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ツキシキ
2023-07-01 21:49:42
10919文字
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★母なる湖は城を抱きまとめ
3作品。二次創作。
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月の吐息は軽やかに
ファンダムとサン。サンが家の者に襲われかけて逃げ出した直後の捏造。シリアス短編。
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月が輝く夜だった。夜空は確かに遠いのに、光ばかり近く見えるものだから、呑気に手など伸ばしてみたくなりもする。が、僕が注視すべきは頭上の濃黒でもなければ瞼裏の夢でもなく、木陰に潜む追っ手の有無だ。ましてや傍らの可憐な人の寝顔など見ている暇はとうてい無い。気になるのは山々だが手で探って相手を起こすわけにもいかず、僕は目をやりたくなるのをどうにか堪えて再び辺りへ目を凝らす。
身をひそめようと森に入ったは良いものの予想よりも木々はずっとまばらで、大きく伸びた枝と枝の合間から月光が僕らを指差すように覗きこんでいた。月の入りに合わせて少しずつ隠れ場所を移動してはいるものの完璧な闇夜には出会えない。逃避行にはどうにも似つかわしくない日だ。世界は存外僕らに都合が悪い形で回っている。
いっそ馬にでも乗って早駆けしたほうが懸命だったかもしれない。徒歩を選んだのは馬小屋に向かって見咎められるよりも迅速にその場を離れるほうが、という考えがあってのことだったけれど、思いのほか距離もろくに稼げないまま体力が尽きてしまった。まだ城の者は動いていないようだが、それにしても焦りばかりが募る。
サン様が健脚だったのは幸いか。むしろ僕のほうが先にへたれる様なのが問題だ。
「
……
」
聞こえていた寝息がふいに途切れる。隣で身じろぎする気配を感じて横目を向ければ、夜影に深みを増した蒼と目があった。
「まだ寝ていても大丈夫ですよ」
そう囁きかけたが、瞳の輝きは冷めないまま、幾分かはっきりとした声が返される。
「うん、でも目冴えちゃったから」
そう言ってサン様は身を起こす。いつもより浅い眠りではあったようだが、この状況を考えればむしろよく寝られたほうかもしれない。少なくとも、城を出たばかりの時の無理に押し出された快活さはなく、ピリピリとした痛々しさすら感じる虚勢も鳴りをひそめたようだ。
言葉の代わりに微笑んで返し、再び周囲へ警戒を強める。すると控えめな声で、
「交替する?」
と提案された。改めて夜空に目を向けて月の位置を確認する。場所を変えるには早そうだが、熟睡するほどの時間もなさそうだ。サン様も僕の挙動で答えがわかったらしく、改めて木の幹に身体を預ける。
「もう少しだけ休憩しよっか」
「はい」
風が無いせいか小声でも音がよく通る。状況さえ考えなければお喋りにでも興じて、隣の方を花開かせたいところでもあるのだが、それで余計な虫を呼び寄せてしまっては本末転倒だ。互いにそれを承知して口を閉ざす。
「
……
」
「
……
」
木々のざわめきすら聞こえないほどの静けさは代わりに人の心を五月蠅くさせる。自分の吐息が煩わしく感じるようだ。せめて身を縮めさせるくらいの寒気があったなら、二人で距離を詰めて心の震えを身体の震えだと言い訳して、ざわめく不安を溶かせたかもしれないというのに。
「私達、これからどうなるかな
……
」
耐えかねるかのようにサン様がぽつりと一言、零した。語尾が物憂げに小さく消える。
感傷深くなるのも当然のことではあるが、無鉄砲に駆け出すいつものサン様が失われてしまったかのようで、そしてその原因は明らかであるからいっそう、僕はもどかしさに自然と拳を作っていた。凝り固まった自分の指を引き剥がす。義憤を呼び起こせばサン様の事情をますます重苦しくさせることはわかっていた。
僕はことさら努力して頬を緩め、一呼吸で言った。
「どうとでもなりますよ」
明日の天気を話すようにありきたりな言葉が良い。軽薄で、無責任で、馬鹿らしくなるくらいがちょうど良い。弱気が伝染しないよう、口元を重くして息ができなくならないように。
「
……
うん」
答えになっていない僕の言葉に、それでもサン様はほんのりと唇を緩めて笑った。だからそれで、僕が今夜成したことは全て報われたのだった。これからの僕の在り方も。
解を裏付けるように、沈黙の中で月光がより清かにゆっくりと伸びていった。
~END~
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