この村の伝説? ええまあ、あるにはありますが。そうは言っても、口伝えで出所も定かでない、いい加減なものでございますよ。どこかの土地の有名な話を聞いたものが、適当に伝えるうちに、この土地の話ということになったのではないかと村の者は……それでも話してほしい? 変わったお方でいらっしゃいますね……
人魚の肉の話です。ご存知でしょう? 食べると不老不死になるという……昔々、この村の男がその肉を食べた、という話です。
男は実に勇ましく、近隣の村との諍いで大層手柄をあげていたそうです。しかしながら、危険を顧みないその性格が災いし、瀕死の傷を負ってこの海岸に倒れていたのだとか。そこに現れたのが人魚というわけです。
男は見目も大変麗しかったとも言われますな。まあこれはこの後の話とともに、後から加えられたものだと、私なんかは思っておりますがね。恋物語にした方が受けがいいと……ああすみません、話が逸れましたな。
人魚は男を助けたいと思い、自らその肉を切り取って捧げたのです。男の傷はみるみるうちに癒え、人魚は喜びました。
しかしながら、男は傷が治った途端、村に戻ると言い出したのです。まだ戦いは終わっていないはずだ、自分は戻って戦わねばならないと。人魚は悲しみました、どうしてあんなひどい傷を負うようなことをまたするのかと。
そしてまあ、この後の話がまた村の中でもまちまちで、いい加減でしてなあ……
曰く、結局男は戦いに戻った。人魚の肉のおかげで不死の肉体を手に入れた彼を、誰も傷つけることはかなわず、男は隣村を滅ぼした後は何処にか消えた。
曰く、男だって人魚を愛していた。村が平和になったら嫁として迎えるつもりだったが、その時には人魚はもう何処にか消えており、ひどく悔やんだ。
曰く、人魚は愛しさが転じて男を憎んだ。もう戦えぬようにと念入りにその身体を串刺しにし、岩に貼り付けた。
曰く、人魚の愛を失った男はその肉体に呪いがかかり、男の身体は不死のまま「できそこない」になった。なんでしょうね、このできそこないというのは。私もこの話を聞いた時は気になったのですが……結局、わかりませんでした。
まあこのように、話の落ちすらあいまいなものでしてね。そう面白いものでも……
「いやあ、ずいぶん面白かったですよ。そんな話になってたとはねえ」
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