魚」に助けられる羽目になったのはね、そもそも男は村から疎まれてたからさ。低い身分のくせに下手に手柄を上げたせいで妬まれた? 村のお偉いさんは密かに和睦を進めてたのに、男が武断派を調子づかせた? まあ色々事情はあったんだろうね。今ならそう思えるよ。
 ――でももう、とっくの昔にどうでも良くなっちまったさ。とっくの昔に、ね。