「流れ星に何を願いたいの」
しんと冷えた静かな夜。星屑の海を切り裂いた一筋の光にあたしたちは白い息と感嘆の声をあげた。そう、そこまではよかった。
流れ星に三回願うと夢が叶う
――そんな迷信を頑なに信じるリューは流れ星探しに目の色を変えた。暗い夜道できょろきょろと空を見上げ、何度もあたしにぶつかり何かに蹴躓き
……とうとう足を止めることになった。
そこで冒頭の台詞である。仁王立ちに睨みつければ彼は「ごめんごめん」と全く悪びれることなく口角を上げた。
「あんな大きな流れ星初めて見たからさ、また流れないかなと思って」
「そんなに大きな流れ星でなくちゃ叶えられない夢なわけ?」
「そういうんじゃないんだ。アンと一緒ならもう一回見られそうっていうか、奇跡が起こりそうっていうか?」
「何言ってんの?」
半眼を閉じる。リューはたまに
――いや、いつもかもしれないけれど
――理解が及ばないことを言うので困る。できる限り寄り添いたい気持ちはあるもののリューをわかろうとするのはかなりの至難だ。
なのに向こうはこちらの懐にするりと入ってくる。どんなに不機嫌な顔を向けようが思い切り雷を落とそうが、リューの態度は変わることがなかった。時に嬉しそうな顔さえするからあたしの頭の中は疑問符で埋め尽くされていく。
どう思っているんだろう。
怒りっぽくて、思ったことはそのまま口にしてしまうあたしを不快に感じたりしないんだろうか。
いつの間にか心の奥に居着いてしまった彼を追い出せるわけはなく。かといって問いただせるはずもなく。
だからこのときもあたしはツンとあごを上げただけ。
「調子いいことばっかり言ってるんじゃないよ」
「嘘じゃないって。アンの隣にいると全てがいい方向に転がっていく気がするんだよね。だから大きな流れ星もきっと見られるし願いも叶う。明日は雲ひとつないお天気で、お茶のお菓子は林檎タルト!」
「
……料理人と要相談だね」
「アンからも一言頼むよ」
リューはへらりと相好を崩す。鼻を赤くしてまるで子どもだ。
それでも彼の隣は心地好くてあったかくて、世界は限りなく優しいのだった。
***
「流れ星に何を願いますか」で始まって、「世界は限りなく優しいのだった」で終わる物語。
〈アンリュー
……2020年4月23日〉
<目次> 1≫ウィルアデ
2≫セイカレ
4≫ジルフリ
5≫ユルマル
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.