らい
2016-04-11 22:45:23
7498文字
Public レオいず
 

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レオいず♀/瀬名女体化



 数珠繋ぎに形成された四輪車の列が、日曜日の道路を埋め尽くす。電柱に括りつけられた信号機が黄色に衣替えしたところで、車体は緩やかに速度を落とした。エンジンの作動音がゆっくりと呼吸を潜め、赤信号の点灯とともに、スピードメーターの針が左に落下していく。
 助手席の泉がふと隣を見やると、運転席のレオが「なぁんか今日、信号に引っ掛かりやすいなあ」と怪訝そうに前方を睨んでいる。泉が「そう?」と相槌を打つと、レオは人差し指でトントン、と律動を刻みながら、両手に握りしめたハンドルに上半身を倒した。


「今日は信号機とエンカウントするたびに、『止まれ』って真っ赤な圧力を掛けられてる気がする」
別に急いでるわけじゃないし、構わないけどねえ」


 唇の乾燥が気になって、クラッチバッグの中からリップクリームを取り出す。蜂蜜の香りがするそれは、ほんの少し前にレオから貰ったプレゼントである。先端を繰り出して唇に塗りながら、泉はレオのぼやきを受け止めた。


……あーあ。ざ~んねんむねん、またらいしゅ~。この調子だと、最短記録は狙えないなあ」
「はあ?最短記録?いったい何の話?」
「ここ一ヶ月ぐらい、ずっとタイムアタックに挑戦してるんだけどさあ」
「タイムアタック?」
「そう、タイムアタックしてんの。買い物の帰り、ショッピングモールから家にたどり着くまでの時間あるじゃん。それを、いかに短くできるのか!?……が、現在のおれの最先端のエンターテイメント!」
「へえ。最近やたらスピード出すなと思ったら、密かにそんなことして遊んでたわけ?」
「だぁって、普通に帰ったってつまんないじゃん?」
「小学生のガキんちょか」
「ガキんちょ~?まぁおれの誕生日は5/5のこどもの日だし、永遠の少年!すなわちピーターパン!だから、夢の国ネバーランドに免じて許してっ!わはは!」
「はいはい」


 週に1回はふたりで買い物に出かけるが、隣の運転手は車に乗るたび一人遊びを繰り広げていたらしい。真剣に運転している際の横顔は正直『かっこいい』ので―――本人には口が裂けても絶対に言ってやらないけれど―――何度も惚れ直していたのに。その仮面の裏側で謎のゲームに興じていたとは。泉はハア、と呆れた息を漏らした。
 リップクリームを鞄の中にしまい込み、前方に視線を戻すと、真正面の歩道に夫婦と手を繋いだ娘の三人家族、そして仲睦まじい男女のカップルが横切った。一般的には休日と呼ばれる曜日であるので、人通りの多さはさすがと言ったところだろうか。
 彼らが歩いてきた方角には、市内で最も規模の広い公園が見える。毎年、春が訪れると多くの家族連れやカップルで賑わう人気スポットである。春のそよ風に乗り、桜の木々が踊っている光景が見えた。


「桜かあ。そういえば、そーゆー時期だよなあ。……最後に桜を見に行ったのって、いつだっけ?」
「私は撮影で三日前に行ったばかりだけど。あんたは昨年、Knightsの皆で行ったっきりじゃない?」
「おおっ、もう一年も経ったのか!?おれはいつの間にデロリアンに乗ったんだ!?!」
「はいはい。……まぁ、確かにあっという間かもねえ。だって、あんたとの1年も―――


 そうか。一緒に暮らし初めてから、もう少しで1年が経つんだった。
 泉はごくりを唾を飲み込んで、運転席のレオを見る。レオはダッシュボード側に倒していた上半身を元の姿勢に戻すと、人懐こい八重歯を見せてフニャ、と笑った。


「桜、見てから帰る?」
「え?」
「決まりだな!」


 泉の返答を待たずに方向指示器のスイッチが押される。「また、そうやって。ひとりで勝手に決めるとか、チョ~うざぁい」とぼやいてみるけれど、カチカチ、と響き渡るウィンカー音は不思議と心地よい。信号機が青に変わる。レオが上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、アクセルを踏み込んだ。