ツキシキ
2023-07-01 21:49:42
10919文字
Public
 

★母なる湖は城を抱きまとめ

3作品。二次創作。


あなたに花は贈れない


ファンダム×サン。重い愛を抱えてるけど表には出さないファンダムの話。短編。
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 おや、と不思議に思ったのは、野花がファンダムの手に握られてからだった。
 小さな白い花弁がより集まってほころぶように咲いている。贈りものとしてはいささか主張が弱すぎて、髪に差すにも控えめ過ぎる。この花に似つかわしいのはそれこそ通りの外れの地であって、例えばふいに目を逸らした拍子、視界に入れば心も和らぐだろう。自然のままの素朴さが一番ぴたりとくる花だ。
 だから、それを何の考えなしに手折ってしまっている自分に、ファンダムは珍しく戸惑った。何か特別な所以があったわけでもない、そもそも名前も知らない花だ。自棄になって花を散らしたいなんて気持ちは勿論無かったし、愛らしさのあまり手元に置きたいなどという好意に満ちていたわけでもなかった。無意識と評するのがふさわしい。が、そんな曖昧な気持ちで最も似合う場所から引き剥がされたのだとすれば、この花も報われない。
 ファンダムが手持無沙汰に花を指先で軽く弾けば、茎の細さとは裏腹にしっかりとした抵抗でもって一揺れする。生気を訴えかけるような仕草に自分の手の身勝手さを感じて、ファンダムはまたほんの少しだけ申し訳なさを覚える。

 何かのついでで簡単に手折られてしまう花。本当はもっとたくさんの人に、愛でられるべきだった存在。
 戸惑い混じりだったファンダムの思考は、ふわりと一足飛びで別の花に辿りつく。

 あの人は愛されるために産まれてきた。ファンダムは大輪の花のように笑う彼女を見るたびいつも思う。
 彼らが育った所では、世辞とおべっかとごますりと、政治的な外交心、自身の地位の安定、昇進欲、あらゆる泥が塗りたくられている言葉ばかりが飛び交っていた。それでも多分、おそらくは、そうやって蔓延する言葉達の中に愛が一欠片も無かったと言えば嘘になるのだろう。無かったなどと断じてしまえばその時点で、ファンダムがサンの手を引いて走り出したことも、まるで崇高かつ美しい悲劇に転じてしまうのである。ファンダムにとってそれは望まぬ過剰な装飾だ。

 あるがままというのは存外稀少である。手を伸ばして触れようとするだけでも揺らいで見えるというのに、地位や思惑、親愛や正義感が混ざればなおのことだ。だから、ファンダムは、例え相手がサン本人であっても、過去のことをあまり積極的には話さない。ああするしかなかった、ということを確認し合うただそれだけでも、何か妙なねじれが起こってしまうように感じられてならないのだった。それが確認で済まされず、想いだの愛だのの話になればなおのことだ。
 そのままの気持ちをそのままの形で表に出すのは、息が詰まるほど難しい。少なくとも、ファンダムにとっては。だからこそ持てあました熱情が飛び火して、あれこれと飾りたて、手を変え品を変えてあちこちに向かうわけだが。

 今、その熱は、彼の右手に疼きとなって表れていた。何も考えず解き放てば火の玉がパンと弾けてしまうことだろう。魔力暴走などという大層なものではないが、制御がおろそかになっているのは確かだった。
 ファンダムは熱を逃がすように軽く腕を振る。熱こそ収まったが、その手に握られていた花はくたりと萎れかかっていた。これでは贈りものどころか半日活けておくのも難しい。
 花を見つめるファンダムの胸中は、先ほどまでの罪悪感はどこへやら、自分でも驚くほどに渇いていた。疼く腕が身体中から熱を奪い取って、収めたと同時に心まで冷え切ってしまったかのようだった。
 どれほど可憐であってもほんの少し気を抜いただけでこうなってしまうのだから。

 そこまで考えたところで、バタン! と激しい音がした。ギルドの扉が勢いよく開き、ファンダムには馴染み深い姿が顔をのぞかせるところだった。
 普段ならすぐさま近づくはずだったが、ファンダムの足は何故か動かず、代わりに引いたはずの疼きがまたぶり返した。何故、などと考える暇もなく、熱は瞬く間に集束する。

……あ」

 未練がましく手の内に握りしめていたそれは、もはや塵とも灰ともつかないものに成り果てていた。
 呆然とするファンダムに、遠くから声がかけられる。

「おまたせー!」

 聞き慣れた声にファンダムは条件反射的に言葉を返し、その裏で相手に見えないよう、ざらざらとした感触の残る掌を服の裾で拭った。一方サンは何がどうともつかないなりに違和感を覚え、訝しげに首を傾げはしたのだが、その手の誤魔化しにおいてはファンダムのほうが上だった。
 ゆえに話は横に逸れ、ファンダムの連想と熱情は塵屑に形を変え、余すところなくあらゆるものが、あるがままから移りゆく。渡そうと決意したその瞬間に、手にした花は枯れている。


 結局のところ、臣下は主に贈れるほどの高尚なものを持ち合わせていないのだった。




~END~